第27話.怨む女(緑門莉沙)①
わたしは綺麗事を怨んでいる。
「
「皆さん、命の価値は平等です」
「降ってる雨はいつかは止んで晴れるよ」
幼い頃、学校の先生達からそう教えられた。
小学生のときだ。
そのときはわたしも正しいと思った。
どうして正しいと思ったのか、理由はわからないけど。
先生が言うから正しいんだって、なんとなくそう思った。
でも自分が成長するに従って、そんな言葉と現実との間に、わたしの中で矛盾が現れてきた。
話し下手で人見知りのわたし。
大きくなったら変わらなきゃいけないかなって思って、中学生の頃、先生の教えに従うように友達をたくさん作った。
ためらいながらも自分から声をかけて、クラスで10人組の大きな女子グループの一員になったのだ。
でも仲間が多いと、そのぶん他人とのすれ違いも多くなるみたい。
グループも新学期の始めの頃はみんな同じ立ち位置で、メンバーのパワーバランスは均等だった。
でも一緒に過ごすうちに、時間とともにリーダー的な存在ができて。
今度はそのリーダーのご機嫌をとってぶら下がる子ができて。
でもそんなに器用な子ばかりじゃない。
リーダーにうまく取り入ることができない子もいて。
言うまでもなくわたしもそんな感じの子。
友達できたけど、あまりみんなとはつるまず、やっぱりふだんは我が道を行くって感じだった。
そんな子はリーダーに目をつけられた。
リーダーの気に入らない子はグループ内でのいじめのターゲット。
ほかのメンバーが楽しむ為のオモチャになるのだ。
でも、わたしはターゲットからは免れた。
私よりもおとなしい子がいて、その子がグループ内でのイジメのターゲットになったから。
イジメと言っても、彼女に直接暴力を振るったりするわけじゃない。
ちょっとイジるだけ。
そう、彼女はイジられキャラ。
彼女がいないところで、悪口言ったりバカにしたりする程度のもの。
彼女抜きのLINEグループもあった。
彼女が一緒にいてもメンバーが話しかけることはあまりなく、彼女自身も笑顔でみんなの話に頷いてるだけだった。
私は直接、彼女に陰で悪く言われてることを伝えた。
正義感とか、そんなんじゃない。
リーダー連中のやってることに対してウザいスイッチ入っただけ。
そして彼女にこうも言った。
「こんなグループにいてもくだらないよ。グループ抜けなよ。あの子達と無理に仲良くすることないよ」
すると想定外のことが起きた。
わたしが彼女にグループのメンバーが陰口言ってるって教えたことを、今度は彼女がリーダーにチクった。
彼女は仲間を失うよりも、グループに残ることを選んだ。
その仲間が見せかけで、自分の陰口を言っているとしても。
そうしたら、今度は免れたはずのわたしがターゲットになった。
あからさまに距離を置かれた。
学校で何かあっても誘われることはなくなった。
LINEのグループが知らない間になくなっていた。
きっと私の抜きの新しいグループが作られたに違いない。
わたしがクラスの大グループからハブられたことは、教室の全員に伝わったみたい。
そのうち、ほかのクラスメイトからも距離を置かれたから。
わたしはクラスで浮いた存在になった。
でも幸い、わたしは幼い頃から体育が好きで運動神経がよかったおかげで、きついいじめを受けることはなかった。
学校でひとりぼっち。
ほかに友達らしい友達はいない。
でも強がりと思われるかもしれないけど、わたしはそんなに辛くはなかった。
先天的に独りが好きだったのかもしれない。
ただ、先生の言うことって間違ってるんじゃないかって疑い始めたのはこの頃。
「友達をたくさん作ろうね」
言うとおりに友達をたくさん作ったらトラブルに巻き込まれた。
ほかの子の見たくない、汚れた性格も見えた。
先生の言うこと、わたしも正しいって思ってたけど『どうして正しいと思ったのか、理由がわからない』ってところに、成長したおかげで気づいただけ。
高校生になってもわたしは軽度の人間不振と重度の綺麗事不振を患ったままだった。
なので友達は積極的に作らなかった。
本当は陸上部に入りたかったけど、部内の仲間意識っていうのが鬱陶しそうなので止めた。
高校生のとき、さらにそんなわたしを綺麗事不振を加速させる出来事が起こった。
クラスメイトの女子のお母さんと妹が、交通事故で死んだのだ。
事故を起こした犯人は、飲酒運転で免停中だったにもかかわらず、またお酒を飲んで運転していたらしい。
ニュースでやってた。
それまで元気な子だったのに、その事故後、彼女は見るに堪えないぐらい弱っていた。
表情は冷たくなって、笑顔は消えた。
周りのみんなも励ましたりしていたけど、それでも彼女が以前の元気な姿を取り戻すことはなかった。
わたしが彼女の立場なら絶対に犯人を許せないし、許さない。
彼女は自ら望むことなく、わたしと同じ孤独になった。
そんな彼女を見て私は先生の言葉を思い出した。
「命の価値は平等です」
私には彼女のお母さんと妹と、それを轢き殺した犯人の命の価値が釣り合ってるとは思えなかった。
わたしの中に湧いた冷酷な疑問。
でもこの疑問を解氷してくれるような答えをくれる人は誰一人いなかった。
そんな鬱屈したわたしが、部屋で独りワォチューブでスポーツ系の動画を漁っていたとき、たまたまパルクールと出会った。
独りでひたすら障壁や困難と向き合うスポーツ。
誰のせいにもできない。
自分の目の前に実際にある障害物、つまり現実と私自身との勝負。
そんなスポーツにわたしはのめり込んだ。
独学で勉強して練習を始めた。
パルクールに向き合っているときは、競技以外のこと、学校生活とか現実のニュースとか、そんなのは忘れられて楽しかったから。
とは言っても、疑問はわたしの中にわだかまったまま。
高校三年間ではわたしの疑問に答えてくれる人はいなかった。
出会った大人達は小、中、高と大して変わらなかった。
これからの人生でも出会う人は変わらないだろう、わたしはそう思っていた。
でも大学生になったわたしに突如現れた道標。
それは学校の先生じゃない。
びっくりだけど自分の学校の後輩。
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