第5話.洋館の令嬢からの依頼①
「色んなお金儲けの方法があるものね。あたしもテキトーにみんなが喜ぶようなこと言って、お金稼ごうかしら」
バイト先からサバト人生相談所へ戻った
「人間は誰しも、己に都合のよい情報のみを選び取り、
大机に肘を置いていた贄村は、真樹にそう尋ね、コーヒーカップを口に運んだ。
「もう来なくていいって言われたわ」
真樹は帰りにコンビニで買ってきたエクレアを、笑顔で口に入れた。
贄村はフッと笑いを漏らす。
「それならば、これに同行してもらおう」
贄村が一枚の封筒を取り出し、机の上に置いた。
真樹はソファーから腰を上げ、口内をモグモグと動かしながらそれを受け取る。
中に入っている便箋を広げた。
「まぁ、綺麗な字ね」
そこには小さく可憐ながらも、整った字が並んでいた。
『拝啓 贄村様
突然お手紙をお送りします失礼を、何卒お許しくださいませ。
我が家の悩みを相談できる方を探していたところ、ちょうど運良く先生のご高名をお聞きし、この方ならばわたくし達家族を救っていただけるのではないかと、すがる思いでご相談の依頼をさせていただきました。
わたくしの家族には、人様にお話しできない私事がございます。
にもかかわらずその隠し事は、いずれ世間様に多大な迷惑を掛ける恐ろしさを秘めており、多くの方の平穏な生活を脅かしてしまうかもしれません。
そのため、わたし達家族は、その問題に対しどのような選択をすればよいのか、よい知恵も浮かばず、胸を痛める日々を過ごしております。
この私事について詳しくお話しさせていただきたいのですが、お手紙だけではご説明するのが難しいものでございますので、直接先生にお会いして丁寧にお話をし、ご相談とアドバイスを賜りたく存じます。
ただ、なにぶんわたくしは体が弱く、遠出のできない身であります。
そこで、不躾なお願いではございますが、先生には拙宅までお越しいただけませんか。
是非とも快諾いただけますと、幸甚にございます。
よろしくお願いいたします。
敬具
そしてその手紙の最後には、彼女の家の住所と連絡先が添えられてあった。
真樹は読み終えると、手紙を贄村の机の上に、用済みとばかりに投げ捨てるように置いた。
手紙がすーっと、贄村の手元まで滑っていく。
「いまの時代に直筆のお手紙なんて珍しいわね。それで、これ行くの?」
真樹は口の周りのチョコレートを指で拭った。
「その秘密がどんなものなのか……、人間を知る上でも興味を惹かれた。万が一、くだらない相談であったとしても、時間を無駄にする以外、こちらにデメリットはないしな……」
贄村は机の上で指を組み、静かな声で言う。
「あたしもクビになって暇だしね」
真樹も贄村に向かって、賛同のウインクを送った。
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