アイラVSセシリア、ミカエラ②
女神を降ろすという行為自体、珍しいものであるというのは先に述べておく。
それは誰よりも深く女神と関係を持たなければならないという前提と、己の体質によって左右されてしまうため適合者が少ないからだ。
そんな中、セシリアという少女は適合者となり得た。
聖女という女神の恩恵を賜っているからこそ、女神と深い繋がりが生まれてしまったが故。
あとは……運がよかったのである。
だが、それは本人にとって喜ばしいものとは限らない。
「ミカエラ、合わせなさい」
「あいあいさ〜」
吹き飛んでいったアイラに向かってセシリアの体を使用している女神が肉薄する。
そのサイド────女神と合わせるように、ミカエラも同じようにメイスを携えて突貫していった。
「ん、胸踊る」
アイラはそんな二人を見て笑みを浮かべた。
そして、足を一歩踏み出すと足元に大きな魔法陣が出現する。
「煉獄、業火────悪食」
数多もの赤黒い体をした獣が魔法陣より浮上、ミカエラと女神に向かって襲いかかった。
しかし、女神は足を止めずそのままアイラに向かっていく。
「私の役目はぁ〜、女神様とセシリアちゃんをお守りすることぉ〜♪」
ミカエラが女神の前を走る。
迫り来る獣に対しメイスを振り下ろしながら、女神の活路を開いていくが、数多の獣の口は避けきれず、ところどころを食い破られていく。
しかし────
「あの吸血鬼といい……ほんと、気持ち悪い」
「あはっ☆」
不死────とまではいかないミカエラの回復力が、食いちぎられる肉片を復元していく。
ミカエラの体質と女神の恩恵があってこその肉壁。そこに躊躇も恐怖も浮かべないのは、流石は武を極めた聖女といったところだろう。
活路が開かれ、女神がアイラの懐へと潜り込む。
そして、華奢な体を無理やり捻りながら横っ腹へと蹴りを放った。
「っ!?」
腕のカバーが間に合わなかったアイラの表情が歪む。
ミュゼやユリスがどれだけアイラを殴ろうとも歪ませることのできなかった顔が初めて、苦悶のものとなった。
(おかしい……そんなに力が強いわけじゃないのに)
魔族の体は頑丈で有名である。
それは種族体質が違うからの一言に尽きるのだが、アイラはその中でも郡を抜いている体質の持ち主だ。
並大抵の力ではアイラに傷をつけることすら叶わない。
しかし、横っ腹に走る痛みは何なのか? アイラの頭に疑問が浮かぶ。
「私は女神ですよ? あなた達魔族を滅するがための存在です」
「そういうこと……っ!」
女神の一言によって、アイラは納得したような言葉を上げる。
(聖の魔力は魔族にとって天敵……だけど、聖女ぐらいの存在であれば私には効かない。それでも効いたのは、単純に女神が相手だから)
アイラは目の前にいる女神に向かって拳を振り下ろす。
だが、その拳は鈍器のようなもので弾かれてしまった。
「お姉ちゃんを忘れちゃダメなんだぞ〜?」
獣の群れから戻ってきたミカエラ。
それが、アイラの攻撃を阻んでいく。
弾かれたことによって生まれた隙に、女神がアイラの顔に拳をぶつける。
大きく仰け反ってしまったアイラはすかさず女神に向かって足を振り上げるが、またしてもミカエラのメイスによって弾かれてしまう。
さらに、女神が拳を胴体に叩き込む。
防ごうと手を構えるが、ミカエラがその手を払い除け、胴体に拳がめり込んでいく。
「うっ、とうしいっ」
アイラの苛立ちが募る。
攻撃は阻まれ、己だけが攻撃を食らう。
流石の連携だとは思うのだが、それでも称賛する前に不快さが先に来てしまう。
「先にお前っ!」
アイラが手を翳し、絢爛と光る黒炎をミカエラに向かる。
だけど────
「聖絶」
女神が黒炎に触れると、白い光によって包み込まれ小さな球状へと変貌してしまった。
アイラの表情が驚愕に染まる。
その隙に、ミカエラはメイスの先端でアイラの顎を弾いた。
「折角の機会です────このまま魔王の娘を滅しておきましょう」
「はいは〜い! 賛成〜♪」
女神が叩き、時にミカエラがアイラの動きを封じる。そして、また叩く。
そんな攻防。あの魔族の姫が猛攻によって一方的に叩き込まれるだけの時間になってしまった。
「……っ!」
アイラはそれでもなお立ち続ける。
後ろに下がって距離をとることも、この場から離れて己の身を守ることもしない。
何度でも拳を叩き込むためだけに拳を握る。
それは魔族の姫としてもプライドか、はたまた────
「あの人間を、つまらない形で終わらせない……」
アイラは女神の拳を顔面で受け止める。
その間に、ミカエラの手を掴む。
「煉獄、業火────停滞」
その言葉を口にした瞬間、ミカエラの左手が急に固まり始めた。
違和感を感じたミカエラが即座に握りしめていたメイスを器用に動かして左手を切り落とす。
そして、そんなミカエラを一瞥することなくアイラは守りを失った女神に蹴りを放って距離を置き、同様にミカエラの体も手で掴んで明後日の方向に放り投げた。
「あぁ……分かんない」
ポツリと、一息空いた時間にアイラが呟く。
「ユリスは……お前達が思っているような人間じゃない」
諭すように、アイラは女神に向かって口にする。
「私にはその少年のことは分かりませんし状況の理解もしていません────が、私の娘がここまでしているのです。これが解決策だと思っているのでしょう」
「まぁ、それもそうかも」
「っていうか、魔族の姫にユリスくんの何が分かるっていうの〜? それに、こうして立っている理由も〜?」
ミカエラがアイラの言葉に少しの苛立ちを見せる。
どんな気持ちでここに立っているか、どんな想いで妹がこの選択を選んだか────それを簡単に言われたようで腹が立つ。
だけど、そんなミカエラを無視してアイラは言葉を続けた。
「魔術っていうのは確かに代償はあるよ? 人間は脆弱だから、聖人とか私みたいな魔族にしか扱えないぐらい強いものだし。だから人間には難しい、お前達がユリスの力を消そうって気持ちも分かる」
でも、と。
「私には分からない。どうしてこんなことになってるのか……お前達も、ユリスも、聖人も────本当に、馬鹿ばっかなの?」
「何を……っ!」
「だって────」
アイラが、言葉を落とす。
「ユリスが魔術を失わずに生きていける方法……あるじゃん」
しん、と。
つかの間、この場を包み込む空気の中に静寂が訪れた。
「あなたは何を言って────っ!?」
「女神様っ!?」
女神が言葉を紡ごうとした瞬間、ガクリと膝が落ちてしまう。
その光景に疑問が上がるミカエラ。
だけど────女神だけは違った。
「セシ、リア……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます