試験が終わり帰宅

「たぁ……だいまぁ……」


「ただいま戻りました!」


 それから休憩で途中の街に1泊をしてから。

 ユリス達は無事にアンダーブルク領にある自分の屋敷へと到着した。

 まぁ、ユリスに至っては二人を長距離担いで移動していたので、息が素晴らしいほどに荒いのだが。


「お、おじゃまします……」


 玄関にユリス達が入った後、ミラベルもおずおずと中に入っていく。

 若干、広すぎる屋敷を見て萎縮してしまった部分もあるのかもしれない。


「おかえりなさいませユリス様、セシリア様ーーーーそちらの方はお客様ですか?」


 中に入ると、使用人の一人が気がついてユリス達に近づいてくる。


「あぁ……俺の友達だ。とりあえず、客間に案内してくれーーーー俺も、そこで休むわ」


「かしこまりました」


 ユリスはいち早くソファーにダイブしたい気持ちを抑え、ミラベルを客間に通すように伝える。

 まぁ、客間にもソファーがあるので、休むことはできるだろう。


「ではこちらへ。ご案内いたします」



 ♦️♦️♦️



 客間にやって来たユリス達は各々ソファーに座る。

 ユリスはぐでーっと仰向けになり、セシリアは使用人に出してもらった紅茶を行儀よく座り、ミラベルは落ち着かない様子で辺りを見渡していた。


 客間には歴代のアンダーブルク家の当主の肖像画が飾られており、大きな赤い絨毯と光沢を放つテーブルが豪華さを演出していた。

 子爵とはいえ、アンダーブルク家は貴族だ。客人に失礼がないよう、舐められないようにこの部屋だけは他の部屋よりしっかりとした作りになっている。


「あー、もうダメ! 俺、動けないわー!」


「お、お疲れさま……ありがとうねユリスくん」


「気にするな……元はこっちが迷惑かけたんだからなー」


 それでも疲れたと、ユリスは体勢を変えて今度はうつ伏せになる。

 その姿からは貴族の気品も感じられなかった。


「そういえば、ユリスくんのアレって魔法じゃないよね? 何か違うような気がしたんだけど……」


「ん? ……あぁ、俺のアレは魔法じゃなくて魔術だよ。魔法みたいに便利じゃないが、俺の唯一の武器だ」


「ユリスは魔法がなくても強いですから大丈夫です!」


 いまいち話が噛み合っていないようだが、それでもセシリアはユリスを元気付ける。


「便利じゃないの?」


「便利じゃないよ。俺の魔術は体内の魔力を使わない変わりに制約が存在するからな」


「制約……?」


「そう。簡単に言ってしまえば魔術を行使するにあたって、『必ず満たさないといけない条件』みたいなものだな」


 ユリスは顔だけ動かしてミラベルを見る。


「俺の大罪の魔術は自分か、若しくは相手がその大罪に触れた時点で発動する事ができる。例えば、今日使った傲慢「スペルディア」の魔術は、あの豚が相手を見下すような傲慢な態度をとってただろ? だから発動できたってわけ」


 傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、暴食、色欲、怠惰ーーーーそれらは全て人が抱く欲望の果ての罪だ。

 ユリスの魔術は、それらの名に関する罪を相手か自分が犯してしまうことによって行使することが可能になる。


 故に、自分が思っていたタイミングと魔術を好きな時に行使することはできないのだ。

 そんなに都合よく、相手と自分が欲にまみれる訳がない。


「へぇ……そうなんだ」


「そうなの……だから、どちらかと言えば、魔法の方が便利なんだよーーーーはぁ、羨まし」


 そう考えると、やはり魔法の方が扱いやすくて個々の努力さへあれば高みを目指せるので、そちらの方がいいのかもしれない。

 だからこそ、ユリスは嫉妬する。


 そんな時、不意に客間の扉が開かれる。


「戻ったか我が息子よ」


「おかえりなさい二人とも」


 そして、扉からはマルサとマリアンヌが現れた。

 二人はユリスとセシリアを見ると、労いの言葉をかける。


「はい、ただいま帰りました!」


「ふふっ、ユリスを監視してくれてありがとうねセシリアちゃん」


「いえ! ちゃんと行かせませんでした!」


(え? セシリアがついて来たのって俺を監視する為?」


 だから試験がないセシリアが一緒に来たのか。

 そして、かたくなにユリスを娼館に行かせなかったのはマリアンヌから念を押されていた為だったようだ。


「おや……そこの君はーーーー」


 マルサがミラベルの存在に気づく。

 その視線を感じ、ミラベルが勢いよく立ち上がった。


「は、初めまして! ミラベルと申します! ユリスく……ユリス様とお、お友達をさせていただいております!」


 緊張を含んだその言葉は、若干敬語が怪しかった。


「ふふっ、そんな固苦しい言葉は大丈夫よ。肩の力を抜いて話してくれたほうが嬉しいわ」


「あ、ありがとうございます……」


 そう言われても、すぐには変えれそうにない。

 相手はユリス達とは違って爵位を持った本当の貴族なのだ。


 ミラベルの気持ちも、少しだけ分かる。


「それにしても息子よ」


「なんじゃい、父上」


「お前……女の子を引っ掛けるの早くないか? 流石の俺でも、2日で見つけて来るなんて思わなかったぞーーーーそれに、こんな可愛いエルフの子を」


「違うわボケ!? ミラベルはそういう関係じゃないっつーの!?」


 ユリスは立ち上がり、父親の発言に激昂する。


「まぁ、2人を娶るのは貴族として問題はないのだが……後継問題とか、ややこしくなるぞ?」


「だから違うって言ってんだろ!?」


 この国では一夫多妻制は問題ない。

 逆に貴族であれば、子孫を残しやすくなると言う事で推奨されているくらいだ。


 だが、家督争いや後継問題など、色々なデメリットも浮上するので、マルサ的にはオススメはしない。


「セシリアちゃんっていう子がいながら……全く、息子には困ったものだわ。全く……誰に似たのだか」


「ん? 俺じゃないぞ? 俺は息子みたいな節操なしじゃないからな」


「 じゃあ俺は誰の息子だよ、あぁん!? っていうか、セシリアともそういう関係じゃないから! 」


 聞く耳を持たないーーーーと言うか、聞く気が一切ない。


「そんな事言ったら二人に失礼だろうが!?ーーーーなぁ、二人とも!?」


 だからユリスは二人にも異議を申し立てて欲しいと話を振る。

 しかしーーーー


「えっ、えーっと……」


「あ……っ」


「……どしてそこで顔を赤くしてるのさお二人さん?」


 セシリアとミラベルは顔を赤くして俯いているだけであった。

 何か言い返そうとすることなく、ただただ恥ずかしそうに。


「あらあら〜」


「流石、我が息子だな」


 ユリスは、何故か両親の言葉に苛立ちを覚えた。

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