いきなりのアウェー
「改めて見ると壮大だよな……」
「えぇ……教会本部と同じくらいの大きさですよ……」
「エルフ領にはこんなに大きな建物ないから……」
皆に見送られ、アンダーブルク領を出立したユリス達は現在王都西部に位置するラピズリー王立魔法学園へと足を運んでいた。
どれだけ金かけてんだとツッコミたくなるような校門に、皆の首は上に向くばかりだ。
「……俺、ここで4年過ごすのかぁーーーー王都慣れしないか心配だな」
「そんなこと言ったら私もなんだけど? というか、アンダーブルク領よりエルフ領の方が何もないからね?」
「そうなんですか?」
「うん、エルフ領はほとんどが森だからね……エルフは森で生まれ、森で育ってきたから」
だからこそ、ミラベルにとって外に出るだけで物珍しい事が広がっている。
王都に足を運んだだけで、そこら辺を歩くだけでミラベルにとってはどれも新鮮なものなのだ。
「じゃあ、さっさとクラス分けでも見に行くか?」
「そうですね! 二人と同じクラスになれたら嬉しいです!」
「私も、知り合いとかいないから二人と同じクラスになれたらいいなー」
なんてやり取りをしつつ、ユリス達はようやく校門から足を離した。
王立魔法学園の敷地は広大で、一つの建物を移動するだけで少しばかり距離を歩く。
故に、クラス分けが張り出されている掲示板まではかなりの距離を歩いた。
そして、ユリス達は大勢の人だかりが集まる掲示板前までやって来た。
「……素直に見えないな」
「えぇ……ユリス、なんとかなりませんか?」
「無茶言うな」
ユリスの魔術は万能ではない。
そんな都合よくこの人だかりの中、クラス分けを見れる魔術は残念ながら編み出していないのだ。
「あれ? 私見えるけど?」
「マジっすかミラベルはん!?」
「いきなりの口調に驚いたけど……ま、まぁ! エルフは生まれながら耳と目はいいからね!」
胸を張り自慢気に言うミラベルを見て、だから耳が長いのかと納得したユリス。
多分、全く関係ないとは思うが。
「それで、私達は何処のクラスになるのでしょうか?」
セシリアの疑問に、ミラベルは早速と目の上に手を当てて掲示板を見る。
「えーっとねーーーーまず、セシリアちゃんがSクラスで、私もSクラス……あっ! ユリスくんもSクラスだ!」
「おぉー、じゃあ皆同じクラスか」
「やりましたねユリス! これで皆ずっと一緒です!」
「すまんミラベル……どうやら俺達はお風呂に入るときも寝るときも、ずーっと一緒みたいだ! やったね!」
「お、お風呂っ!?」
「そ、そこまで一緒とは言ってませんよ!?」
ユリスの冗談に二人は顔を真っ赤にする。
どうやら、二人は乙女心がだいぶ強いらしい。
それを見て、何ともいじり甲斐があるのかと、ユリスは悪どい笑みを浮かべる。
「は、話が変わるけどーーーーなんかSクラスが他のクラスより人数が少なかったんだけど……どういう事かな?」
「……さぁ?」
「分かりません」
学園の説明も何も受けてないユリスとセシリアは首を傾げる。
ミラベルが掲示板を見ると、そこにはA~Eと、Sクラスの6つのクラスがあった。
そこでは各クラス40人。だが、Sクラスはその半分ーーーー20人しか名を連ねてなかった。
一体どういう事か?
それは少なくともこの場では分からないだろう。
「とりあえず教室に行こうぜ? 確かクラス分けを見たら一旦は教室に集合のはずだろ?」
「そうだったはずだよ!」
ここでじっと待っていても仕方がない。
だからユリス達はSクラスの教室へ足を運ぶべく、その場から離れた。
「ふふっ……私、学園というものに通ったことがないので、楽しみです!」
ユリスの隣でセシリアが嬉しそうに笑う。
その表情は思わず見惚れてしまうほど、可憐なものだった。
「そうだな……」
だけどユリスだけは、その表情を見て微笑ましく思ったのであった。
♦️♦️♦️
「ここがSクラス……だよな?」
「そうじゃないかな? だって表札に「S」って書いてあるし」
「では、さっそう入ってみましょう!」
ユリス達はSクラスの教室に辿り着いた。
教室がある棟まではかなりの距離があり、ユリス達は迷いかけてしまうほど。
そして、やっとの思いで辿り着いたSクラスの教室は、何故か他のクラスとは離れていた。
だが気にしても仕方がない。
そう思い、ユリスは教室のドアを開ける。
するとーーーー
『……おい、聖女様がいるぞ?』
『マジで? ……噂は本当だったんだ』
『それに、隣にいるのはエルフじゃない?』
セシリアとミラベルを見るや、教室がざわつき始める。
世界に3人しかいない聖女、そして滅多にエルフ領から出ないエルフは物珍しく、皆が気になるのも仕方ない。
だがーーーー
『でも、どうしてここに無能がいるんだよ?』
『どうせ引率だろ? 無能がSクラスに入れるわけねぇーーーーそれに、学園にすら入れるわけねぇよ』
『ここに来て、恥ずかしくないのかしら?』
一方で、ユリスは別の意味でざわつかれていた。
まぁ、ユリスがここに足を運んでいるのなら、そう思われるのは無理はない。
何故なら、ここにはユリスが無能と知っている貴族の息子娘が沢山集まっていたからだ。
ユリスは見知った顔がいくつもあると、ガックリ肩を落とす。
それに、1人だけ異彩を放つ人物を発見した。
靡く銀髪に整った顔立ち、お淑やかな雰囲気と醸し出される威厳がヒシヒシと伝わってくる。
(なんでここに第三王女がいるんだよ……)
ラピズリーの国民であれば誰もが見知る顔。
現国王の第三女であり、民から愛される象徴。
『エミリア・ラピズリー』
その人物と視線が合わなかったものの、彼女の周囲には沢山の貴族が取り囲んでいた。
(開始早々のこのアウェーに、国のトップがいる教室……父さん、俺この時点でメンタルやられそうです……)
ユリスは、この先の事を思いながら悲しみの言葉を父親に送ってしまうのであった。
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