味方は出揃う
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ミラベルがユリスの味方になる。
そう口にし、優しく抱きとめられたユリスは抵抗することなく受け入れていた。
具体的にどんな風に、どこまで味方になってくれるとは言わなかったものの、「味方になる」という言葉で、不思議と胸が浮くような思いを感じてしまった。
「……なぁ、ユリス?」
リカードが、いつになく真剣な表情でユリスを見つめる。
明るく、がさつではあるものの笑みを絶やさないリカードからは、今の表情はあまり想像がつかないと、この状況ではなければ思っていたかもしれない。
「俺は詳しいことは分からねぇ。何しろ馬鹿だからな。だから、どっちがどっちで何が起こってるのか……そこでは決められねぇんだ。だから、これだけは聞かせて欲しいぜ───」
お前はそれでいいのか、と。
リカード、そう口にした。
リカードは、ユリスの魔術について詳しくはない。
きっと、同じ知らないミラベルやティナよりも知らず、今陥っている状況も把握しきれてない部分の方が大きい。
であれば、深く考えるのはやめよう。結局、ユリスは自分の口にしたことで本当にいいのか? それだけが、聞きたかった。
そして、ユリスは真っ直ぐとリカードを見つめ直した。
「あぁ……俺はどうしても、この力を手放したくない」
「そうか……」
やれやれ、と。リカードは肩を竦める。
そう答えれば、ユリスはこれからも傷ついていくことになる。リカードとしても、友人が傷つくと分かっているのなら、全力で止めたい。
けど───
「よっしゃ、分かった! お前がそう言うなら、俺はお前の味方をしてやるぜ!」
胸を叩き、ユリスの側に付くことを決意した。
友人が自分が自分であろうと、望みを前にして望みに手を伸ばし続けたいと願っている。であれば、止めるよりも前にユリスのその部分を尊重してあげたい。
馬鹿だから。それ以外のことは分からず、結局は「ユリスがそれでいいのなら」という本人の意思を尊重した結果で歩むことを決めた。
リカードはリカードなりに、考えた結果である。
それが例え多くの敵になろうとも、揺るぎはしない。
そんなリカードを見て、ユリスは笑みが零れる。
「……ありがとう、リカード」
「おうっ!」
だがしかし、ここで一人だけ。
(……さて、これは少しまずいですね)
ティナだけは、この状況に少し歯痒さを覚えていたのであった。
(実際、私としてもユリス様のお味方をしたいのは山々……ですが、状況が状況です)
ティナは、この国の第三王女だ。
当然、リカードやミラベルのように軽々しく動けるような立場ではなく、色々なものが背中に乗っている身。
一つ一つの行動に全て責任がのしかかり、安易な行動が国に影響を与えてしまう。
状況を整理すれば、ユリスの敵は世界に影響を及ぼす教会の聖女が三人。
英雄と呼ばれる吸血鬼に、自国の公爵家令嬢。
誰もが国に大きな影響を及ぼす存在であり、安易に敵対することは許されない。
それ故に、ティナは歯痒い思いをしているのだ───味方になりたい気持ちと、王女としての立場。
(王女として考えるのなら、聖女を敵に回すことは避けたいですね……ならば、ここでユリス様を捕縛するのが妥当。しかし、それですとユリス様の望まぬ結果へと後押しするような形になってしまいます……それは、私自身が嫌うこと)
であれば、いっそ個々で一人傍観に徹するか? そんな疑問が湧き上がる。
しかし、そうなればユリス達はすぐに負けてしまうだろう───明らかに、戦力に差があり過ぎる。
優柔不断な結論に持っていけば、傍観に徹したところで後々自分が後悔することになる。
(はぁ……難儀なものです)
ティナはため息を吐きながら、ユリスの側に寄る二人を見る。
そろそろ恥ずかしくなったユリスがミラベルを引き剥がそうとし、ミラベルは離れた代わりに優しく頭を撫でてあげ、リカードは気合いを入れるかのように背中を叩く。
仲睦まじい。ユリスの側に寄れるからこそ、あのような光景と顔が見られるのだろう。
では、向こう側についたら? 自分は、どんな気持ちで杖を握ることになるのだろうか?
(そうですね……これ以上の自問はやめましょう)
確かに、立場を考えるのであればティナは間違いなくここでユリスに敵対するべきである。
だが、そうしてしまえば己はどこかで必ず後悔に打ちひしがれる。
ユリスに一度救われたのは、ミラベルやセシリア、アナスタシアにミュゼといった面々だけではない。
ティナ自身も、ユリスの力によって救われたのだ。
救う力が傷つけるとしても、救われたのなら恩を返すべきだ。
自分は自分の気持ちに素直に従おう───リカードが、ユリスの気持ちを尊重したように。
「ふふっ。では、これからどうするのか───作戦を立てましょうか」
ティナはゆっくりと近づき、ユリスの顔を正面から見据える。
「……いいのか、ティナ? お前がこっち側についたら、色々と───」
「ユリス様がお気になさる必要はございませんよ。私は全てを承知した上で……ユリス様の味方になろうと、そう決めましたから」
その瞳に嘘偽りはない。
本心で、自分の味方についてくれる。
立場もあっただろうにと、ユリスは愚痴を零しながら溢れる嬉しさで目元が潤んでしまった。
だけど───
「……ありがとう、皆」
ユリスは改めて、一人ではないことを再認識した。
こうして、ユリスの味方は全てが出揃った。
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