第91話.裏返りの聖戦⑧

 もう一つの戦い、終末を監視する者と贄村囚にえむらしゅう並びに先導者達の戦闘は、贄村達が有利な状況となっていた。


 南善寺小咲芽なんぜんじこさめ奇能きのうである影の蛇が、終末を監視する者に巻きついて、その身体を縛り、動きを鈍らせていた。


 この機を狙い、緑門莉沙りょくもんりさはカブトムシに跳ね上げてもらい、勢いをつけて自身の肉弾で終末を監視する者に突撃しようと目論んでいた。


 だがそんな莉沙達を、終末を監視する者が嘲笑う。


「どこまでも愚かな駄作どもよ。こんな児戯にも等しい奇能で、私を倒す気でいるとは」


 そう言うと、終末を監視する者の目が強く光った。


 異次元空間が目映く照らされる。


「影よ、消えよ。永遠の闇へ」


 すると一転、先程までの明るさが消え、一切の光がない闇に空間が包まれた。


「これは!」

「何も見えない!」


 先導者達の慌てる声が漆黒の中に舞う。


「これにより影の蛇は闇へと消えた」


 終末を監視する者の声が聞こえると、続いて「きゃあ!」と小咲芽の悲鳴が聞こえた。


「ぐわっ!」と、鬼童院戒きどういんかいが叫ぶ声も聞こえる。


 さらに、ずめっ、ずめっと、何かがのたうち回る音も聞こえている。


 終末を監視する者が、影の蛇の縛りが解けた舌を振り回しているようだ。


 このままでは、いずれ一方的にやられてしまう……、莉沙はそう思い、姿の見えない砌百瀬みぎりももせに向けて叫んだ。


「ももせ! はやく私をカブトムシで打ち上げて!」


「えっ! こ、この真っ暗な中で!?」


「早く!」


 莉沙が闇で叫び、促す。


 次の瞬間、百瀬の奇能であるカブトムシが、莉沙を大きく跳ね上げた。


 上下左右、どれぐらい高く自身が打ち上げられたのかもわからない、一切の感覚が失われた闇の空間で、莉沙は己の勘だけを頼りに、どのあたりにいるのかわからない終末を監視する者へ向かって、宙から突撃していった。

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