大罪の魔術師対S級冒険者
ユリスは他の生徒が出る前にカエサルの元に赴く。
その足取りは決して臆すことなく、不遜に堂々と進めていった。
「次はお前か、ユリス・アンダーブルク」
「はい、どうかその目で俺の実力を測っていただければと」
ユリスがカエサルの正面に立つ。
「確かお前は無能と呼ばれていたな……がしかし、Sクラスに在籍しているという事は実力があるんだろ? 学長も、やけにお前の事を褒めていたしな」
「……左様で」
ユリスの登場に、周囲がざわめく。
「無能が相手になるわけがない」「さっきの試合を見ていなかったのかしら?」「そもそも、このクラスにいる事自体がおかしいんだ」と。
だが、一方でユリスを知る人物は固唾を飲んで見守っていた。
「ユリスくん……大丈夫かな?」
そのうちの一人、ミラベルが不安そうに言葉を漏らす。
これはただの実力確認で、命の奪い合いなどでは決してない。だが、周囲のアウェーがミラベルの不安を掻き立てる。
だが、隣にいるセシリアは違った。
「ユリスが負ける訳がありません! ユリスは強いですから!」
「まぁ、確かにユリスが負けるところは想像がつかないわね……」
そして、戻ってきたアナスタシアもセシリアに同意する。
ミラベルはそんな二人の言葉を受け、再び視線をユリスへと向けた。
(流石S級冒険者……迫力が半端ねぇな……)
そんな周囲が見守る中、ユリスは対面するカエサルの気迫に感嘆していた。
ただ剣をブラ下げて、脱力して構えすらとっていない。相手を前にして傲慢な態度————そのはずなのに、彼からは一向に隙が伺えないのだ。
ユリスは腰に据えている片手剣を構え、カエサルに切っ先を向ける。
そして————
「
短く詠唱し、大罪の魔術師らしく傲慢の名の元に、相手の背後を自らの正面に移動させる。
ユリスはその瞬間、勢いよくその剣を突き出した。
————が、しかし。
「ふんっ!」
(ちょ、マジか!?)
カエサルは、一瞬にして移動したユリスに向けてその大剣を振り下ろしていた。
まるで、ユリスがその場に現れるのを知ってたかのように。
故に、ユリスはいきなりのその光景に目を見開く。
眼前に迫るカエサルの剣を目の前にして、ユリスは剣を突き出すのではなく————
「
回避を選択した。
このまま剣をカエサルに向けても、先にカエサルの剣が己に届いてしまうと判断したからだ。
だからユリスは距離をとり、元いた場所を己の足元に座標を移動させた。
そしてユリスが消えた瞬間、カエサルの剣がもの凄い威力で空を切る。
「速い————ではないな、お前のソレは移動しているのか?」
カエサルが、いなくなった場所から視線を動かし、ユリスを見据える。
「……なるほど、この年でそこまで至るのか。Sクラスにいるのも納得だな」
「……そりゃどうも」
ユリスは敬語など忘れて、カエサルを鋭い視線で見つめる。
「参考に、どうして俺を捉えることができたか聞いていいか?」
「なに、簡単な話だ————俺がお前を捉えることができたのは視線だ」
「……視線?」
「あぁ……お前のソレの原理は分からんが、お前は消える前に視線を一点に集めていた————それはつまり、お前がそこに移動するって事じゃないのか?」
事実、ユリスの
故に、ユリスは移動させる前にその座標に視線を移さなければならない。
だから、簡単な話カエサルの言う通り、ユリスが消える前に視線を注視していれば、何処に現れるのかが分かり、対処は可能になる。
しかし————
(それを初見で見破ってくるか普通……?)
ユリスとて、
内心、歯嚙みする。
「同じS級の『迅速』でもこの速さは生み出せないが……あいつは、そこらへんはしっかりカバーしていたからなぁ————その点、お前はまだ拙い」
「……」
カエサルはユリスに視線を合わせる。
「どうした、これで終わりか?」
「いや————まだだ……」
ユリスはそれでも、傲慢の魔術を使って相手の懐に潜り込む。
♦♦♦
それから数度、ユリスは
だが、どれも全てカエサルによって防がれ、逆に攻撃を仕掛けられる。
傍から見れば一方的にユリスが攻撃してるように見えるが、実際はユリスの攻撃がことごとく通じていないだけだ。
「どうした、どうした!? それでもうお終いか!?」
いつの間にか感情が昂り始めたカエサルが、迫りくるユリスに向かって剣を振るう。
「ちぃ……ッ!?」
頭上に移動させたユリスに向けて、カエサルは獰猛な笑みを浮かべて切っ先を突き上げていた。
それを、寸前のところで回避する。
「はっはっはー! 久しぶりの高揚感だぞユリス・アンダーブルク!?」
離れた場所に現れたユリスを見て、カエサルは高笑いをする。
どうやら、カエサルは
カエサルにとって、己の高揚は戦闘だ。
強者と戦い、緊張感を味わうことによって悦に浸れる。
だが、カエサルはS級クラスの実力保持者。
故に、カエサルを楽しませるような実力を持っている人間は数少なく、昂っているという事は、ユリスが強者だと示しているようなものだった。
それに対し、ユリスは一人カエサルとは別の感情が湧き上がっていた。
「……ルい」
「あ?」
「ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルい」
ブツブツと、ユリスは剣を地面につけながら同じ言葉を連呼していた。
周囲から見れば、今のユリスは壊れているように見えてしまう。
俯き、拳を震わせ、傲慢な態度も不遜な言葉も消え去り、ただただ————負の感情を撒き散らしている。
「その速さ! 力! 技術! 地位! 才能! 経験! 全てが妬ましいッ!!! 俺には持ち合わせていないその実力が羨ましいッ!!!」
ユリスは、憎悪溢れるその瞳でカエサルを捉える。
「お、お前は何を言って……?」
カエサルはユリスの豹変ぶりに戸惑ってしまう。
壊れてしまったのか、やりすぎてしまったのかと、先ほどの昂っていた感情が消え、不安に駆られる。
「その力が欲しいッ! 貴様のその全てを、俺は欲するッ! だから————」
ユリスは、剣を構え————
その速さは、バーンとの戦いで見せたカエサルと同等。
「なッ!?」
「我が
ユリスは、嫉妬の魔術を行使した。
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