第43話.少女の報告
「やっぱりこさめちゃん、目立つな」
今日も以前と同じく、周囲の客が着物姿の小咲芽の方へ、チラチラと視線を送っている。
「はぁ」
しかし、小咲芽は自分が目立っているとは自覚していないようで、聖音の言葉に対し不思議そうな顔をしていた。
「まあ、気にせんといて。で、あの二人、どうやった? やっぱり純真さんの彼女は悪魔やった?」
小咲芽に調査報告を訊いてみる。
すると、小咲芽の顔がみるみる赤く染まっていった。
特に小咲芽は肌が白いので、余計にはっきりとわかる。
何故か、小咲芽は黙ったままだ。
「……こさめちゃん? どうしたん?」
聖音は心配になり、顔を覗き込むようにして尋ねてみる。
ちょっと間を置いてから、小咲芽がゆっくりと口を開いた。
「……男女というのは、睦まじい仲になったら、皆さんあのようなことをされるのですか」
「はあ?」
「いずれわたくしも、愛する男性の方ができれば、あのような恥ずかしい姿を……」
小咲芽が顔を紅潮させたまま、恥ずかしそうにぼそぼそしゃべる。
「ちょ、ちょっと、こさめちゃん、何を言ってるん?」
聖音は小咲芽の言葉の真意がわからない。
「あの、その……、純真さんと彼女の方が、お部屋で濃厚接触を……。わたくし、ああいったものを生まれて初めて見たもので……。そうしたら、なぜかわたくしも気持ちが昂って、その夜は眠れなくなってしまって……」
そこまで聞いて、やっと聖音は察した。
そして、しまったと思い、にわかに焦った。
「あっ、そうか。そうやね、恋人同士を見張ってたら、そーいう関係になって、あの行為を見ちゃうこともあるよね。はは……」
今更、小咲芽に二人の見張りを依頼したことを後悔しても遅いが、聖音はさすがに酷いことをしたと、彼女に申し訳なく思った。
「ごめん、こさめちゃん。うちの想像力不足で変なもの見せちゃって」
聖音はテーブルに手をつき、小咲芽に向かって頭を下げる。
「そんな、お姉さま、謝らないでください。あれは人が人として子孫を残していくために大切な行為。わたくしも両親によるあの行為によって、この世に生まれてくることができたのですから」
「なんか想像すると生々しいな、はは……」
聖音は体が熱くなってきたので、シェイクのストローに口をつけ、すすった。
「ところで、お姉さまに依頼していた件ですが」
小咲芽の方から話を元へ戻してくれた。
「あっ、そうそう、それそれ。どうやった?」
「やっぱり純真さんの彼女は……、悪魔側の人でした」
聖音の目がきりっと引き締まる。
「そうやったか。うちが睨んだ通りやね。他に何かおかしなことなかった?」
「実は、その彼女の方が悪魔だと知るきっかけになった出来事ですが……、その彼女の方、純真さんのお家を出た帰り道で、ある女の人と出会って話されてました」
「……どんな女やった?」
聖音は訊く。
「セミロングの髪に、小顔の女性でした」
「それ……、
聖音の声に力が篭った。
「あの方、夢城真樹さん……、とおっしゃるのですか? お姉さまの知っている方なのですね」
小咲芽は僅かに驚いた表情を見せた。
「おそらく。その女についてもっと詳しく教えて?」
聖音の質問に対し、小咲芽は話を続ける。
「そうですね、他に特徴と言えば、その女性は黒いワンピースを着ていて、スタイルも良く、そして街灯に照らされているお顔は、女性から見ても、とても可愛らしい方でした」
「そっか……。ほな、夢城真樹と違うか……。夢城真樹はな、いつも赤いベレー帽被って、ジト目でチンチクリンやねん」
「ただ、確かに純真さんの彼女の方は、出会ったときにその女性のことを、まきちゃん、って呼んでました」
「やっぱり夢城真樹やん! あいつはな、悪魔側の人間どころか悪魔そのものやねん。その純真さんの彼女が悪魔なら、二人でこっそり会ってても不思議やない」
「でも、その黒いワンピースの女性がおっしゃるには、あたしとあなたは初対面のはずよ、とのことでした」
「うーん……、ほな、夢城真樹と違うか……」
その人物が誰なのか聖音は考える。
黒いワンピースを着て夢城真樹に顔立ちが似た人物。
記憶を探れば、一人だけ思い当たる人物がいた。
「いや、まさかな……」
「お姉さま、どうされました?」
「一人だけ、その女性の特徴に当てはまる人がおるんやけど……、大体、アイドルが夜に一人で街中をウロウロしてるかな。たとえ出歩いてたとしても、悪魔側の人間に何の用なんやろ……?」
訝しく思いながらも、一応、後で
「そして、その二人が出会ってからのことですが、その黒いワンピースの女性と話していると、突然、彼女の方がひどく泣き崩れてしまって……」
小咲芽が異様だった二人の状況を伝える。
「えっ、泣き崩れた? 二人はどんな内容の話してた?」
「それが、はっきりとは聞き取れなかったのですが……、どうも学校の方を粛清したことを咎められて後悔してるような感じのお話だったような……。そして黒いワンピースの女性は、彼女の方に対して徹底的に悪魔になれ、と」
「うーん……」
聖音は再び考え込む。
その黒いワンピースの女は悪魔側の人間だろうか。
もし聖音の思い当たる人物が、その黒いワンピースの女なら、神の先導者である砌百瀬に、すでに近づいていることになる。
ただそのような存在については、所長である
聖音はなんだか得体の知れない不安に駆られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます