アクセサリー
「うっま!? 美味いぞミラベル!」
「本当だね! すっごく美味しいよ、この焼き串!」
「一度作ってみるか……」
「え? ユリスくん料理できるの?」
「いや、全然。だって俺、怠惰だもん」
「じゃあなんで言ったのかな……」
♦♦♦
「……ふむ、流石の俺でも玉を十個も器用に扱えん。素晴らしい……実に素晴らしい」
「大道芸なんて久しぶりに見たよ……。あの玉は魔法で何か動かしてるのかな?」
「いや、単純に技術じゃないか? 俺、魔力ないから分からんけども、魔法を使ってる様子ないし」
「確かに……あんなに玉を器用に空中に放れるなんてすごいなぁ……」
♦♦♦
それからユリス達はぶらぶらと王都をまわった。
互いの手には何処か寂しいものがあったが、買い食いをしたり大道芸を見たりと、二人の顔には終始笑顔が浮かんでいた。
このままぶらぶらと歩くのも王都観光の楽しみ方かもしれない、そう思ったユリス。だが、ミラベルは違った。
(デート……でいいよね? だって二人っきりでお出かけなんだもん……楽しいなぁ、頑張ってユリスくんを誘った甲斐があったよ!)
ぶらぶらと街を観光する時とは、内心全く違う事になっていた。
先程からミラベルの耳が赤い。尖った耳の先端まで真っ赤だ。
(手……繋いでもいいのかなぁ? ダメかな? セシリアちゃんに怒られないかな?)
……頑張れ、ミラベルよ。
「ん?」
そんな中、ぶらぶらと歩くユリスが出店の一つがふと気になった。
そして、徐にミラベルの手を握って────
「ふぁっ!?」
「ちょっと来てくれよミラベル」
その出店へと向かっていった。
思わぬところで願いが叶ってしまったミラベルは先程よりも真っ赤になってしまった。
「これ、ミラベルが好きそうだと思ったんだが……どげね? よさげじゃない?」
ユリスに連れられた出店は小さなアクセサリーを扱う店だった。
その店は少し他の店とは違い、並べられてあるアクセサリーの殆どが植物でできている事だろう。
「わぁ……」
ミラベルはそのアクセサリーをキラキラした目で眺める。
エルフは自然と共に生きる。それは掟だからとか、エルフの縛りとかではなく単純に自然が好きで己が自然に一番適しているからだ。
それはミラベルとて例外ではない。
自然が好き。だが、こうしてエルフ領を離れて魔法学園にやってきたミラベルは自然と触れ合う機会が極端に減ってしまった。
だからこそ、休日に一人で庭園に足を運んでいたりしたのだ。
(うわぁ……これ、ミモザの木で作られてる! それに、ペンダントの部分はハシュの実を乾燥させて光沢をつけたのかな!?)
並ぶアクセサリーの一つを見て興奮するミラベル。
ペンダントの首にかける部分は棘をなくした枝で、胸の部分は赤い木の実で作られている。それがどことなくミラベルの視線を釘付けにして────
「おばちゃん、これちょうだい」
「毎度あり!」
「えっ!?」
ユリスが、そのペンダントを購入した。
なんの迷いもなくキラキラした目で眺めていたミラベルを見て、ペンダントを手に取ったのだ。
そして、お金を店のおばちゃんに渡すと────
「お! やっぱり似合うなミラベル!」
────そのペンダントを、固まるミラベルの首にかけた。
ミラベルは未だ固まったまま、そのかけられたペンダントを見下ろす。
「今日のお礼。誘ってくれたし、なんかミラベル……それ気に入ってたっぽいからプレゼントするよ」
「あ、ありがとう……ユリスくん」
「どういたしまして。気に入って貰えたようで何より何より」
呆けるミラベルにそう言うと、再びユリスはアクセサリーを眺め始める。
その一方で、ミラベルはそのペンダントを大事そうに胸に抱いた。
(あちゃぁ……こ、これはダメだなぁ……)
嬉しくて堪らない。
先程から胸がバクバクとうるさい。
何も言わずに、女性にプレゼントをあげるユリスは何処か女の子慣れしているように見えたが────それでも、こういった行為がミラベルの心を動かす。
「大事にしなきゃ……」
ミラベルは、そのペンダントを見て頬を朱に染めながら呟くのであった。
♦♦♦
(そう言えば、セシリアにも何か買っていこうかねー……お、これなんかセシリアに似合いそうだ!)
ユリスはお土産にとセシリアに似合いそうなアクセサリーを探す。
きっと、セシリアも喜んでくれるだろう。これで好感度が上がれば文句ない。そう思いながらアクセサリーの一つを掴む。
そして、ふとユリスは思った。
(そう言えば俺、師匠に何もあげたことなかったなぁ……)
長い付き合いの中、ユリスは恩人であるミュゼに何かをプレゼントした事はなかった。
セシリアには今まで何度かあげた事はある。
しかし、ミュゼと過した特訓と研究に明け暮れた日々に感謝の印という余裕はなかったのだ。
「……これでいいかな」
ユリスは、セシリアにプレゼントする為のアクセサリーともう一つ、別の物を手に取るのであった。
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