武闘祭とは
「年に一度行われる武闘祭では、各国の学園代表者がその実力を競うイベントとなっています」
剣の撃ち合う音が聞こえる中、ユリス達は円形状に互いの顔が見えるように座っていた。
武闘祭について何も知らないユリスの為に、エミリアが一からきちんと説明してくれる。その説明を、ユリスは未だに頬を膨らませて不機嫌なセシリアを膝の上に乗せて聞いていた。
……エミリアとミラベルも若干不機嫌だ。
「まず、武闘祭に参加するには各学年に用意された二席に加わらなければなりません」
「もちろん、二席っていうのはこの学園だけに用意されたものじゃないわ────国内全ての学年に用意された二席なの」
「ふむふむ……つまり、俺は国内全ての同学年を蹴散らさなければならない────というわけか」
「その通りですユリス様」
現在、ラピズリー王国にはこの魔法学園含めて八つ存在している。
この学園では一学年約二百人。他の学園含めたら二千人弱の人間が存在していることだろう。その中からたった二席────かなりの倍率である。
「……ねぇ、武闘祭ってそんなに倍率高いの? いっその事志望者全員参加させればいいじゃん」
「でもユリスくん、そんな事言ったら武闘祭参加者が凄い事になるよ?」
「そうね、武闘祭に参加できればそれだけで国の注目を浴びるわ。それに加えて優勝すれば褒賞が貰え、貰えなくても武闘祭に参加できるほどの実力があると示す事ができる────だから皆武闘祭に参加したがるの」
「……さいですか」
ガックリ項垂れるユリス。
どうやら、ユリスの目的まではかなりの道のりのようだ。
「……ちなみに、参加する人手を挙げてー」
ユリスが皆に尋ねる。
すると、膝元に座るセシリア────と、ミラベルが手を挙げなかった。
「ほとんど!?」
「当たり前だぜユリス! 俺はこの筋肉を全世界に見せつけなきゃいけねぇからな!」
そう言って、上腕二頭筋を見せつけるようにポージングするリカード。
若干暑ぐるしい。
「アナスタシアは分かる────けど、意外だな。ミラベルは参加せずにエミリアが参加するなんてな」
「私は名誉とか欲しくないし、褒賞は貰えるなんて思ってないからね〜。今回はセシリアちゃんと一緒に応援することにするよ!」
「一緒に応援楽しみですっ! 是非とも皆さんを応援しましょうね!」
「そうだねセシリアちゃん!」
笑い合う二人は本当に仲がよろしい。
その光景に、どこかほんわかするユリスであった。
「私は元より実力を伸ばすためにこの学園に来ましたから……当然、強者と戦えるこの場を逃す理由がありません」
「……エミリアってジャンキーだったりする?」
「ふふっ、それはどうですかね」
口元に手を当てて上品に笑うエミリア。
その笑みは何処か深みがあるように見えてユリスは少しばかり怖くなった。
「おっほん! そ、そんで? その二席ってどうやって決めるんだ?」
セシリアがミラベルの元に駆け寄り、膝元が寂しくなったユリスが尋ねる。
「確か、来月に行われるこの学園の選抜戦で学年の二席を決めるわ。そして、各学園の二席同士が戦って、武闘祭の二席を決めるって感じ」
「そして、武闘祭では学年関係なく、トーナメント形式で実力を競い合います。もちろん、同じ学年の生徒と戦う事もあれば、同じ国の生徒同士で戦う事もあるのです」
「……ふ〜ん」
ユリスは軽い調子で頷く。てっきりすぐすぐあると思っていたのだが、案外先にあるようだ。
(ってことは、そこに向けて特訓もできるな……アレを試すいい機会かもしれない)
ユリスは期間が設けられた事に笑みを浮かべた。
「相変わらず、あんたは余裕そうね」
笑みを浮かべたユリスを見て、アナスタシアが呆れた目を向けてくる。
ユリスとしては、全然そんなつもりではなかったのだが……。
「いや、余裕なわけねぇだろこの貧乳」
「あ? 今なんて言ったのかしら?」
「うっす! 何も言っておりません!」
喉元に突きつけられた細剣を前にして、勢いよく敬礼で謝るユリス。
鬼の形相をしたアナスタシアには
「確かに、今回はユリス様でも手こずるかもしれませんね」
「あー、確か今回は勇者が参加するって話だったっけ?」
────勇者。
それは魔王討伐の為に異世界から召喚され、聖剣に選ばれた存在である。
その実力は山を穿ち、魔を浄化し、音をも置き去りにする速さ────なんて言われている。事実、何処までが本当なのか分からないのだが。
「えぇ……今回の勇者はザガル国の学園に通っております。何でも、召喚されたばかりでこの世界の事が詳しくないので、そちらの勉強と実力向上の為だそうです」
「エミリア様は会った事あるのか?」
「いえ……お姉様が一度顔を合わせた程度ですね。それに、ザガル国は勇者を今まで隠してきた節があります────きっと、今回はお披露目を兼ねて参加させるのでしょう」
「別に隠す必要もないように思えるのだけれど……ま、勇者が国にいるってだけで他国を牽制できるし、優位に立てるかもしれない────そう考えれば、実力をつけさせて、各国にアピールしたかった……そんなところかしら?」
「流石に私もそこまでは……ですが、きっと勇者もユリス様には勝てませんよ。ザガル国は可哀想です」
「待て待て待て。なんだその謎の信頼は?」
ユリスがそう言うも、エミリアは「え? 当たり前ではありませんか?」と言いたげな目を向けた。
それが不思議て堪らないユリスであった。
「でも確かに、ユリスが負けるところなんて想像つかねぇよなぁー。ま、勇者を見た事ないから分からんけども」
「いや、だからどうしてお前達は俺に対する評価が高いんだ」
「ユリスは優勝間違いなしですねっ!」
「ありがとうなぁ〜セシリア〜。でもな? 優勝したいけど優勝できるか分からないからね?」
「ユリスくんなら大丈夫だよ! 大丈夫大丈夫!」
「何が大丈夫かさっぱりだ」
「それじゃあ、今から優勝祝いでもしておこうかしら?」
「やめて、それで優勝できなかったら本当に恥ずかしいから。切にやめて」
皆の思っていることが分からない。
そんな事を思いながら涙ぐむユリス。嬉しいような嬉しくないような評価である。
「まぁ、冗談はさておき────やるからには私も本気で挑むから……覚悟しておきなさいよユリス」
「私も、全力でやらせて頂きますユリス様」
「負けねぇからなユリス!」
一転して、武闘祭に参加する面々が闘争心を燃やしてユリスを見る。
どうして俺だけに言うのか? と疑問に思ったが────
「……俺も、負けねぇよ」
ユリスは、その言葉を受けて小さく笑うのであった。
叶うかどうかは分からないが、それでもセシリアの隣に立つ為に。
ユリスは武闘祭に参加する。
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