劣等の森妖精と優等の守人

プロローグ

『魔法学園の大罪魔術師』の二巻、7/30発売です!!!


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 別に、難しい話じゃなかった。


 少女はただ「強くなりたい」と願っただけ。

 強くなれば、親しくなった皆と同じ立場で立てると信じたから。

 強くなれば、好きな人の横に並べると思ったから。


 だけど、強くなるにはという疑問に対して、どうすればいいのかという答えが浮かんでこなかった。


 考えても考えても、ただ『鍛錬』という言葉しか浮かんでこない。


 学園にいれば、自分より実力が上である講師から教えてもらうことができる。

 だけど、それは今でもしている――――このままじゃ、届かない。


 同じ歩幅で歩いていてもダメ。

 皆とは違う方向を歩いていかないと、抜きんでた才能には並べやしない。


 では、どうすればいいのか?


 別に、難しい話じゃなかった。


 だって――――


「皆と同じ環境にいるからダメなんだ……」


 皆と同じ環境で鍛えても、皆と同じスピードでしか成長できない。

 皆と同じ環境で学んでも、皆と同じ知識しか得られない。


 それに、皆と一緒にいてしまえば――――劣等感に苛まれてしまう。


 まるで大きな月のように。

 どれだけ手を伸ばしても、月の光には届かない。


 ならば、環境を変えてしまえばいいじゃないか。

 学べる環境を捨てて、もっと力の得られる環境へと身を投じれば、皆とは違うスピードで成長ができる。


 そうなれば……並びたてる日も、そう遠くないに違いない。


「私は、早く皆に追いつきたいんだ……」


 一人、月明かりの差し込む庭園で呟きを残す。

 煌びやかな金髪は月明かりに照らされ、余計に輝きを増していた。

 薄暗い中に見えるのは、特徴的な長い耳。そして、決意と悲壮感を滲ませる整った顔立ちであった。


「……ここに来る前は、そんなこと思わなかったのになぁ」


 外の世界が見てみたくて。

 狭い箱庭から飛び出してみたくて。

 少しでも多くの見聞を広げたくて。


 強くなろうとは思っていなかった。

 学び舎に来たのも、見聞を広めるための情報が集まっているからで、強くなろうと言った固執した気持ちは持ち合わせていなかった。


 だけど、彼らと出会ったことで———


(今はこんな気持ちだよ……)


 少女は庭園に咲いた花をかがみながら優しくめでる。

 その花は他の植物よりも小さく、どこかはかなげに見えた。


 少しばかりの感情輸入。

 少女は、その花に自分を重ねてしまう。


「お父さん、お母さん……そっちに戻ったら、強くなれるよね?」


 だけど少女は、名残惜しそうにその小さな花を手放した。


「もう、ここにいても意味がないよね……」


 そのまま少女は立ち上がり、庭園を後にする。

 最後に残した呟きが、庭園全体に広がっていった。


「私、この学園をやめるね」

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