聖女と勇者
ラピズリー王国、武闘祭出場選手は以下の通りとなった。
一学年:ユリス・アンダーブルク
一学年:エミリア・ラピズリー
二学年:ルバート・ハーディ
二学年:テリー・フレッチャー
三学年:ヘンリー・ハリソン
三学年:ソフィア・ダヴィンチ
四学年:エリオット・ベヴィス
四学年:アニス・キャンベル
先日行われたラピズリー王国武闘祭選抜戦において、他学園の選ばれた精鋭を凌ぎ武闘祭全ての枠をラピズリー王立魔法学園の生徒が全てを埋めた。
流石は王国一の魔法学園、そこに在籍する生徒も他の生徒よりも群を抜いているようだ。
出場選手の中には、ラピズリー王国第三王女のエミリア様やラピズリー王立魔法学園生徒会長であるエリオット・へヴィスも名を連ねている。
平民の出でありながら、学園生徒からの支持を受け自他共に認める実力でその座に就いた才能は伊達じゃなかったようだ。
中には快勝————とはならなかった者もいるが、王立魔法学園の生徒達はその実力を差をつけて見せつけた。その姿は正に王国を支えていき、扇動する人材に相応しかったと言えるだろう。
だがしかし、私の中では一人の生徒を注目している。
ラピズリー王立魔法学園一学年————ユリス・アンダーブルク。
この者は学園内で行われた選抜戦において最速でその座を勝ち取り、先のラピズリー国内で行われた選抜戦では相手の動く隙すら与えなかった。
中でも驚いたのは、彼の使う魔法が私達の知る物ではなかったという点だ。
私が見た彼の魔法は二つ。指を鳴らした途端に背後から禍々しい獅子のような魔獣が現れ、即座に相手を地に伏せさせた。もう一つは瞬間移動の類なのだろうか? 一瞬にしてあいての頭上に移動し、脳天に思いっきり蹴りを加える。
これを見ていた宮廷魔導士の一人が「ありえない」と口にしていたのを聞いた。
私も、彼に話を聞きに行ったのだが「いや、自分の手の内を大ぴらに見せつけるなんてするわけないじゃん」と断られてしまった。まぁ、これから武闘祭に挑むのであれば当然の反応だろう。
ともあれ、これから始まる武闘祭が楽しみでしかたない。
各国も我が国と同じく出場選手も決まったようだ。
果たして、だれが栄光を掴むのか?
記者として、一人の人間として注目せざるをおえない————
♦♦♦
「だってさ~、タカアキくん~」
一枚の号外を読み上げると、明るい声のほんわかとした雰囲気で少女は隣に座る少年に尋ねる。
夕日が差し込み、二人がいる教室がオレンジ色に輝く。それでいて、少女の水色の髪が反射して何処なくこの教室を神秘的に映し出す。
だが、その光景を見れるのは少年だけ。この教室にはこの二人しかいない。
「いや、僕としてはどうして他国の号外を持っているのか不思議で仕方ないんだけど?」
「むふ~! それはおねぇちゃんの極秘ルートから、と言っておくよ~!」
その豊満な胸を張って、少女は自慢気に言う。その姿を見て、黒髪の少年は大きくため息を吐く。
おおかた、また教会の面々に無茶を言って貰ったのだろうと、そう思った。
「それにしても、ラピズリー王国の出場選手が全て同じ学園ってよくある事なの?」
「滅多にないんじゃないかな~? 確かに、あそこはラピズリー王国で一番の魔法学園だけど、だからといって他にも実力者はいたわけだしね~。そう考えたら、今年は面白い人がいっぱいいるのかも……」
水色の髪をした少女が嬉しそうに嗤う。
背中に携えたメイスを触りながら、楽しみでしかたない子供のように鼻歌を歌いながら。
「まったく……今時、何処のアニメやラノベでも戦闘狂な聖女はウケないっていうのにね……」
「たまにタカアキくんって分からない事言うよね~、それって別世界のお話なのかな~?」
「そうそう、一種の娯楽ってやつかな」
少年は椅子に座りながら、何もない天井を仰ぐ。
会話が途切れれば室内には静寂が訪れる。それが不思議と心地よく思うのであった。
「あぁ~! 早くセシリアちゃんに会いたいな~!」
少女は愛用のメイスを抱きしめながら最近会えていない少女の事を想う。
「それはいつも手紙がくる女の子の事?」
「そう! 私の可愛い可愛い妹ちゃんなの~! 私が勇者と同行を始めてから一度も会えてないし……もうっ、セシリアちゃん成分が足りないの!」
「……その子も可哀想に」
少年は顔も知らない女の子を可哀想に思う。こんなにも溺愛されていては向こうも迷惑だろうに、と考えずにはいられなかったのだ。
「きっと、セシリアちゃんも来るよね~! だって、お手紙にはラピズリー王立魔法学園に通っているっていう話だったし、聖女だもん! 絶対に来ない方がおかしいよね~……っていうか、連れて来なかったらラピズリー王国を潰す」
(聖女としての顔じゃないよね……)
一瞬にして表情が闇に覆われた少女を見て、少年は自分の思い描いていた聖女像と違うことに悲しく思う。もし、会えるのであればセシリアと呼ばれる聖女はこんな人じゃないように、とも願うのであった。
「————そう言えば、ここに出ているユリスくんって人……確か、今セシリアちゃんがお世話になっている人だよね?」
少女は号外を改めてみる。
そこに載っている名前は、よく妹分から送られてきている手紙にいつも名前が挙がる人と同じであったのだ。
「あぁ……その聖女を助けた男の人、だったっけ?」
常日頃、少女と共にしている少年はもちろん手紙の内容は知っている。
それは、目の前の少女からよく聞かされているからだ。
「うん……セシリアちゃんの手紙にはかっこよくて優しくて、ちょっと欲深いけど————自分を守ってくれる強い人、って言ってたかな~」
「へぇ……」
「もし、本当に強かったら……」
ふふふ、と。
少女は再び嬉しそうに————嗤う。
「君、その戦闘狂な性格を直した方がいいと思うよ? じゃないと、一生貰い手がなくなっても知らないからね?」
「私は私より強い人を好きになるからいいんです~! タカアキくんは私より強いけど、勇者だから嫌だ!」
「僕は、どうしてフラれたんだろうね……それに、僕はもう婚約者がいるんだけどなぁ……」
「それに、そんなこと言ったらタカアキくんも笑ってるよ?」
少女に指摘され、少年は己の顔を押さえる。
すると、少女の言っていたように自分の口元がつり上がっていた事が分かった。
「ふふ……そうだね。僕もどうやら君と同じ人間のようだ。向こうではそんな事なかったんだけどなぁ……もしかしたら、この力を身に着けてから変わったのかもしれない」
少年は立ち上がり、傍らに置いていた神々しさを醸し出す剣を握る。
「勇者として、僕の前に敵は未だ存在しない————だからこそ、これから現れる強敵に震えているんだろうね」
「そうだよね〜♪ 私も、久しぶりに本気になれそうで楽しみだなぁ〜!」
その少女は聖女と言われ
その少年は勇者と言われ
二人は、これから相まみえる存在に胸を震わせた。
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