エピローグⅡ
『魔法学園の大罪魔術師』の二巻、7/30発売です!!!
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(……ユリスくんがどんどん遠くに行っちゃうなぁ)
談笑の輪の中、ミラベルはふとユリスの顔を見て思う。
セシリアが近づいて問答無用で膝の上に座り、ユリスが苦笑しながらも優しい顔を向け、ティナとリカードが微笑ましそうに眺める。
この光景だけを見れば、ごく普通の光景のように思える。
食堂という場所でする騒がしさではないと思うが、これこそ日常の一幕として表現するのがベスト。
あれだけのことがあってもなお、このような光景が見られるのだから、結局のところは物語として『平和』という言葉で締めくくられるのが必然だと言っているようにも見える。
ミラベルもそのうちの一人、一役として登場したからこそ、この光景の中にいられるのだ。
けど、と。ミラベルは考えてしまう。
(私だけ……何にも持ってない)
振り返り、ミラベルは自分と皆を頭で比べてしまう。
セシリアは聖女としての特別な役割持っている。
アナスタシアは、厄愛の魔女の特別な力を身に宿している。
ティナは超級魔法を扱えるほどの才能を持っている。
リカードは、単身で英雄と渡り合えるほどの近接戦闘を有している。
では、自分は?
特別な何かを持っているのか?
この談笑の中で、自分は皆と並び立てるほどの力を持っているのだろうか?
さらに、届きもしない場所へ────
(ユリスくん……)
想いを寄せる少年が行ってしまった。
大罪という魔術を身につけ、今回の一件で人間とは違う魔族の体を手にしてしまった少年。
立場も、学園を卒業してしまえば貴族のトップクラスに立つことになる。
実力は言わずもがな。
ミラベルとでは、すでに雲泥の差となりつつある。
(いやだなぁ……)
ミラベルは少し陰りを見せながら、少し離れた椅子へと腰を下ろした。
改めて現実を己に突き詰めてしまったからこそ、どうしようもなく輪に入る気持ちではなくなってしまったのだ。
「どうかしたの、ミラベル?」
すると、傍から見ていたアナスタシアがそんなミラベルに声をかけた。
「ううん、別になんでもないよ」
心配かけまいと、ミラベルは首を横に振る。
アナスタシアは怪訝そうに眉を顰めるが、それ以上は追求しなかった。
その代わり、別の言葉がアナスタシアの口から零れる。
「……改めて、悪かったわね」
「何のことかな?」
「私があなたに剣を向けたことよ。それを……ちゃんと謝っておきたかったの」
先の一件。
アナスタシアと直接対峙したのはミラベルだ。
結果として、アナスタシアはミラベルに負けてしまったのだが、自分が傷つけられたことよりも友人に剣を向けたことを後悔していた。
それが如実に分かるかのように、アナスタシアの顔には罪悪感が浮かんでいる。
「私だって、アナスタシアちゃんを殴っちゃったし……お互い様だよ」
「それはそうなんだけど……」
「それに、私の方こそごめんね? 不意打ちみたいな真似してアナスタシアを気絶させちゃった……」
その言葉を口にして、ミラベルは胸が痛んだ。
友を傷つけたこと。そして────不意打ちでなければ倒せなかったことに。
まともにやり合っていればどうだっただろうか?
それが余計にも、差を見せつけられたように感じてしまう。
「私は気にしてないわ」
「なら、お互い様だね」
「……そうね」
そう言い切ると、二人は和やかな空気が流れている光景に目を向ける。
そこはいつの間にか、リカードとユリスが腕を組んで腕相撲を始めており、ティナとセシリアがユリスを応援している光景が広がっていた。
そんな光景に目を向けていたアナスタシアが、ボソリと呟く。
「……一応、私は私の想いがあってミラベルに剣を向けた」
ミラベルの顔を見ることもなく呟かれた言葉に、ミラベルは思わず顔を向けた。
「それでも、私は友人に剣を向けたことを後悔しているの。例えお互い様で、譲れないものがあったとしても」
「アナスタシアちゃん……」
「だから────」
カラン、と。ミラベルの目の前に置かれたグラスの氷が落ちる。
「あなたが悩んでいるようなら……私は、最大限協力するし相談に乗るわ」
「ッ!?」
ミラベルの肩が跳ねる。
口にしてもない己の気持ちが見透かされたことに、顔に出ていたことに、驚きを隠しきれなかった。
そして、────激しく嫉妬してしまった。
「うん……ありがとう、アナスタシアちゃん」
こうして、自分を気遣う言葉が出てくるから……自分とは違うから、ユリスに選ばれたのだろうか?
それとも、特別な力が備わっているから選ばれたのか?
はたまた、ユリスとの深い過去があったからなのか?
いずれにせよ────
(嫌いだよ……)
こんな嫉妬を友人に向けてしまう自分を。
握りしめてシワが寄ってしなったスカートが、嫉妬の強さを現しているようで気持ち悪くなった。
嫌悪という言葉が、ミラベルに向けられる。
向けている相手は、己自身。
「強く、なりたいなぁ……」
だからこそ、そんな呟きが零れてしまう。
その呟きを聞いて、アナスタシアは心配そうにミラベルを見るのであった。
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