第19話.終末論の拡散
その動画は二人にとって忌々しいもの。
贄村は、この動画に感化される人間が増えることを危惧していた。
それはすなわち終末に向け、天園達から遅れを取るということ。
それほどこの動画は人々の耳目を集めるものであった。
喪服をイメージした黒の衣装が印象的なアイドルグループ「イエロースプリング43」の公式チャンネルを再生する。
『黄泉の国まで明るく照らす、私たちイエロースプリング43です!』
このグループのメンバーの一人、
『今日のイエスプチャンネルは砌百瀬がセンターを務めさせていただきまーす』
『イェーイ!!』
イエスプのメンバー一同から、掛け声と拍手が起きた。
『本日のトークテーマはっ!もし自分が神様になったらどんな世界を創る? でーす。いぇい!』
百瀬が話を切り出した。
『もし神様になって、自分の理想の世界を創れるとしたら、累ちゃんはどんな世界にする?』
メンバーの
『うーんと、色んなものがお菓子でできてる世界』
『めっちゃメルヘン!』
メンバー内から歓声が起きた。
『お菓子の家は無理だけど、でもいじめとか差別とか戦争とか、そういうのが無い世界がいいと思わない?』
百瀬が提案した。
『それだって無理じゃない?』
真樹に似た外見のグループのリーダー、
『それが無理じゃないんだな。例えば世界が思いやり溢れる心優しい人だけしかいなかったらどう?』
『ってか、そんな優しい人だけの世界のほうが無理くない?』
メンバーの
『じゃーん! そこで重大発表がありまーす!』
百瀬の声のトーンが一際大きくなった。
『実はそんな世界がもうすぐやって来るのです!』
『え? 百瀬、何言ってんの?』
『マジで、ヤバいヤバい!』
メンバーが笑いと戸惑いを交えてざわめく。
『みんなは知らないと思うけど、実は終末って呼ばれる、世界の終わりが近づいてるんですよ〜。いま、原因不明の行方不明事件が起きてるでしょ? 実はあれが終末が近づいてる証拠なんだよ』
『えっ、どういうこと? マジ怖い』
メンバーは反応に困っている様子。
ただリーダーの菊美だけは、他のメンバーとは違い、表情を崩さないでいる。
『終末が来るとどうなるの? みんな死んじゃうわけ?』
菊美が冷静に訊いた。
『ううん、みんな死んじゃうわけじゃないよ。助かる人もいる』
『どうやってわかるの? わたし助かる人?』
露が恐る恐る尋ねた。
『終末で助かる人にはある特徴がありまーす。それはズバリ! 最初に言ったけど心優しい人です!』
メンバー一同は驚きながらも頷く。
『そうなんだ。でも私、そんな良い人じゃないし』
露が言った。
『ううん、大丈夫。今からでも他人に優しくするように心掛けたら、それは優しい人だったってこと。つまり終末に生き残る人の証明になるんだよ。だって本当に心の冷たい人はこれだけわたしが言っても優しさを持ってないから、思いやりなんて発揮できないの』
『じゃ、私も今から他人に優しくできれば、生き残れる人かもしれないってこと?』
『もちろん!あれこれ理屈を捏ねる連中よりも優しい人! 思いやり、ボランティア、行動! さあこの動画を観てるみんなも、終末に生き残りたいなら自分の中に眠る優しさを目覚めさせるんだよ!』
百瀬はカメラ目線で不特定多数の視聴者に呼びかけた。
『ってか、百瀬、その話自分で作ったの?マジで面白い』
百瀬は熱く語るも、メンバーはまだ半信半疑のようだ。
『私が作ったんじゃないよ。黙示録に書かれてるの。終末が訪れるって。それで難しいことは省くけど、黙示録に乗ってる予言を解読したら、もうそろそろ起きる頃なの』
『起きるっていつ?』
『はっきり何月の何日かまではわからないけど……、今年中なのは間違いないよ』
その一言でまたメンバーが一斉に驚きの声を上げる。
『百瀬、マジヤバい!ってかこんなの公式チャンネルで言っちゃっていいの?』
累が焦りながら言う。
『もう! わたしの話、信じないとみんな終末で消えちゃうよ』
百瀬が腰に手を当てて頬を膨らませる。
『あたしは信じるよ』
リーダーの菊美が真顔でぽつりと言った。
『さすがリーダー!リーダーはきっと終末に生き残るよ』
『終末はきっと来ると思う。だって人間はみんな自分勝手になり過ぎたもの。だから終末を起こして一旦、世界をリセットして、新世界を創るチャンスが来るんだよ。みんなも終末の日まで、心の準備をして過ごしましましょ』
菊美はメンバーに呼びかける。
百瀬はグループ内に理解者がいて喜んでいるようだった。
贄村と真樹は動画から流れる情報を注意深く見守っていた。
「この百瀬って子があいつらの仲間に加わったのは厄介ね。アイドルって立場を利用して一気にエセ終末論拡散させてくるわよ。この子、あたしと同じ大学だから、なんとか活動を妨害するわ」
贄村の横で動画を観ていた真樹が伝える。
そんな真樹に、贄村は大机に肘置き、顔先で指を組んだまま、
「……
と真樹に向けて静かに言った。
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