第74話.キャンパス外の騒乱

 福地聖音ふくちきよね、即ち神の支持者と、夢城真樹ゆめしろまき、即ち悪魔の支持者との対立が、明導大学のキャンパス内だけで行われているわけではない。


 大学の周りでも二人の終末論を信じた人々が、理想の新世界でやり直したいと、声高にそれぞれを支持していた。


 当然、その支持者の中から過激な者も現れる。

 日頃溜まった鬱憤を晴らす為、終末論の正義を盾に暴徒と化して、街中を破壊して回っていた。


 大学でミスコンが行われている時間も、大学の敷地外では暴徒による暴挙が行われ、また悪魔の支持者が、対峙する神の支持者の集団に向かって火炎瓶を投げたり、金属バットを振り上げたりしていた。


「そこまでです!」


 悪魔側の暴徒の耳に、少女の可愛らしい怒鳴り声が聞こえた。


 一斉に声の方を見る。


 その声の主は、大学の塀の上にバランス良く立っている、面をつけた南善寺小咲芽なんぜんじこさめだった。


「なんだ、こいつ。着物着て般若の面なんかつけてるぜ!」


 暴徒達は小咲芽を指さして大笑いした。


「ふふふ、物を知らない人は哀れですね。これは般若ではなく、般若よりも更に怒りが増した真蛇しんじゃの面。あなた達に対するわたくしの気持ち」


 小咲芽はふわっと地に降り立つと、おもむろに面を外し、男達を睨む。


「おっ、可愛い子!」


 暴徒の男達は、小咲芽に馬鹿にしたような目を向け、はしゃいでいた。


「どうせ終末で世界は終わるんだし、こいつやっちゃおうぜ!」


 暴徒の中の一人が言った。


「やはり悪魔を信奉しているだけあって、性格まで醜いみたいですね。街中で狼藉を働くだけでなく、わたくしを襲おうとは」


 小咲芽は暴徒の男達をキッと睨むと、粛清しようと構えた。


 すると、今度は神の支持者側から、火炎瓶が小咲芽達の方へ飛んできた。


「きゃあ!」


 突然のことに小咲芽が悲鳴を上げる。


「そんな……。神さまを支持する人達がなんてことを!」


 小咲芽は神側の支持者に向かって、呼びかける。


「止めてください! 悪魔の支持者と同じことをしたら、同じ穴の狢ですよ!」


 だが、その声は届かないのか、神側の支持者から、続けてコンクリートブロックが飛んできてた。


 慌てて小咲芽は飛び退く。


 ブロックを避けた小咲芽に、暴徒の男がいきなり後ろから抱きついてきた。


「えっ!」


 小咲芽が振り向くと、ニヤつく男の顔が見える。


 力一杯抱きしめる男を振り解こうにも力が足りず、奇能を発現させようにも体が動かせないので操ることができない。


 そのうち、男の手が着物の衿の隙間へ強引に差し込まれ、胸の方へと伸びてきた。


 小咲芽の内に恐怖が湧いてきた次の瞬間、後ろから抱きついている男の感触が、すっと消えた。


 驚いて見ると、その男は大きなトラバサミに挟まれ、宙を舞っている。


 小咲芽が目で追うと、男はそのままスルスルと、神父のような姿をした大きな人形の開いた胸元へと消えていった。


「貴方は……!」


 男を粛清したのは、以前会ったラウンド型のサングラスにハットを被った悪魔の先導者だった。


 そして彼は、小咲芽が暴漢から救った鳳谷ほうやアリアが、悪魔のリーダー格だと言っていた男。


「な、なんだあれ? ばっ、化け物だ!」


 威勢の良かった悪魔の暴徒達がパニックを起こし、慌てふためいている。


「お嬢ちゃんよ、危ないからこういうことは大人に任せるもんだぜ」


 騒ぐ周囲を気にすることなく、ハットの男はヘラヘラ笑いながら、小咲芽に言った。


「……仲間割れですか?」


 若干、状況に混乱している小咲芽が彼に訊く。


 その瞬間、僅かに油断した小咲芽の隙をついて、彼の奇能であるトラバサミが小咲芽を掴み、宙へと持ち上げた。


「しまった!」


 焦る小咲芽。


 クレーンで釣り上げられたようになった小咲芽は、もがきながら「離しなさい!」と叫ぶ。


 そんな小咲芽を見て、ハットの男がニヤリと笑った。

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