王都に向けて
入学試験が明後日に行われると聞いたユリスとセシリアはその日の昼から王都に向けて出発した。
見送りにはマリアンヌと使用人一同、そして噂を聞き付けた領民が来てくれた。
マルサに至っては何故か、穴に埋まっていた為見送りには来れなかったそうな。
皆の暖かな声援を受け、馬車も護衛も用意されていなかったユリス達はーーーー
「す、すごいですよユリスっ! 景色があっという間に変わっていきますっ!」
「はしゃぐのはいいけど、絶対に俺から手を離すなよ?」
ーーーー空を飛んでいた。
セシリアをお姫様抱っこで担いでいるユリスの姿は一瞬にして消える。
次に現れるのは遥か先の上空。そして、少しばかりの浮遊感を味わいながらまた消え、再び遥か先ーーーー王都に向けて進んでいった。
……まぁ、ユリス達は空にいるのだが、些か『飛んでいる』という表現は間違っているかもしれない。
多分、傍から見た人はこう思うだろうーーーー
「まるで瞬間移動ですねっ!」
「……まぁ、そうかもな?」
飛ぶのではなく移動する。
こんな姿、他人が見たらきっと驚いてしまうだろうーーーーだからこそ、ユリス達は空を移動して王都を目指しているのだ。
王都まで2ヶ月はかかる距離をあっという間に縮めていく。
マルサがユリス達の為に馬車と護衛を用意しなかったのは、必要ないからという理由かもしれない。
「それにしても、ユリスの魔術はすごいですね……テレポートなんて、現代の魔法では到底再現できませんよ」
「正確に言ったら、これはテレポートではないぞ?」
「そうなのですか?」
セシリアは不思議に思ってユリスの顔を覗く。
だが、ユリスは安全運転を優先している為、その視線には応じない。
「あぁ……どちらかというと、これは『俺達が移動している』訳じゃなくて『世界が俺達に合わせて移動する』ってものだな」
「……世界、ですか?」
「そうそう。だって考えてもみろよ? どうして移動するのに俺自らが動かなくてはならん? 俺が移動するぐらいなら向こうから移動してくるのが当たり前……この俺を動かそうとするなんておこがましいにも程がある」
ユリスのこの魔術は『視界に入った座標を自分がいる座標に移動させる』というものだ。
視界内の座標を定め、己の座標へ移動させることによって自分の座標が上書き……定めた座標が浮き上がり、まるで移動したかのようになるのだ。
だから、こうして瞬間移動しているように見えて、尚且つ足場のない空を物凄い勢いで移動できているのだ。
「ふふっ、傲慢ですね」
「当たり前だ……
「それにしては、普段のユリスは全然傲慢ではないですよね? 謙虚というか大人しいと言いますか……」
「……うるせ」
そう振る舞おうとしても、中々振る舞えるものではない。
……だからこそ、自分は
「それじゃあ、このまま一気にいくから……絶対に離すなよ?」
「分かりました!」
「……離すなよ?」
「フリですか!? ユリスは離して欲しいのですか!?」
「はははっ!」
少しだけ楽しい気分になりながら、ユリスはそのまま
♦️♦️♦️
「はぁ……はぁ……ギブ! もう無理動けませんぜ俺は!」
王都から少し離れた草原の上。見渡せば王都を囲うような砦が視界に入り、遮蔽物が一切ないこの場所は爽快感を与えてくれる。
そんな草原で、ユリスは息を荒らしながら横たわっていた。
一方のセシリアは労うように、己の膝の上にユリスの頭をのせて頭を撫でている。いわゆる膝枕だ。
「お疲れ様でした」
「そうっ! お疲れ様だ俺!」
出発してから6時間。ユリス達はなんとか無事に王都まで辿り着くことが出来た。
後は検問所を通って魔法学園で受付をすればおしまいだ。
それでふかふかのベッドでゆっくりすることができる。
(あー……でも、このままでもいいかも……)
きっと、セシリアの膝枕はどこの高級宿よりも快適なのかもーーーーというか幸せだろうな……そう思ったユリスだった。
「疲れたのであれば、私の魔法で癒してあげましょうか?」
「多分、俺には意味ないから大丈夫。俺の今の疲労って身体的じゃなくて精神的なものなんだから」
「精神的……ですか?」
「あぁ……って言うのも、俺の魔術は体内の魔力は使っていないーーーーその代わり『空気中の魔力を使って行使する』ものなんだ」
魔法は体内の魔力をイメージに乗せて事象として起こすものだが、ユリスが産み出した魔術に関しては体外の魔力をイメージに乗せて事象を起こす。
故に、魔力がないユリスが行使する事ができ、魔力の限界という概念も存在しなくなる。
「だけど、魔術も万能じゃない……例えば、魔術行使の際には『制約』が存在するし、体外の魔力を集めて事象に起こすのは魔法以上に精神を使うんだよ……はぁ」
「うーん……私にはよく分かりませんがーーーー要するにお疲れなんですね!」
「そうそう……だから癒してけろー」
「ふふっ、ではしばらくここで休憩しましょうね」
セシリアはぐだーっとするユリスの頭を撫で続ける。
一見してみれば怠けているのかもしれないが、今ばかりはいいだろうと。
「よく頑張りました」
優しい笑みをユリスに向けるのであった。
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