第95話.終末を止めた世界①
それは即ち、贄村が変えようとしていた現在の世界を残す決断をしたと言うことである。
先導者達は元の生活に戻った。
神側の先導者である
だが、彼はそれほど悲観してはいなかった。
元々、退職したかった会社でもあったし、また、自身の恋人である悪魔側の先導者、
二人はこの度の終末騒動で、互いの絆がより固く結ばれた。
「終末を止める戦いに僕だけ参加できなかったよ」
純真が手を繋いで一緒に歩く舞に向かって微笑む。
「でも、参加しなくてよかったかもしれませんよ。相手はとっても気持ち悪いモンスターでしたから」
舞はクスッと笑った。
自らが粛清されてでも舞の気持ちを優先しようとした純真、好きな人を粛清し、また彼の愛情に背いたことをずっと悔やんでいた舞、二人は日常が元に戻ったお陰で、互いが相手への愛情を深め、安らぎとときめきの日々を過ごしていた。
同じく神の先導者、
勿論、父親には反対されたが、小咲芽思いの母親の協力のお陰で、一人暮らしの準備を整えることができた。
「この部屋にときどき遊びに来てええ?」
「もちろん! いつでもいらしてください。本当にありがとうございます、お姉さま」
小咲芽が折り目正しくお辞儀をした。
住居も聖音の力を借りて探し、小咲芽の母親が代理契約者となることで入居者の許可を得ることができた。
「それとわたくし、バイトが決まったんですよ」
小咲芽が段ボールから幾つもの本を取り出しながら知らせてきた。
「えーっ、小咲芽ちゃん大丈夫なん? 言うちゃ悪いけど、ずっと籠の中の鳥やったやん」
「だからこそ、世間の風に吹かれてみないとって思いまして。それにいつかは実家の手助けなしで暮らせるようにしないと、ずっとお父様から逃れられないような気がして」
南善寺家は富裕とはいえ、父親の呪縛から逃れる為、少しでも自分の力で生活をしたいと、小咲芽は以前聖音と行ったハンバーガーショップでバイトすることにした。
彼女も終末後の新世界とは違う、現在の世界で新たな生活が始まっていた。
もう一人、神の先導者はいる。
アイドルグループ「イエロースプリング43」のメンバーだった
彼女はグループのキャプテンである
グループは解散までに追い込まれた。
それでもアイドルの仕事が好きな百瀬は、事務所を離れ、小さな事務所に移り、ソロで活動を再スタートすることにした。
「今日は天気が悪い中、来てくれてありがとうございましたっ!」
強めの雨の中、小さな遊園地の営業にて、傘を差す数人の観客に、百瀬は髪を濡らし、声を張り上げて頭を下げた。
(また大きなステージに帰るんだから。わたし自身が終末になってたまるか!)
彼女は理想郷の新世界とは真逆の生活を、現在の世界で始めていた。
しかし、プライドを捨て新人アイドルのような活動をこなしてでも、以前と同じ人気を取り戻そうとする闘志は、内心で燃えていた。
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