第2話

「もっと肩の力抜いたら?」


先輩が僕の目を見て言ってくれた、初めての言葉である。


* * *


僕が抱えていた絵は、蓮の葉が散りばめられた池の絵である。

もちろんモネの『睡蓮』に影響を受けたものである。

先輩は僕の絵をこう論評した。


「真面目だね。手抜きが見られない。一筆一筆、正確なタッチで描かれている」


「先生受けは良いだろう。ただ、遊びが無いとも言える。遊びがない絵は見る者に押し付けがましい印象を与える気もするな。これが正解なんだ、っていう」


そして先輩は、僕の目を見て言った。


「――もっと肩の力抜いたら?」


僕の絵は今まで「上手だね〜」ぐらいしか言われたことがなかった。

こんなにきちんと、そして長々と論評されるのは初めてだったので、しばし呆然とした。

それから、なんとか口を開いた。


「は、はい、すみません」


うん、まぁ、真面目なのもいいんだけどね、と先輩は嘯くと、するすると自分のキャンバスの前に戻っていった。


それは老婆の顔の絵だった。

繊細なタッチで皺が描かれ、口は、キリ、と引き結ばれている。

眼はまだ描かれていない。


「眼は最後に入れるんだ。大仏と同じ」


僕がキャンバスを覗き込んでいるのを見て、先輩が手短に話す。


「とりあえず、何か描いたら?」

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僕と先輩の奇妙な関係 @hupiro

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