王立魔法学園
ユリスが得意とする魔術は大きく7つある。
これらは大罪の名から冠した魔術であり、それぞれが名に相応しい事象を起こすものだ。
どうしてユリスが大罪の魔術を極めたのかは分からないが、きっと彼なりにこれらには思うところがあったのだろう。
しばらく休んだユリスとセシリアは王都に入っていた。
検問所で身分を証明し、今は王都南西に位置する王立魔法学園に足を運んでいる。
検問の際、「聖女様だ!」と騒がれてしまったのだが、それは余談。
そびえ立つ大きな学園。どれほどの金を積めばここまでしっかりとした物が造れるのだろうと不思議に思ってしまう程。
創立してからかなりの時間が経っているのにも関わらず、その校舎や施設は輝いて見える。
知らぬ人がここを見れば、開いた口が塞がらないであろうーーーーそれぐらい、ここは一段と違って見えた。
そして、大きな学門を潜り、受付所までやって来たユリスはーーーー
「ふざけんなよクソ親父がァァァァァァァァァァァァッ!!!」
ーーーー憤怒していた。
「お、落ち着いてくださいユリスっ!? 皆さんが見ていますよっ!?」
「これが落ち着いていられるかセシリア!? 聞いたか……今の受付さんの話を聞いたか!?」
必死に宥めようとするセシリアだが、ユリスは一向に沸き上がる苛立ちを抑えきれない。
何故ならーーーー
『あ、あの……数分後に入学試験を開始しますので……それと、聖女であるセシリア様は入学試験は免除になっておりますーーーー聞いていませんでしたか?』
「そんなん聞いてませんでしたよォォォォォォォォォォッ!? 何、明後日じゃなかったの!? っていうかセシリアが免除なんて聞いてなかったんですけどォォォォォォォォォォッ!?」
「わ、私も聞いていませんでした……」
なんと、明後日に試験が行われると聞いていたユリス達だったのだが、実は今日が試験日だったようなのだ。
それに加えて、セシリアは入学試験を免除。まぁ、国王直々のお願いとあれば、免除も当たり前なのかもしれない。
だがーーーー
「俺達が遅れてたらどうするつもりだったの父上は!? それにセシリアを連れてくる意味なかったじゃん!? 大事なことを忘れるとか頭沸いてんのかね、うぅん!?」
今こそ、間に合ってはいるものの、もう少しでも休憩時間が長ければ、きっと間に合っていなかっただろう。
それに、セシリアを連れてくるにあたって疲労感もいつもより多かった。これなら連れてこずにひとりで行った方が楽だったのだ。
加えて、休んだとはいえユリスは片道2ヶ月の道程を移動してきたのだーーーーその疲労は、未だ拭いきれていない。
そんな状態での試験……辛いものがある。
「ま、まぁ……誰にも間違いはありますし、そんなに怒らないでください……」
セシリアは周りの目を気にしながらユリスを宥める。
行き交う人の視線が凄まじいが、激情に駆られているユリスには気にする余裕もなかった。
今、脳裏に浮かぶのは父親の「あ、すまん間違えてたわ」という悪びれない姿と、溢れんばかりの憤り。
「許さん……
「それは流石に可哀想ですよ!? も、もうっ! 落ち着いてくださいユリス!」
湧き上がるこの怒り、大罪の名のもとに粛清しなければ……そんな憤怒するユリスの思考は一気に猟奇的になった。
(帰ったら絶対に許さん……あのクソ親父!!!)
『ユリス・アンダーブルク様、試験を開始いたしますので移動してください』
そんな事を思いながら、受付嬢の声に従ってユリスは受付所から移動した。
♦️♦️♦️
案内されたのは訓練所みたいな場所だった。
中央に広がる円形のグラウンドを囲うように客席が配置されており、ユリス含める同い年の少年少女がそのグラウンド入り口に集められている。
そして、集まる生徒は初めて訪れる学園に興奮しているのか、落ち着きがなくざわついていた。
「見ろよ……ここに『無能』がいるぜ」
「本当に、自分が入学できると思ってるのか……」
「無能は無能らしく辺境で大人しくしていればいいものを」
周囲からそんな蔑むような声が聞こえる。
きっと、ユリスより爵位が上な貴族の息子達だろう。皆、一様に嘲笑うかのような目をユリスに向けていた。
(うわぁ……すっげぇアウェー感……)
ユリスは大きなため息を吐く。
もちろん、蔑んでいるのは一部の貴族達で、爵位が低い貴族や平民の人達からはそんな声は聞こえない。
というか、きっとユリスの存在も知らないのだろう。皆、緊張した顔つきを見せている。
それも当然。
王立魔法学園は誰しもが憧れる場所であり、入学できるのは才ある若者だけなのだ。
……まぁ、一部の貴族に関しては自分が落ちるなんて疑ってもいないみたいだが。
『頑張ってくださーい!』
客席では、試験免除の為に用がなくなったセシリアが大きな声援を向けている。
その所為か、周囲のざわつきがより一層強くなった。
「お、おいっ! 聖女様がいるぞ!?」
「ほ、ほんとだ……何て神々しい……」
「やべぇ、余計に緊張してきた……」
聖女は民から愛され、慕われている存在。
優しく、信仰する女神に最も近い存在として崇められていれば、そう言った反応をされるのも無理はない。
一方でーーーー
「ほう、どうやら聖女様は俺のことを見に来たらしいな……」
「バーン様は公爵家の人間ですから、当然ですね!」
盛大に勘違いしている人もいた。
勿論、セシリアはユリスに向けて声援を飛ばしているのであって、不遜に偉そぶっている貴族に向けてではない。
そんな事も露知らず、金髪の少年貴族は笑みを深めていた。
(……こりゃまた貴族が多い事で)
ユリスは辺りを見渡しながらそんな事を思う。
集められたのはざっと200人ほど。
その中にはパーティーとかで見知った貴族の姿がチラホラと見える。
爵位が上な人もいればユリスより低い人も、種族も問わず……色々だった。
『これより、王立魔法学園入学試験を開始致します!』
すると、中央に立つローブを羽織った女性が意気揚々と響く声を出した。
おそらく、ここの教師なのだろう。
それによって、皆その女性に注目を集める。
そしてーーーー
『試験内容は至ってシンプルーーーー己の力を使っての試験者との1対1の勝負になります!』
ーーーー入学試験が、始まった。
♦♦♦
(へぇ……アンダーブルク子爵の息子が試験に参加……ねぇ)
一人、ユリスが気がついていない中、訓練所では赤髪の少女が面白そうな目をユリスに向けていた。
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