第18話.学生アイドルの女

 学食での夢城真樹ゆめしろまきとのやりとりで、福地聖音ふくちきよねは苛立っていた。


 その苛立ちはどうやら第三者から見ても明らかなようだ。


「きよねっち〜、なに怒怒おこおこしてんの?」


 突然、甘い声に呼び止められた。


 声の方を見ると、そこには髪をツインテールにした可愛らしい女が、微笑みながら壁にもたれて立っている。


「あっ、ももせ」


 呼び止めたのは砌百瀬みぎりももせ


 真樹が緑門莉紗りょくもんりさ天象舞てんしょうまいをスカウトしたのと同じく、この明導大学で聖音がスカウトした神の先導者である。


 また彼女は現役大学生にして、有名なアイドルグループ「イエロースプリング43」のメンバーとしても活躍している。


「眉間にシワ寄せてっとさ、顔が老けて見えちゃうよ。きよねっち、せっかく整った綺麗な顔してんのにさ」


「な、ももせもそう思うやろ。それやのに、夢城真樹のアホが……」


 聖音は学食での顛末を話した。


「へぇ、それで怒ってんだ。きよねっち、かっわいー」


 話を聞いた百瀬は笑った。


「笑いごとちゃうで」


「でもさ、結局のところ美人の基準なんて人の好みでバラバラだから、きよねっちの思ってる美人とその実行委員の美人とは違うと思うよ」


「まぁ、それはそうやけど……」


「もしかしたら、その実行委員の男子は超ブス専で、多くの人が選ばないような顔が好きな蓼食い虫かもしれないし」


「まあ、うちとまきを比べて、まきを選ぶくらいやからありえるな」


「まあ、わたしは誰もが可愛いと思うアイドルですけど」


「自信家やね、ももせは」


「でもきよねっちがそんなにムカつくなら、なんならわたしが夢城真樹、粛清しちゃおうか? 『ビートルインザボックス』で」


 百瀬は不敵に微笑む。


「いや、まだええ。まきはバカやけど、力はあるからな。ももせでもそう簡単にやれるヤツちゃうで。それに直にあいつに喧嘩売るとアーマゲドン並みの大戦争になる。終末前にそんなんなったらツカサにも叱られるし。そやからミスコンで大勢の意見で公平に審査してもらって、はっきり決着つけることにしてん」


「へぇ、きよねっち、ミスコン出るんだ。ああいうのは嫌いなんじゃないの?」


「嫌やけど、まきに大恥かかせられるんやったら背に腹は変えられんわ。おっと、現役アイドルが参加するんは無しやで」


「出ないって。わたしはそーいうのには参加しないようにって、事務所から言われてるもん。わたしはアイドルという箱の中で生きるの」


「ただな、あのバカはうちに恐れをなして参加せぇへんって言うとうねん。なんとかミスコンの舞台に引きずり上げんと」


「それなら、こんな方法はどう?」


 百瀬は思いついたアイデアを聖音に伝えた。


「なるほど。無駄にプライド高くて挑発に弱いまきなら乗ってきそうやな。やってみよか」


 聖音は頷く。


「でしょ。わたしも手伝うし。それにきよねっちが優勝して、スピーチの場で終末のことについて話せば、新世界の協力者がいっぱいできるかも。それにまきの悔しがる姿も見れるし」


「まさに一石二鳥やね。ももせ、策士やわ」


「うんうん、それともう一つわたしが策士なところ見せてあげる。うちのグループのメンバーにもさ、少しずつ終末と新世界の話ししてるんだけど、だんだん興味持ってきてるみたいよ。タイミングが来たら、わたしもアイドルの立場を生かして、日本全国、ううん、全世界に情に溢れた新世界のこと発信してあげる」


「ほんまに! アイドルから言ってくれると影響力あるわ。きっと情に溢れた人が多く増えるやろうし。そしたら終末後の新世界創世のために働く人も増えるわ」


「でしょでしょ。特にキャプテンのきくみんなんてけっこー考えてるみたいだし」


「イエスプのキャプテンって、夢城真樹に似てる子やろ」


「そうね。だからといって別に親戚や姉妹じゃないし、他人の空似だけど」


「あんなのに顔が似てるなんて残念やけど、まあ、自分とそっくりなのが、うちらの味方って知ったらまきもたまらんやろうね」


 真樹の驚く間抜けな顔を想像すると、聖音は抑えられない笑いがこみ上げてきた。

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