第二グループ
「お、もう始まってんじゃん」
ユリスは試合が終わり、参加しない生徒が集まる客席へと現れた。
横にリカードの姿が見えないのは、きっと怪我の治療や健診でも行っているのだろう。
そして、ユリスが現れた頃にはスタジアムで第二グループの試合が始まっていた。
響き渡る衝撃音に、剣がぶつかる金属音、色鮮やかな魔法など、ユリスの試合より白熱……というか、激しかった。
『おい……あいつさっきの男じゃねぇか?』
『あぁ……あの試合を一瞬で終わらせた男だろ』
『あんな魔法見たことないわ……』
ユリスに視線が注がれる。それは先程の試合の影響で間違いないだろう。
(今までとは違う視線……うん、悪くない。この視線、悪くない)
今までは侮蔑の視線が多かったが、今回の視線は興味や畏怖が多い。
ユリスのあの力は理解できないのと同時に、好奇心を擽ったのだろう。
『顔は平凡なのにな……』
(よし、顔は覚えた。後で絞めてやんよこんちくしょう)
顔が平凡────そんな事実を言われて、ユリスはお仕置を決めたのであった。
「ユリスっ!」
「へぐっ!?」
スタジアムと同じく、こちらも激しかった。
なんと、いきなりユリスの腹部に強烈なタックルが入ったのだ。
(誰だッ!? いきなりぶつかってくるアホンダラ野郎は!? なんじゃい、まだ無能って馬鹿にして攻撃してきたのかね、うぅん!?)
ユリスがいきなりの攻撃に青筋を浮かべる。
「ユリス、お疲れ様でしたっ!」
「……なるほど、
「……ふぇっ?」
どうやら、攻撃してきたのはユリスの想い人のようだ。
ユリス、額の青筋が消える。
「ユリスくん、おつかれ〜」
そして、少し離れたところではミラベルが大きく手を振ってユリスを出迎える。
ミラベルの横には席が五つ空いている事から、ユリスとリカード達が来てもいいように確保してくれていたのだろう。
「うんうん、やっぱり労ってくれるならそう言う可愛いスマイルを添えてお疲れ様の言葉だよなー……それに比べて────」
ユリスは視線を下に下げる。
そこには、頭に疑問符を浮かべる可愛らしいセシリアが、ユリスの腰に手を回して抱きついていた。
程よい柔らかさと、仄かに香る女子特有のいい匂いがユリスを刺激する。
「だがッ、これはこれでいい!!!」
「なんの話でしょうか?」
セシリアには分からない男の事情。
だからユリスはその疑問に答えることなくセシリアの頭を撫でながらミラベルの隣へと一緒に座る。
「んー……試合始まってどれぐらい経ったの?」
「数分程度かな? 本当にさっき始まったばかりだしね〜」
「そっか────こらこら、セシリアよ? どうして俺の膝の上にくる? お隣が空いているでしょうが」
「ここが私の定位置だからですっ!」
ババン! という効果音がつきそうなほど胸を張って言うセシリア。
(ふむ……素晴らしい。程よい膨らみが胸を張ることによって強調され、これはこれでなんとも……)
ユリスはマジマジとその強調された胸を見ていると、セシリアは胸を張るのを止め、頭をユリスの胸に預けた。
だからユリスは仕方なく息子が暴走しないように試合に集中することにした。
結局、セシリアには甘いユリスである。
そしてユリスが試合を見始めると、今度は肩に何かが乗っかる感触が────
「こらこらミラベルさんやい、どうして俺の肩に頭を預けるので?」
「こ、ここが定位置だから……?」
「君達、それを言えば許されると思ってない?」
定位置と言うが、今日初めてされた。なんて文句がユリスの頭の中に浮かび上がる。
だがしかし、可愛い女の子が己に密着して喜ばない男はいない。
(セシリアも文句を言いそうな雰囲気じゃないし……いいのか?)
そんな顔色を伺うが、セシリアは別に構わないといった感じの表情。
だったらいいのか? という曖昧な答えによって、結局はミラベルを放置することにした。
『おい……あいつ、あんな可愛い子に引っ付かれてやがる……』
『殺ろう……例え相手が強かろうが……この気持ちは抑えられん』
『証拠隠滅の為に、死体は火属性の魔法を浴びせた方がいいかもしれんな』
「殺気ッ!?」
ユリスは背後から突き刺さる殺気に思わず振り返る。
そこには血の涙を流しながら唇を噛み締めて、鬼の形相でユリスを見ている男子生徒の姿が────
その後、ユリスが学年問わず男子生徒数十人に校舎裏に呼ばれてしまった事は、また別の話。
♦♦♦
時間が経ち、第二グループの試合は終盤に差し掛かっていた。
立っている者は残り十人を切り、そこにはアナスタシアとエミリアの姿もある。
『蒼き茨よ!』
エミリアが愛用のロッドを地面に突き刺し、目の前に迫る生徒二人を氷の茨で拘束する。光が反射し輝いて見えるその茨の上には綺麗な薔薇が咲いていた。
『しっ!』
『がはっ!?』
『きゃ!』
そして、その隙を逃さずアナスタシアが細剣を急所に打ち込み、相手の意識を一瞬にして奪う。もちろん、切っ先は研がれていないものを使っているので、怪我はさせていない。
「二人は共闘してるのかな?」
その様子を見ていたミラベルが疑問に思う。
「いや、違うんじゃね? その証拠にほら────」
ユリスが指をさすと、素早くエミリアに突っ込んでいた姿があった。
「たまたま近くに身動きが取れない奴がいた。だから相手をしたに過ぎないと思うぜ? アナスタシアは勝負事に関しては容赦ねぇし、勝利に欲深いからなぁ……」
ユリスはアナスタシアを見る。
昔からの付き合いは伊達じゃない。故に、アナスタシアがどう動いてどう考えているかは少しだけ分かっている。
アナスタシアはそのまま細剣を構え、エミリアの懐に潜り込もうとする。
剣士であるアナスタシアが懐に入れば、魔法士であるエミリアにとって不利になってしまうだろう。
故に、エミリアは己の身体に身体強化の魔法をかけ、後ろに思いっきり下がった。
『蒼き群生よ!』
アナスタシアの頭上に無数の青い氷の球体が現れる。
そして、それらが一斉にアナスタシア目掛けて降り注いでいく。
氷属性上級魔法が、アナスタシアに牙を剥いた。
だが、それをアナスタシアは避けていく。降り注ぐ球体よりも早く地を駆ける。
やがて、行く手を拒む球体を置き去りにして、アナスタシアはエミリアの懐に潜り込んだ。
やはり、いくら身体強化をしていようとも、魔法士の身体強化と剣士の身体強化では差が出てしまうようだ。
それに、アナスタシアは身体強化を速さに注ぎ、素早さで相手を翻弄させて戦うスタイルの人間だ。
特化してない人間が、特化した人間に勝てるはずもなし。
アナスタシアはエミリアの正面に立ち、身を屈めて細剣を脇腹目掛けて突き刺す。
これで無防備なエミリアは手段なく、アナスタシアの攻撃を食らってしまうだろう。
だが────
『ふふっ、私がアナスタシア様を警戒しない訳がありませんからね』
エミリアの足元に大きな氷の柱が生まれる。
それはアナスタシア目掛けて伸び、やがて強烈な勢いで顎に直撃した。
鈍い音が響く。
その一撃は赤い髪を靡かせる。アナスタシアを倒すには充分で、アナスタシアは無言で細剣を落とし、大きく仰け反って地に横たわってしまった。
『これで、一番厄介な相手はいなくなりましたね……ふふっ、ユリス様の隣に立つのは私ですよ』
一瞬の出来事だったが、エミリアとアナスタシアの勝負は、どうやらエミリアの勝利で終わったようだ。
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※作者からのコメント
ごめんなさい!
多分次話から投稿頻度落ちます(´;ω;`)
2〜3日に1話になってしまいますけど御容赦下さい!
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