自己紹介

 講堂に移動したユリス達は無事に入学式を終えることができた。

 幼すぎる外見の学長の話や、新入生代表の挨拶ーーーーこれは格的にも第三王女のエミリアが選ばれていた。

 そして、在校生代表としては会長が新入生に激励の言葉を送り、入学式を終える。


 そんな入学式が終わった後は、すぐさま教室に移動。

 全く、初日から忙しないものである。


「これから一年間、お前達の面倒を見ることになったカエサルだ。よろしく頼む」


 教室では朝来た講師とはまた別の人間が挨拶をし始めた。

 褐色肌にガチムチな筋肉質の体、険しい顔つきに頬の大きな傷痕。

 それだけで、彼からただならぬオーラをユリス達は感じ取ってしまう。


 それもそのはずーーーー


『お、おいっ!? どうしてここにS級冒険者がいるんだよ!?』


『わ、私……初めて見た……』


『こんな人が俺達の講師かぁ……』


 彼は世界に数人しかいないS級の冒険者。

 魔獣退治や護衛任務、採集などの家業を生業としている何でも屋ーーーーその頂点に位置する人間である。


 もちろん、その実力は折り紙つきーーーー世界トップクラス。


「えー、俺も講師なんて初めてだからなぁ……正直、よく分かっていない。だからとりあえず自己紹介でも頼むわ」


 気の抜けた声で、彼は教卓傍の椅子に座り自己紹介を促す。

 急に振られた自己紹介。それに我先にと答えたのはーーーー


「はいーーーーエミリア・ラピズリーです。王女という肩書きはありますがそれでも仲良くしていただけたら嬉しく思います」


 席を立ち、凛とした声で淀みなく答える。

 靡く銀髪が視線を惹き、整った顔立ちが視線を釘付けにするーーーー流石は国のトップたる人間だ。


 王女だからなのか、誰よりも率先して始めたのはエミリアだった。


「俺はバーン・ユグノー! 二重属性「ダブル」の使い手であり公爵家の嫡男だ! 平民と無能は精々俺の足を引っ張らない事だな!」


 続いてユグノー公爵家嫡男、バーン・ユグノー。

 不遜な態度で、堂々と声を張り上げて自己紹介を終えた。周囲からは「流石はバーン様!」などと褒め称えているが、ユリス含む一部の人間は隠しきれない不快感を醸し出していた。


(……どうしてあいつがここにいるんだろ?)


 ユリスは疑問に思う。

 確か、バーンはユリスによって見せる場もなく試験を終えたはず。


 なのにどうして?


(……まぁ、素質って言う部分で入ったのかもな)


 バーンは滅多に見ない二重属性ダブルの使い手だ。

 そういった面で、もしかしたらSクラスに入れたのかもしれない。


 しかし、ユリスに敗北したにもかかわらず、傲慢な態度である。


「アナスタシア・ミラーよ。公爵家の人間だけど、普通に話しかけてくれたら嬉しいわ」


 そして、今度は優しげな表情を作ってアナスタシアが挨拶をする。

 傲慢なバーンとは正反対だ。


「私はーーーー」


 そして、それに続いて自己紹介は進んでいく。



 ♦️♦️♦️



 そのまま自己紹介は過ぎ去り、残すとこセシリアとユリスになった。

 ミラベルとリカードは何気にもう済ませてしまい、取り残された感がユリスを襲う。


(セシリアには申し訳ないが、トリはしたくないからな)


 だからユリスは前の人が終わったのを見計らい、立ち上がろうとする。

 しかしーーーー


「セシリアです!教会に属するシスターですが、皆さんと仲良くしたいと思っています!」


 先んじてセシリアが先制した。

 それもそのはず、ゆっくりと立ち上がろうとしたユリスとは違い、セシリアは早く自己紹介がしたいと終始そわそわしていたのだ。


 故に、やっと出番が来たと思って勢いよく立ち上がったセシリアに勝てるはずもなし。


(あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……)


 ユリスは悔し涙と悲しみの念を抱いた。


「ーーーー後、今はユリスの所でお世話になってます! 皆さん、どうかよろしくお願いいたします!」


(……は?)


 な・ぜ・そ・れ・を・言・っ・た・?

 ユリスは目を見開いて、むふん! とやりきった感を出すセシリアを凝視する。

 セシリアの爆弾発言に、周囲が一気にざわめき始めた。


 ユリスとセシリアが一緒に住んでいるという事は、アンダーブルクと関わりのある貴族は周知している。だから、その部分はユリスは諦めている部分もあった。


 がしかし、ここは国中から人が集まる王立魔法学園。

 当然、セシリアが一緒に住んでいた事など知らない人がいたわけでーーーー


(わーい……超やりにくくなったぞー)


 周囲の視線が一気にユリスに集まる。

 その視線に、ユリスは肩を縮めるばかりだ。


(絶対、後でセシリアにお仕置きをしてやろう……)


 内心そう決意し、ユリスはざわめき立つ中、椅子から立ち上がる。


「ユリス・アンダーブルクーーーーアンダーブルク子爵家の一人息子で、色々と迷惑をかけるかもしれないけど、よろしく頼んます」


 周囲の囀ずりなど気にしていても仕方がない。

 ユリスは臆することとなく、皆と同じような短い内容で自己紹介をした。


 そこに無能と嘲笑う者はいなかった。

 ……別に皆が改心したからなどでは決してない。


『おい、子爵家風情がセシリア様を囲っているのか?』


『調子に乗っているんじゃない?』


『若しくは聖女様を脅している可能性もあるな……』


 ただ、それ以上の話題が沸き上がっただけである。


(もうっ! セシリアちゃんのお馬鹿っ!)


 にこやかに自分を見るセシリアに内心愚痴る。

 眉間にシワがよっているのは、きっと気のせいではないのだろう。


 だけど、セシリア以外にもユリスを優しい目で見る生徒もいた。

 ミラベルにアナスタシア、そしてリカードーーーー皆、ユリスの自己紹介に不快感を表したりしていない。


「よし、自己紹介も終わったなー。一年間は同じクラスなんだ、仲良くしろよー」


 S級と呼ばれる講師が自己紹介が終わるのを確認すると、気だるげに立ち上がる。


「それで、今日から本格的に授業を行っていくわけなんだがーーーー生憎と、俺はお前達の試験を見たわけでもねぇ……故に、お前達の実力も分からないわけだ」


 そして、ゆっくりと教室のドアへと足を向け、最後にクラスの皆に言い放つ。


「だからお前ら、今から訓練所に来い。俺が直々にお前らの実力を測ってやる」


 初日、王立魔法学園最初の授業は、どうやらS級冒険者との立ち会いみたいだ。

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