第2話

  床が見えない程ゴミが散乱したアパートの部屋が、綺麗に片付けられてピカピカの床になっていたのも衝撃的だったけど、その後うたの学校で有名な女子生徒2人がメイド服姿で登場したのだから、叫んだ後思わず呆然と立ち尽くす私。

  これは、また夢かもしれないともう一度自分の頬を抓る。うん。痛い。夢じゃない。という事は……


「あ……!?貴方達……!?何で……!!?」


私は何で2人が私の部屋にいるのか問い詰める為に声をあげたが、それを制するように浅川 氷菓さんがスッと前に出る。


「ご主人様。色々聞きたい事はあると思いますが……まずはお食事をいただいてからにしませんか?」


浅川 氷菓さんにそう言われ、私はようやくリビングの方からとても美味しそうな匂いが漂っているのに気づく。


「えっ……あれ……もしかして……2人がご飯を作ってくれたの……?」


「正確に言うなら夕飯はお姉ちゃん1人で作ったけど、その分朝食は私がやりますから楽しみにしていてくださいね♡」


「へっ……!?朝食……!?一体どういう……!!?」


「まぁまぁ!とにかく!せっかくお姉ちゃんが腕によりをかけた料理が冷めちゃいますから!早くリビングに行きましょう!」


浅川 日菜さんに腕を引っ張られる形で私はリビングへ連れて行かれる。その私の後について行くように浅川 氷菓さんもリビングへ足を向ける。




「えっ……?嘘……?ここ本当に私のリビング……?」


玄関よりもゴミが散乱していたはずの私の部屋のリビングはすっかり片付けられ、床もピカピカに磨かれスッキリした部屋に生まれ変わっていた。唯一汚い部分は、端の方に固めて置いてある大量のゴミ袋ぐらいだろうか……


「あからさまにゴミだと分かる物は右側のゴミ袋群に、どちらか判別つかないものは左側のゴミ袋群と別けましたので、確認していただけると幸いです」


「散らかった服は洗濯してタンスにしまいましたよ。本やDVDもちゃんと棚に収納しましたけど、ご主人様の好みの位置があるなら後で教えてくださいね!キッチリそのように整理しますから!」


「えっと……その……ありがとう……それと……片付けさせてごめんなさい……」


言われた通り後で確認したけれど、ゴミ袋に入っていたゴミは右も左も全部間違いなく捨てていいゴミだったし、服は綺麗に洗われて私でも分かりやすいぐらいきちんと整頓されていた。本もDVDも作品毎にキッチリ揃えて棚ぬ収納されてて、文句をつける箇所など一つもなかった。


「さぁ!とりあえずまずはご主人様!お姉ちゃん渾身のハンバーグを召し上がってください!」


  浅川 日菜さんに促され、久々に物があまり散乱していないテーブルの上を見ると、それは見るだけで美味しいと分かるハンバーグに、綺麗に盛られたサラダ。レストランで出るようなコーンポタージュスープが置いてあった。


「こ……これ全部……浅川さんが……?」


「ご主人様!いつも言ってますけど、ここには浅川は2人いるんですよ!」


「えっ……あっ……それもそうね……浅川 氷菓さんが1人で作ったの……?」


「フルネームではなく氷菓だけで結構です。ご主人様。答えはイエスです。今日の夕食は私が担当いたしました。ご主人様の口に合えばいいのですが……」


いつも通り無表情だが、どこか不安そうな声で伝える氷菓さん。いや……でも……心配しなくても、どこからどう見ても美味しいとしか言えない代物だし……問題ないと思うんだけど……

とりあえず、氷菓さんや日菜さんに促され、私は氷菓さんが作ったというハンバーグを口にした。


「ッ!!?何!?これ!?どこの高級レストランのハンバーグ!!?」


「普通に近所のスーパーで売っていた特売品の牛挽き肉のハンバーグですが」


「近所のスーパーの特売品!?嘘でしょ!?肉は柔らかいし!?肉汁がジュワアァ〜って溢れてくるし!?」


「そこは色々と企業秘密なコツがありますので」


どこか得意げな声色で語る氷菓さん。でも、誇っていいと思う。この出来なら……サラダも久しぶりにしなっていないシャキシャキと歯応えがある野菜で、コーンポタージュも、本当にレストランで出されてるような味だ。しかも、このコーンポタージュはレトルト品ではなく、氷菓さんの手作りだというから驚きすぎて言葉を失いそうだ。


「むぅ〜……お姉ちゃんばっかり褒められていいなぁ〜……」


「話し合って今日の夕食は私が担当すると決まったでしょう」


「そうだけどさぁ〜!やっぱり私も最初にご主人様に手作り料理美味しいって言ってもらいたかったの!!」


「そこはじゃんけんで負けた日菜が悪いです」


そんな口喧嘩を浅川姉妹がしていたが、私は特に気にも留めず、久々に舌もお腹も満たされる料理を堪能し尽くした。





「……さて、それじゃあ……そろそろ話してもらえるかしら?」


氷菓さんの手作り料理のあまりの美味しさに幸福感を味わいしばし呆然としていた私。その間2人はテキパキと食器の片付け等を全て終えた後に、私はハッと我に返って改めて2人を問いただす事にした。


「何かの罰ゲーム?」


「ご主人様ぁ〜……いくらなんでも私達罰ゲームで担任の先生の所まで来てメイド服でお世話したりしませんよ!まぁ、先生なら別ですけどね……」


日菜さんが溜息を吐きながらそう答えた。最後に何か言ったような気がするけど、気のせいかしら?


「罰ゲームじゃないなら一体何故……?」


「説明はこの方にしてもらいます」


そう言って氷菓さんは一台のパソコンを持ってやって来た。そのパソコンの画面に映っていたのは……


「へっ……?お母さん……!?」


『はぁい!真澄美!』


パソコンの画面に映っていたのは間違いなく自分の母親だった。

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28歳独身の女教師の元に教え子の美人双子姉妹がメイドとしてやって来た 風間 シンヤ @kazamasinya

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