第40話.見知らぬ女の忠告
交際開始してから、退勤後はほぼ毎日会っている。
「今度の日曜日、どこか遊びに行かない?」
「いいですね。どこに行きましょう? 」
「舞ちゃんの行きたいところでいいよ」
「えーと、じゃあ遊園地とかどうですか?
一度、話題のアマテラスランドへ行って見たかったんです。キャラクター可愛いですし」
「よし、そこに決まりだ!」
そんな恋人としてはたわいない会話を交わして、その日は駅で別れた。
仕事の疲れを舞の笑顔で癒してもらい、純真が気分良く帰り道を歩いていると、以前、舞が蹲っていた電柱のところに黒いワンピースを着た女性が立っている。
気にせず、通り過ぎようとすると「すみません」と、女性が純真に声をかけてきた。
道案内か、それとも何かの勧誘だろうか。
純真が彼女の方へと向き直る。
「はい、何でしょう?」
「あの、あなたにお伝えしたいことが……」
セミロングの髪の女性。
小顔の輪郭の中に目鼻が美しく配置されている。
客観的に見てとても可愛い。
舞という彼女がいるにもかかわらず、純真は思わずときめいてしまった。
「僕に伝えたいこと……? えっと、どちら様ですか?」
「すみません。あたしの立場上、名乗ることはできません。ただあなたの身に迫る危険を知らせておきたくて」
その女性は憂いを帯びた瞳で純真を見つめる。
「僕の……危険?」
これは只事ならぬことだ。
どういうことなのか是非聞いておきたい。
「僕に何かあるのですか……?」
純真は尋ねた。
「幸せな時間を壊すことになるかもしれませんので、大変言いにくいことなのですが……、最近交際を始められた恋人がいらっしゃいますよね」
「はい、いますけど……彼女が何か?」
「あの女性との交際は止めた方がいいです」
「ええっ!」
純真は思わず声を上げた。
見ず知らずの人間が何故?
この女性は舞とどのような関係なのだろうか。
「なぜですか? 彼女に何があるのですか?」
純真は若干、興奮気味に訊く。
「彼女は悪魔です」
女性は一言、そう答えた。
この言葉の意味は舞の性格が悪いということの例えだろうか。
それとも……。
「悪魔……とはどういうことですか?」
純真は恐る恐る訊く。
「あなた、神さまの先導者ですよね?」
謎の女性が言った。
純真の心臓の鼓動が一気に早まる。
彼女は何故そのことを知っているのだろう。
自分が先導者であることは、神である
あの二人が教えたのだろうか。
ということは、この女性も神側の人間?
「……どうして知っているのですか?」
純真は尋ねた。
だが、その質問には答えず、謎の女性は話を進めた。
「あなたの付き合っている女性、あの人はあなたを罠に嵌めるために、わざと近づいたのです。交際の始まり方が不自然だとは思いませんか」
ドキリとした。
純真自身も若干、舞に対する不自然さは感じていたからだ。
「確かに、突然、付き合ってくれませんかって告白してくるのはすごいと思うけど、彼女は僕の優しさに感激して惚れたって。それに最近、辛いことがあって、そこで僕と出会い癒されて、一緒にいたいと思ったって。別に世間でも初対面で交際を始めるって話、ざらにあるじゃないですか」
純真は謎の女性に弁明する。
「あなたは恋に浮かれて現実が見えなくなっているのです。そんな感情で動いていてはダメです。それこそあの子の思う壺です」
純真に、そう言い返した。
「そんな……。大体、見ず知らずの人にいきなりそんなこと言われても、信じるわけには……」
「見ず知らずだから言えるのです。知り合いならあなたの幸せを壊すのが心苦しく、また逆恨みされることを恐れ、伝えることを躊躇するでしょう」
「でも……」
純真は二の句が継げない。
「あの子はあなたに取り入り、あなた達、神の新世界創世を妨害するつもりです」
「僕に、彼女と別れろと言うのですか?」
「いいえ。彼女を粛清するのです。あなたのその奇能で」
「えっ、そんな……」
「何のために神はあなたに奇能を与えたと思うのですか。悪魔や悪魔を支持する新世界に相応しくない人間を粛清するためのものでしょう」
「でも……とても彼女が悪魔側の人間には……」
「ただ、いますぐ粛清すると、先導者が一人減り、悪魔も黙っていないでしょう。そうなると社会に何が起こるかわかりません。あたしが粛清の機会を作り連絡しますので、その時に彼女を。なお、このことは天園さん達には内緒にしておいた方がよいですよ。もし話すと、悪魔と交際してるなんて心配されますし、かと言って、別れさせるにもあなたの幸せを壊したくないと悩まれるでしょうし」
謎の女性は純真を見つめる。
純真はなんだか頭の中がかき混ぜられたように、酷く困惑した。
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