第41話.確認の抱擁※
ただ、この休日は心の底から楽しめるものではなかった。
先日出会った謎の女性が言っていた、舞が悪魔側の人間で、神側を罠に嵌めるために純真に近づいた言う言葉。
このことが気にかかり、楽しむことに集中できない。
もし、この舞との恋が偽りのものだとしたら。
だが、舞を信じたい気持ちもある。
「やっぱり楽しかったですね、ここ」
舞は笑顔で言う。
しかし謎の女性の言葉が頭を占め、純真は上の空だった。
「……純真さん? どうしたんですか? 今日はちょっと元気がない気がする」
舞は純真の変化に気づいたようだ。
心配そうな目で純真の顔を覗き込む。
「そう? 別に元気だよ。心配かけてごめん」
純真は空元気を出す。
「それなら良いけど。疲れてるのなら遠慮なく言ってくださいね。ところで晩ご飯はどこで食べて帰りましょうか?」
舞が食事について尋ねてきた。
純真はどうしても彼女の本心と正体を確かめたい。
そこでデート中に思いついた確認方法を、思い切って実行してみることにした。
「今夜は僕の部屋で晩ご飯食べない?」
舞に訊く。
「またカレーチャーハンですか?」
舞がクスッと笑った。
「料理は帰ってから決めるよ」
「そうですね、久々にお邪魔しようかな」
舞は断ることなく答えた。
第一段階はオーケーのようだ。
そのまま二人で、電車に乗って純真の家へと向かう。
車内での舞の表情は普段通り、優しく柔らかい表情だった。
それとは対象的に、純真は家に近づくに連れ、緊張と心臓の鼓動が高まってゆく。
純真の家に着くなり「お邪魔します」と、舞は躊躇うことなく部屋の中へ入った。
「この部屋に来るのも純真さんに助けてもらったとき以来ですね」
そう言って舞はベランダのガラス戸から夜の街を見ている。
いよいよ第二段階だ。
純真は爆発しそうな心臓を抑えつつ、純真は舞の肩を抱き寄せた。
もし舞の恋が偽りなら、好きでもない男に抱かれることはさすがに拒否するはず。
続けて彼女の顎を掴み、自分の方へと顔を向けさせた。
純真と舞が見つめ合う。
すると舞は静かに目と唇を閉じた。
杞憂だったのだろうか。
彼女は純真を受け入れてくれるようだ。
純真もそっと顔を舞の顔へと近づけた。
互いに呼吸を塞ぎ合う。
そして暫く抱擁すると、そのまま舞をベッドへと連れて行った。
舞をベッドに横たえる。
履いているジーンズを下ろすと、小さなリボンのついた黄色いショーツが露わになった。
舞は抵抗しない。
純真に流れを任せている。
よし、最後までこのままでいてくれ……、そうすれば舞の自分に対する気持ちは本物に違いない……、そう願いながら舞に触れていた時、純真ははたとその手を止めた。
大切なことを思い出したのだ。
「ごめん、コンドームがない……」
純真は呟くように舞に言った。
自宅に誘うのは、デート中に思いついたものだったため、事前に準備していなかった。
いくら舞の気持ちを確かめるためとは言え、不誠実な事はできない。
「大丈夫。わたしが一つだけ持ってます。いつ純真さんとそうなってもいいようにって」
そう言って、舞は自分の鞄からポーチを取り出して、コンドームを出した。
「これ一つだけですから、一回勝負ですよ」
舞は微笑む。
純真は自分の目が潤んでいるのを感じた。
舞はいつ抱かれてもいいと思ってくれていたなんて。
そんな舞を、見知らぬ女性なんかの言葉に惑わされて疑っていたなんて。
「電気を消して……」
舞が純真に請う。
そのまま、流れを途絶えさせることなく、舞を抱きしめた。
そして、謎の女性の言葉を打ち消すように、純真は互いの身体を打ち合わせた。
純真の体の下で、目を閉じている舞。
自分の全てを純真に委ねている舞。
そんな彼女の姿を見て純真は確信した。
舞が自分を裏切っているわけがない。
そして、あの謎の女性こそが悪魔で、自分達を罠にかけ混乱させようとしているのだと。
純真は、謎の女性の口車に乗せられて、舞を疑ったことを恥じた。
舞を信じ切る。
純真がそう心に誓った時、突然、舞の声のトーンが上がった。
それを合図に、純真も一気に昂り、そのまま果てた。
事後、純真はベッドで自分に寄り添う舞に「良かった?」と訊いてみた。
舞は微笑んで静かに頷く。
「純真さんはどうでしたか?」
そう尋ねてきた舞を、純真は静かに抱き寄せた。
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