第46話.箱の中の女(砌百瀬)②
わたしとキャプテンは、累のスキャンダルの元凶となったホストに会いに行くことにした。
ただ、マスク姿はまだ許せるとしても……、夜だというのに二人ともサングラス。
こんな女子が揃って立っていたら、かえって怪しくて目立つ気がする。
「さあ、行きましょ」
でもキャプテンは全然気にしてないみたいだけど。
「う、うん」
わたしはうなずいて、キャプテンについて行くことにした。
キャプテンが言うには、そのホストクラブの名前は「ファビュラス」。
そこの人気ナンバー4のホストで、源氏名が
それが
わたし、生まれて初めてホストクラブに入るんだけど……、大丈夫かな?
キャプテンは物怖じしないから平気そうだけど。
「ここよ」
そう言ってキャプテンは店を指さす。
そして、ためらうことなく店のドアを開けた。
わたしはそんなキャプテンの後ろをコソコソついて行く。
「いらっしゃいませ」
ドアを開けると、礼儀正しいホストの人が出迎えてくれた。
「当店は初めてでいらっしゃいますか?」
「は、はいっ!」
わたしは咄嗟に、マスク越しの籠った声で勢いよく返事して、コクコクうなずく。
受付の人は、親切に料金体系を説明してくれた。
わたし達は初回料金になって、安くて済むらしい。
わたしはお金、そんなに持ってるわけじゃないから、それは良かった。
わたし達はそのまま店内へと案内された。
大きなソファーにわたしとキャプテンは並んで座った。
気になったので、周りのお客さんの女の子を見ると、やっぱりみんな、オシャレな格好をした人ばかり。
一方、わたしとキャプテンはと言うと……、ふだんの私服と変わらない姿で来店してしまった。
何もかもが浮いている。
とりあえずこのままでは、店にいる人全員から不審者に思われるだろうから、さっとマスクとサングラスを外し、カバンにしまった。
「いらっしゃいませ」
ヘルプの人がおしぼりとホストのアルバムをわたし達のところへ持ってきてくれた。
この中からキャストをそれぞれ三人選んでください、だって。
アルバムを開くと、載ってる男性はやっぱりイケメンばかりだった。
ただ、わたしがここへ来た目的は、愛貴から累に対する話を聞くこと。
三人のうち一人は、この店のランキング四天王である愛貴を選ばなくちゃいけない。
これは絶対。
後の二人は……、顔で適当に選んだ。
キャプテンはと言うと……、なんだか楽しそうに目を輝かせて、自分の好みの人を三人選んでいた。
……って、愛貴選ばないのかよぉ。
ヘルプの人が丁寧におしぼりを渡してくれる。
お酒の注文を聞かれたけど、わたしはお酒が飲めないからソフトドリンクを頼むことにする。
一方、キャプテンはというと、チューハイを頼んでいた。
それにしても、すごい華やかな雰囲気。
そして王子様のようなホストの人たち。
これじゃ惹かれちゃうよね。
なんかハマる女の子の気持ちがわかる……気がする。
「いらっしゃいませ。よろしくお願いします」
しばらくしてさっき指名した男の子の一人がテーブルへ来てくれた。
丁寧に膝を折って名刺をくれる。
「隣、座ってもいいですか」
礼儀正しく、断りを入れてからわたしの隣に座った。
それから彼の方から、話題を振って盛り上げてくれた。
やっぱり女の子を良い気分にさせるプロだけあって、話すだけで会話が上手だった。
緊張していたわたしをほぐし、すごく楽しい気分に持ち上げてくれる。
でも、わたし達のこと芸能人って気づいていないのか、それとも気づいていないふりをしているのか、特にアイドルについての話題にはならなかった。
わたしはソフトドリンクを飲んでるから酔うことはないけど、キャプテンはというと……、もう出来上がっているのか、ホストの人と二人で大声ではしゃいで盛り上がっていた。
もう、キャプテン、何しにここへ来たのよ!
それから指名した男の子が順番に交代でわたし達のテーブルに来て、いよいよ目的の愛貴がテーブルにやって来た。
「いらっしゃいませ。愛貴です。よろしくお願いします」
さすがに見た目は笑顔が素敵なイケメン。
わたしは緊張で身を硬くする。
たぶん、愛貴の方からは累のことについては触れてこないだろう。
わたしの方から積極的に話を振って、彼に聞くっきゃない。
「あっ、あっ、あの……」
わたしは勇気を振り絞る。
「ん、なになに? 遠慮なくなんでも話してみて?」
愛貴は優しく笑う。
「あの、イエロースプリング43ってアイドルグループの累って……、知ってますよね?」
愛貴が少し驚いた顔を見せた。
「もしかして、姫様達、累ちゃんと同じアイドルグループの……」
「そうです。すみません」
わたしは思わず頭を下げる。
「まさか同じグループの人が店に来てくれるなんて。超光栄!」
愛貴はまた笑顔に戻って喜んだ。
わたしはてっきり謝ってもらえるのかと思ったけど。
「累とは、付き合ってたんですよね?」
累との交際が真剣なものだったのか、それとも遊びだったのか、わたしは確認する。
「うん。以前、プチ同窓会みたいなのやったんだけど、そのとき集まったメンバーの中に累がいてさ。実は僕、以前から累のファンで応援してたから、嬉しくなってすぐに声かけちゃったよ。そうしたら話してるうちに、累も僕のことを好きになってくれたみたいで」
「累は、その、男の人と交際したせいでバッシング受けて……」
「まさか今どき恋愛禁止なんて思ってもみなかったよ。古いよね。まあ、そのことを同窓会のときに言ってくれてたら僕も距離を置いたんだけど。累もそのルールを守れば、叩かれることはなかったのにね。でも大丈夫、安心して。僕はもう彼女と別れたから」
そう言って、愛貴はニコッと笑った。
「は、はぁ」
わたしは釈然としなかった。
相手の理屈に言いくるめられて、わたしが言い返さないものだから、なんだか累一人が悪いみたいになっちゃった。
わたしが情けないばっかりに。
もっと自分の言いたいこと、はっきり言えるようになりたい。
時間が来て、退店することになり、愛貴に送ってもらう。
「また会ってくれますか?」
何言ってんだろ、わたし。
「もちろんもちろん。ぜひ遊びに来て」
愛貴は笑顔を絶やさない。
酔ってるキャプテンはと言うと、送ってくれたお気に入りのホストと楽しそうにはしゃいでた。
わたしは何をしに今夜、ここへ来たのだろう。
週刊誌にスクープされるリスクまで冒して。
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