本日の自習

「あのさ、俺武闘祭がある事聞いてなかったんだけど? 教えてくれても良かったじゃないのアナちゃん」


「鬱陶しいわね! いい加減黙りなさいよ!」


 ユリスが講義に復活し、現在訓練場では講師不在の自習が行われていた。

 面子は勿論Sクラス。そして、ユリスはいつものメンバーで自習を行っていた。


 今はユリスとアナスタシアが模擬戦。

 周囲で蹲り模擬戦をしていないクラスの生徒達の視線がユリス達に集まる。


『なぁ……アレに勝てるか?』


『無理だって。さっきからアナスタシア様が一撃も食らわせれてないんだぜ?』


『無能って……なんだったんだろうな?』


 周囲がざわめく。その内容は勿論ユリス。

 かつて無能と嘲笑っていた存在────だが、今となっては嘲笑う者などおらず、ただただ強さを認識させられるばかり。

 クラスメイトは徐々に、ユリスを無能などとは呼ばなくなった。


 一方で、アナスタシアは果敢にユリスの首元にその細剣を突き刺していく。だが、悲しい事に細剣は触れる前に弾かれ、すかさずユリスが空いた胴体へ思いっきり剣を振りかざした。


「……負けよ」


「了解」


 アナスタシアが腕を上げ降参の意を示すと、ユリスは軽く答えてその剣を鞘へと戻した。


「あなたのソレ、相変わらずズルいわね。こっちも人と戦ってる気がしないわ」


「なにを言う? これは完全な俺の実力じゃないか。っていうか人だ」


「それでも、当てさせてくれないなんて反則だわ」


 ユリスとアナスタシアはゆっくりと訓練場の端に戻る。

 アナスタシアが先程から愚痴を零しているが、ユリスはそれを聞き流していた。


「おかえりなさいですお二人共!」


「ただいまセシリア」


「おう、ただいま」


 ユリス達が戻ると、我先にと可愛らしい足取りで駆け寄るセシリア。

 その姿はまるで主人の帰りを待っていたペットのようだ。

 どこか心がほんわかしたユリスは、駆け寄ってきたセシリアの頭を撫でる。


「えへへっ」


 気持ちよさそうに撫でられるセシリア。相変わらずユリスにべったりである。


「……そう言えば、セシリアも教えてくれなかったんだよなぁ」


「……ふぇ?」


「武闘祭の事。皆して見舞いに来てくれたのは嬉しかったけど、そんな大事な事を教えてくれなかったんだよなぁ……ぐすっ」


 未だにソレを言うユリスはめんどくさいかもしれない。

 と言うより、涙ぐむ素振りがうざく感じてしまう。


「だって、ユリスくんって面倒くさがってやらなさそうだったからね〜」


「また「俺は怠惰だから、そんな行事には参加しない!」って言いそうだったからな!」


 そして、訓練場の端でセシリアと一緒に控えていたリカードとミラベルが変わりに答える。

 二人とも、短い期間なのにユリスの事をよくご存知だ。


 だが────


「馬鹿野郎ッ! 今回は俺は絶対に参加するぞ! なんて言われても参加するぞ! 裏口からでも参加するぞ!」


 今回のユリスは違う。

 本気も本気。絶対に参加してやると言う意思が今のユリスからはありありと伝わってくる。


「どうしてユリスはそんなにもやる気なのですか?」


「そ、それはだな……」


 頭を撫でられながらセシリアがユリスの顔を見上げながら尋ねる。


(い、言えねぇ……セシリアと結婚できるように褒賞で爵位貰えるところまで貰いたいから……なんて言えねぇ!?)


 そう、ユリスはミュゼから聞いた褒賞がお目当て。

 何でも各国総出で願いを叶えてくれるらしい────であれば、周りに文句を言われないくらいの爵位を貰ってセシリアに想いを告げよう! そう考えたからこそ、ユリスは本気なのだ。

 いつもならめんどくせーの一言でお終いの筈なのに。


 まぁ、願ったところで貰えるかどうかも分からないのだが。


「……それは?」


「そ、そそそそんなことより、誰か武闘祭ってどうやったら参加出来るのか教えてくれ! ヘルピング、ミー!」


 何て事を言える度胸のないユリスは慌てて話を逸らす。

 相変わらずヘタレの極みである。


「あら? ユリス様は武闘祭に参加されるのですか?」


 するとそこに、先程他の生徒と模擬戦をしていた銀髪の髪が目立つエミリアが現れた。この中で一番詳しそうな人物がァ……現れたァ。


「参加する! 参加するぞよエミリア! だから、どうやったら参加できるか教えてくれね? こいつらってば教えてくれないのよ」


「いや、俺達も聞かれたらちゃんと教えるぞ?」


「私達が意地悪したみたいに言わないでくれるかしら?」


 リカードとアナスタシアがジト目を向けるが、ユリスは気にしない。


「ふふっ、構いませんよ」


「ほんとか!? やっぱりエミリアは良い奴だなぁ〜!」


 ユリスは感激のあまりエミリアの手を強く握り、輝いたお目目をエミリアに向けた。

 それに対し、エミリアの顔は真っ赤も真っ赤。たかだか手を握られたくらいで……と思われるかもしれないが、ある意味仕方ないのかもしれない。


(ユ、ユリス様のお顔が……っ!?)


 エミリア、内心パニックである。


「むぅー! むぅー!」


 一方で、セシリアはと言うと頬をパンパンに膨らませてユリスを睨んでいた。

 その姿は怖さの欠片もなく、可愛らしいものだったがセシリア自身は本気で睨んでいる。まるでリスの威嚇だ。


「ユリスって、色々とわざとやってるのか? ってたまに疑問に思うのよね」


「まぁ、ユリスだから仕方ないだろ!」


「いいなぁ……エミリアちゃん……」


「……ミラベルも苦労してるわね」


「そ、そんなこと……ない……よ?」


 本日の自習、どうやらメインは武闘祭のお話になりそうだ。



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※作者からのコメント


皆様、数々のご指摘ありがとうございます。

只今、皆様のご指摘を受けて少しづつ修正しております。


これからもいい作品をお届けしたいと思いますので、これからもご指摘よろしくお願いいたしますm(__)m

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