第69話.暗雲の開戦①

 緑門莉沙りょくもんりさ砌百瀬みぎりももせは、莉沙の奇能、ストローマンにより、床から湧き出た藁で皿井菊美さらいきくみの足を固定し、その場から立ち去れないようにした。


 慌てふためく菊美を確認すると、二人はゆっくりと立ち上がった。


「わたし達を戦わせようとしてたみたいだけど、残念だったね」


 莉沙が菊美に告げる。


「リーダーだったのね……、夢城真樹ゆめしろまきのふりをしてわたしに近づいたのは。どうして……?」


 百瀬は悲しそうな声で訊く。


「くそっ、何で気づいたの……?」


 菊美は足に絡みついた藁を必死に引きちぎり、外そうとしている。


「まきちゃんの連れの人がおっちょこちょいでさ、控え室へ行くのにC棟とB棟を間違えてね。それでここに全員集合したらさ、百瀬とまきちゃんの会話が噛み合ってなかったから彼女に話を聞いたら、これがあなたが仕組んだことだってバレたってわけ。どうせミス明導の控え室を手配したのもあなた達だろうけど、万が一のために、せめて第二多目的室は外すべきだったね」


 莉沙はもがく菊美に冷淡に話す。


「くそっ、全くお前たちこの世界の連中は、つくづく無能ね……!」


 菊美は眉間に皺を寄せ、鬼の形相で莉沙達を睨む。


 だが、莉沙は怯むことなく言葉を続ける。


「さあ、全てしゃべってもらうよ。あなたは何者? 一体何を企んでるの?」


 莉沙は菊美に詰め寄った。


「リーダー、ほんとのこと教えて?」


 百瀬も自身がグループのリーダーに騙されていたことを知り、動揺しているようだ。


「……計画が狂ったわね。あなたなんかに話すわけないでしょ」


 菊美が睨んで凄んだ。


「もうこうなった以上あきらめなよ。でないとわたし、あなた消したいスイッチ入っちゃうよ」


 それでも莉沙は動揺することなく、腰に手を当て冷たい目で菊美を見下ろす。


 だが、菊美はふふふ、と笑い「動きを止めたぐらいで勝った気にならないで」と、莉沙達に言った。


 莉沙は嫌な予感がし、身構える。


「さあ、醒めなさい。胡蝶こちょうの夢!」


 菊美がそう唱えて両手を広げると、床からわっと無数の蝶が飛び出した。


「百瀬! 気をつけな!」


 莉沙は百瀬に呼びかける。


「う、うん! 姿を見せて、ビートル・イン・ザ・ボックス!」


 百瀬も慌てて、自身の奇能であるカブトムシを呼び出し、臨戦態勢を整えた。

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