武闘祭選抜戦

 ラピズリー王立魔法学園で行われる武闘祭選抜戦は敷地内にある大きなドームで行われる。

 客席は約千人以上が入れる程の大きさで、中央のスタジアムは周りに被害が及ばないように、結界の魔道具を使って護られている。


 そして、選抜戦当日。

 参加する生徒全てはこの学園の各学年二席を争うことになる────故に、このスタジアムに足を踏む同級生は全て敵。張り詰めた空気がスタジアムに広がっていた。


『さぁ、やってまいりました! 武闘祭選抜戦────実況は私、三年のフラーニャがお送り致します!』


『『『『『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』』』』』


 客席上部に特別に設けられた席で、明るい水色の髪をした少女が高らかに声を上げる。

 それに伴って、客席から溢れんばかりの歓声が上がった。


『全四学年! それぞれが武闘祭に参加するべく己の実力をぶつけ合う選抜戦! 皆さん、しっかりと応援してあげましょうっ!!!』


 ……本当に、フラーニャのテンションはハイだ。

 まぁ、そうでなければ実況は務められないのかもしれない。


『そして、今回は我がラピズリー王立魔法学園の学園長────ミュゼ様を解説としてお呼びしております!』


『うむ、よろしく頼むぞい』


 そして、隣に座るのは薄桃色の髪をした少女。解説席にちょこんと座るその姿はどこか愛らしい。


『やっぱり、英雄はなんか雰囲気が違うよなぁ』


『流石よね〜、私生で見れて凄く嬉しい!』


『ミュゼたん……はぁ、はぁ……』


 客席からはそんな声が漏れる。

 一部、鼻息が荒くなっている生徒も散見されたが気にしない。


『では、今回の選抜戦ルールを説明させていただきます!』


 話を戻し、早速といった感じで実況のフラーニャが口にする。


『ルールは至って単純、各学年ごと二つに分けられたグループの皆さんが一斉にこのスタジアムで戦うだけです! 戦闘不能、場外、降参のみが敗北条件! その方法は何も問いません! そして、最後まで勝ち残った生徒こそ────我が学園での席を手にすることができます!』


 まさにバトルロワイヤル。

 きっと、トーナメントなどの形式をとってしまえば時間がかかってしまうから故の形式なのだろう。

 それでも、何とも過激────その場にいる者が全て敵という異様な状況。


 ……確かに、これなら実力だけでなく策謀やら運も求められてきそうだ。


『それでは早速始めましょう! まずは今年花を咲かせにきた新入生────一学年総参加者178名! その第一グループのロワイヤルですっ!』



 ♦♦♦



「はいはーい……何故に初っ端なのよ? もうちょい後でも良かったじゃん……」


「気にするんじゃねぇよユリスっ! 俺は真っ先にお前とあたれて嬉しいぜ!」


 豪快に、嬉しそうに笑うリカードが控え室でため息を吐くユリスに肩を回す。


「よかったねー、リカードは嬉しくてよかったねー……俺は始めより後派なんだけどなぁ」


 ちなみに、ユリスはこんな事を言っているが実質そこまで深い理由はない。

 ただ何となく後がいいってだけである。


「そんな事言ってないで早く行くぜユリス! 互いに全力真剣筋肉勝負だァ!」


「……筋肉って関係ある?」


 同じ控え室にいる生徒からの視線が突き刺さる。

 それでも、リカードとユリスは一席を巡っての戦いに赴くのであった。


 初戦、一学年の第一グループ。


 ユリス・アンダーブルク

 リカード・ラキスタン


 参戦。



 ♦♦♦



 講師の指示に従い、ユリスとリカードはスタジアムまで足を進めた。

 それぞれが好きなように広がり、視線を上げれば全学年生徒達がユリス達を見守っている。


 そして────


『おい、あいつ無能じゃね?』


『あぁ……魔法も使えない無能だろ? どうしてSクラスにいるか不思議で堪らないぜ』


『ほんとほんと。絶対何か裏口使ったに決まってるぜ。じゃなかったら、俺でもSクラスに入れるぜ』


 ユリス、登場早々に馬鹿にされる。

 ヒソヒソと、それでいて思いっきり嘲笑を向けられ、気まづい思いをしてしまう。


(うわぁ……久しぶりに無能って言われた気分……)


 だが、それでいて懐かしく思ってしまうユリスの感性は何処か曲がってしまったのかもしれない。


(……ま、それも今日まで)


 薄く笑い、ユリスは開始の合図を待つ。


(この多くの注目が集まる中、俺が圧倒的な力でねじ伏せる────そうすれば、この無能ってあだ名も消えるだろうしな)


 無能とは魔法が使えないユリスに与えられた総称。侮蔑の証。

 それでも、この学園に来てから様々な友人と出会い、少しは印象が良くなってきた。


 けど足りない。


(セシリアの隣に立つなら、この汚名は消さないといけないんだ……)


 聖女の隣には役立たずはいらない。

 だからこそ────


(魔法が使えるから強い────なんて時代はもうお終いだ)


「これより、一学年第一グループの選抜戦を開始致します!」


 スタジアム端で、拡張の魔道具を使った講師が宣言した。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」


「勝つのは俺だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 周囲から気合いの入った声が聞こえる。

 魔法が飛び交い、剣がぶつかり、怒声や衝撃音が耳に入る。


 その中で、魔法士が集う中で……大罪の魔術師は不遜に笑う。


「勝てると信じ、高みに登れると慢心した者達よ、この大罪の魔術師がその自信を砕いてやる」


 ユリスは腰に左手を当て、右手を前に突き出す。


「消えろ無能!」


「お前なんてお呼びじゃねぇんだよ!」


 無能と嘲笑う生徒がユリスに向かって突進してくる。


「勝負だユリスッ!!!」


 そして、リカードも他の生徒に目もくれず、一目散にユリスに突進して行った。

 その表情は嬉々とし、背中に背負う大剣を両手で構え、切っ先をユリスに向けた。


「俺に勝てると驕るなよ……それは些か傲慢だぞ?」


 だが、ユリスは臆さない。

 構えない。


 ただただ、その右手の指を鳴らした。

 ユリスの背後から獰猛な牙とたてがみを生やした四足歩行の獣。

 それは禍々しく黒に覆われただった。


「傲慢の魔獣────その権能は、相手を跪かせるだ」


 ────その瞬間、スタジアムにいる者全てが、地面に顔をつけた。

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