第7話.猟犬の女(天象舞)②

 せいねんのしゅちょう……ゲーム?


 私を除く5人は盛り上がっていた。


 初めて聞く遊びの名前。

 どんなゲームか私だけ知らない。


「ちゃんと主張者選ぶカード作ってきたから。みんなルールわかるよね?」


 みんなは手を挙げて頷くけど、私だけが首を横に振る。


「あれ、舞ちゃん初めて? じゃあルール教えるね。まず最初に主張者を選ぶカードをそれぞれ引くんだ。当たった人が次に主張する質問の書かれたお題のカードを引く」


 ノリノリで男の子の一人が教えてくれる。


 そこまでは私も別にいいと思った。

 私が驚いたのはその次だった。


「主張者はそのお題の答えを、立って周りの人にも聞こえるように大声で主張するゲームさ」


 どういうこと?

 そんなことすれば……?


「それって周りの他のお客さんに迷惑じゃないかな……?」


 私が訊く。


「大丈夫、大丈夫。居酒屋って騒がしいし、周りの人たちも自分たちの話に夢中だし。盛り上がるぜ、やろうよ!」


 私の返事を聞くまでもなく、みんなが「賛成!」と始めてしまった。


「みんなも一問ずつお題考えて!」


 そう言って男の子の一人が真っ白な紙とペンを渡してきた。


 この場の空気に水を差すのは嫌だから、私も従うことにする。


 でも主張してほしい質問って何を書けばいいのかな?


 全然わからないし、みんな他人に見えないように書いてるから、どんなのを書いてるのか知ることもできない。


「あの、主張するお題って……」


「何でもいいよー」


 何でもいいと言われたので、とりあえず『今日のお昼ご飯は?』って質問にした。


 みんな書き終わると、その紙を折って用意された箱に入れて混ぜ合わせた。


「じゃあ一人目の主張行きまーす!」


 進行役の男の子が言う。


 それを合図でみんな、主張者を選ぶカードを引いた。


 わたしはハズレだった。


「げっ、俺が当たりかよ!」


 私の前の男の子が仰け反りながら言う。


「じゃあ、お題カード引いて! 内容は見せるなよ」


 主張カード引いた男の子は質問を見てニヤついていた。


 主張者に選ばれた男の子は、コホンと咳払いをするとその場で立ち上がり、


「みんなに聞いてほしいことがありまーす!」


 声をを張り上げた。


「どーしたのー?」


 私を除いた五人が相槌を打つ。


「今日の俺のパンツの色は、ネイビーでーす!」


 それを聞いた他の五人が大笑いした。


 主張者の男の子は笑いながら席に着き、


「男のパンツの色聞いてどうすんだよ。この質問お前だろ」


 と言いながら、隣の男の子を小突いた。


「次、二人目行こうぜ!」


「賛成!」


 次の主張者は郷美だった。


「え〜、マジ!」


 と言いながら、主張カードを引く。


 質問カードを見た郷美は少し吹き出した。


 郷美も同じようにその場に立つと、


「みんなに聞いてほしいことがありまーす!」


 と大きな声を出した。


「どーしたのー?」


「私の今日のお昼ご飯は、学食の照り焼きチキン定食でーす!」


 郷美がそう叫ぶと、みんなが笑った。


「なに、この可愛い主張!」


 男の子の一人が言う。


「これって舞が書いたお題?」


 郷美に聞かれたので、私は頷く。


「変な質問じゃなくて助かったぁ。ありがとね」


 郷美は微笑む。


「舞ちゃんらしくていいね!」


 私の前の男の子が言った。


「じゃあ、三人目!」


 三回戦が始まる。


 みんなが主張者を選ぶカードを引く。


 私はそのカードを見て体を強張らせた。


 カードにマルが書かれている。


 とうとう私が主張者に当たったみたい。


「次、誰?」


 と聞かれたので、私は小さく手をあげた。


「じゃあ舞ちゃん、お題のカードを引いて?」


 私は一枚選んだ。


 恐る恐る折った紙を開いて見てみる。


 そこには書かれていたのは……ありえない質問。


『今までのエッチの経験人数』

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