僕と先輩の奇妙な関係
@hupiro
第1話
僕の先輩の話をしようと思う。
もう、二度と会えない、先輩の話を。
* * *
4月。春。大学生。
僕は絵を描くのが好きだ。
自己表現の最たるもの、という感じがする。
キャンバスと向き合うとき、僕は自分自身とも向き合っている。
なんというか、その感覚を大切にしたいのだ。
それで僕は美術部の部室の前までやって来た。
思い切って、ドアを開ける。
窓から桜の花びらが舞い散る中に、長い黒髪をたなびかせる細身の女性と目が合った。
可愛らしい人だな、とは思ったが、特にそれ以上は何も感じなかった。
部員かな。新入生ではなさそうだ。
「えっと、入部希望を……」
その女性は、僕の差し出した入部届にはなんの興味も示さなかった。
否、目があったと思ったのは僕だけで、出会ったばかりの彼女は僕自身には興味がなかったのかもしれない。
僕が脇に抱えている絵を覗き込み、「色数が」などとぶつぶつと呟いている。
絵のことしか考えていない、見えていない。
職人気質だな、と思った。
同時に、僕の顔を見てくれない寂しさもちくりと胸を刺した。
思えば、僕はこの時から彼女に特別なこだわりを持っていたのかもしれない。
――その女性がふと顔を上げて何かを言いかけたので、
「佐藤です」と慌てて名乗った。
「ああ、佐藤くんか。随分水色が好きなんだね。あ、入部届は顧問に出しといて」
そう矢継ぎ早に言いながらも、彼女はまた目線を落とし、絵を本格的に分析し始めた。
それが、先輩との出会いだった。
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