邪教徒の目的

 煌びやかな装飾が目立つ一室。中央には赤いカーペットが壁の端まで広がっており、その上には豪華な玉座が目立つように置かれている。

 そんな玉座に座る壮年の男性————ラピズリーを治める一国の王その人は、真剣な顔つきで跪く者を見ていた。


「……それで、追加の情報とな?」


「はい、例のエミリア様を襲った元専属騎士————邪教徒の件でございます」


 跪き、王の顔を見ることなくその男は告げる。


「どうやら、彼等邪教徒は王国の至る所に広がっているみたいです。先日、我が王宮騎士団の中に一名……腕に禍々しい龍の紋章が描かれた邪教徒を発見いたしました」


「奴以外にも王国内部にいたとは……全く、忌々しき事態だな」


「えぇ……その通りでございます。故に、現在王宮全体で関係者が潜り込んでいないか捜索しております」


 国王は顔を顰める。

 国の中心を担う王宮————信頼できる者達を集めたこの場所で邪教徒が見つかっているとなれば国を揺るがしかねない。

 それほどまでに、邪教徒は国に根付いている————草をとっても、未だに根が残ってしまう。故に、広がってた邪教徒を対処できなかった事態に眉を潜めてしまった。


「……続けよ」


「はっ……現在、暗部がその邪教徒を尋問しております。その際、色々吐かせることに成功しましたので、ご報告させていただきます」


 男は懐から一枚の紙を取り出して読み上げる。


「邪教徒の目的は『邪龍の復活』。この世の全ての生物を地に還す事によって新たな救済を生み出す————といった物になります」


「……」


「そして、邪龍の復活の為には王族の血と女神の受けた聖なる者の血が必要なようです」


「だからエミリアを襲ったのか……」


「そう考えて間違いないでしょう」


 始めに予想した事と変わらない。

 邪龍の復活には高貴な血————王族の血が必要で、神聖な血というのはその通り女神の恩恵を一身に受けた者の血という事だろう。

 一身に受けた者————そんな存在は、聖女以外にいないのだが。


「更に、依り代についてですが————こちらは、少々厄介です」


「……厄介、か?」


「どうやら依り代とは邪龍を復活させた際の器のことらしく、その器に明確な基準がないみたいです。ただひたすら、無差別に邪龍の因子を埋め込み、耐えれるだけの要素を持った人物を探す————なので、未だに邪教徒は器を見つけられていない様子」


「それの何処が厄介なのだ? 見つかっていないのであれば、問題はなかろう?」


「いえ、大問題です————因子を埋め込まれた者は例外なく自我を失くし、己の悪感情のまま殺戮を繰り返し————やがて自身が死に至ります。これが民に広がってしまえば————」


「マズいな……」


 そんな因子を打ち込まれてしまっては民に被害が及んでしまう。

 そうなれば国は混乱に陥り、何の罪もない民が犠牲になるのは明らか————広がれば広がるほど、収拾がつかなくなり王国だけの問題ではなくなる。


「周辺諸国に情報の共有、教会には聖女の身の安全を強化させるように伝えろ。そして、兵を出して町の警備の強化……エミリアやセシリア様の学園にも潜んでるかもしれん、すぐに洗い出せ!」


「はっ!」


 首を垂れる男。

 国にいつの間にか根付いていた闇に国王は頭を抱える。


もし、エミリアや聖女の身に何かあればーーーー問題は、国内だけでは収まらない。



 ♦♦♦



 千種の森の入り口————そこから離れた場所でカエサルは大剣を携えて座っていた。この位置からは森全体が見え、いつでも魔信号を発見するのにはうってつけであった。


「なぁ、ジョセフさんよ? 本当にあのパーティーでよかったのか?」


 カエサルは暇そうに胡坐をかきながら訪ねる。


「えぇ、問題ございませんよ」


 反応したのは全身を覆うローブを纏った若気な青年。

 カエサルと同じ、Sクラスの実技授業を担当する講師の一人である。


「実力的にもユリス・アンダーブルクをセシリア・アメジスタを同じパーティーにするべきだっただろ? 聖女様はサポートとしては特化しているが、戦闘に関しては皆無だ————その点、あいつは実力に関しては文句ねぇ、無理にあのパーティーするべきじゃないと思うんだが?」


 カエサルは心配なのだ。

 確かに実力を至上しているこの学園でも、生徒に万が一が起こらないように配慮したい。

 その為、聖女とではなくセシリアの安全と実力を伸ばすと言う両方の側面において、ユリスと同じパーティーにすればよかった、そう思っているのだ。


それに、聖女は国からお願いされてこの学園に入っている。いくら実習とは言え、その身に危険があってはならない。


もし何かあれば、それこそ学園や国だけの問題じゃなく、周辺諸国から敵視間違いなしなのだ。


「いえいえ、そんな事ありませんよ。彼女のパーティーにはユリスくんに続く実力のエミリア様、それに二重属性ダブルのバーン様がいますし、大丈夫です」


「そうなんだが……」


 バーン、エミリアとセシリアを一緒にしたのは問題ないと告げるジョセフ。

 それに渋々折れるカエサルは、食堂での一件を知らない。もし、知っていたのであればかなり反抗していた事だろう。


 これは、エミリア達が怠慢故なのか、学園側に報告しなかった事が起因している。


「それに、強き者に守ってもらってばかりでは自身も強くなれません。彼女も、サポーターとはいえ、実力を伸ばしたいはずです……あなたなら、よくお分かりでしょう?」


「まぁ、確かに守ってばかりじゃ強くなれねぇ……冒険者としては理解できるが……」


「そうです……もし、何かあれば彼女達は魔信号を打ち上げますし、私達が守ってあげれば問題ございません————彼女達は実力を伸ばせ、交友を深めれる……正にです」


 爽やかに笑うジョセフ。

 それを見ても、カエサルの不安は拭いきれない。

 本来、聖女は後ろで守られ他者を癒すのが仕事だ。冒険者であろうとも、パーティーの基本はそこであり、聖女兼ヒーラーであるセシリアに実力をつけさせなくてもいい。


 しかし、それでも力をつけたいと言ったヒーラーを、カエサルは何人も見てきてしまった。

 だから、ジョゼフの言葉を否定しきれない。


 カエサルは胡坐をかきながらも森を絶えず注視する。


 講師として、生徒の成長と安全を守る為に————




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