第6話 これが村長(2)
村長の家に入ると、リビングには金髪の爽やかな男が、淹れたばかりの湯気の出ているコップを片手に持ち椅子に座っていた。疲れているような表情から、やっとひと段落着いたところなのだろうという印象を受ける。しかし、着ている服は、今日一日着ていたとは思えない程、皴のない綺麗なものだった。
「やぁ、アルト君」
「どうもダランさん、今日の報告に来ました。今、大丈夫ですか?」
「ああ、構わないよ。そこに座りたまえ」
「いえ、ここで結構ですよ。それで、今回の件なのですが……」
俺は、今回の魔物の異常性についての説明と中級以上の魔物がいることは説明をしなかったが、村の警備を強化するように言った。
「以上です。これからは、活動の範囲を広げようと思っているので、報告の時間が遅くなってしまうのですが大丈夫でしょうか?」
しかし、自分で報告していて思ったが、今回の件は村人たちが混乱しない様にもっと詳しく調べる必要があるな。
「そうか、魔物にそんなことがあったのか。教えてくれてありがとう。それと、範囲を広げるのは構わないよ、こちらとしてもありがたいことだからね。」
「ありがとうございます」
「ところで、アランを見かけなかったか? まだ、帰ってきてないようなんだ。」
「アランなら、さっきラディアとどこかに出かけているのを見ましたよ」
「そうか、ありがとう。今日の夜は特に暗い、気を付けて帰るといい」
ダランは、俺の言葉にどこかホッとしたような顔を一瞬見せた。
「お気遣いありがとうございます。では、帰る前に一つ質問してもよろしいでしょうか?」
「別に構わないが、どうしたんだい?」
「ありがとうございます。質問なのですが、この村の近くにある森の探索をギルドへ依頼をしましたか?」
「いや、私はギルドへ依頼を
「いえ、特に問題はないので大丈夫です。では、失礼します」
「そうかい? では、気を付けてね」
俺は、村長の家から出ると近くの林に身を隠し、村長の家を見張った。
「村長はギルドへの依頼を出していない……か」
道理で村長の反応がおかしかったわけだ。もし、ギルドへの依頼をしたのであれば、魔物の情報を知っていないのは変だろう。なぜなら、最近の魔物達の異変に気付いていないのであればそもそもギルドへ依頼はしないからだ。そして、あいつはギルドへの依頼をだしていないと言った。俺に嘘をついている可能性もあるがメリットがないため、事実だと認識してもいいだろう。ということは、クロンが言っていたことが嘘だということになる。確かにギルドカードを見せてもらったが、あいつが本当に受注したということや本当に依頼があったのか? ということまではわからない。
「だとしたら目的はなんだ?」
わざわざ、あそこまで詳しく嘘を言うということは何か重要なことを隠しているということになる。だとしたら、目的はなんだ? この村の偵察かそれとも誰かの暗殺だろうか? いや、どれも違うだろう、もしそうならば、俺に見つかってしまった時点で失敗だ。だとすると味方か? いや、そうだとしても味方である可能性はないな。……そうか思い出したぞ! クロンの着ていたあのローブはロゼット王国の教会の物だ、昔この村に来た教会の奴と同じものだ! だとすると、あいつは教会の者ということになる。恐らく、ギルドへは報酬が欲しくて行ったところ、この依頼を見つけたのだろう。そうなると敵である可能性は低いな。
「次は、誰が何のために依頼したかだな」
この村からの依頼はすべて村長を通して行われる、その村長が出していないということは、おそらくこの村以外の何処かからの依頼ということになるだろう。問題は、どうして俺たちの村の近くの森を調査させる必要があったのかだ。この村の付近の狩りは俺がしていて、魔物の異常性についてはすぐにわかる。だからこそ村長はギルドへの依頼をしていないのだろう。ということは、俺の存在を知らない何者かが依頼したということになる。観光客が詳しく知るためにわざわざギルドに依頼することはないだろう。ということは……。
「ま、帰ったら、クロンに詳しく聞いてみるか」
俺は、考えるのをいったんやめ、村長の家へ意識を集中させた。すると、家の裏の扉から松明を手に持ち、
「さて、着いていくか」
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「この長い道を通ると、いつも思い出すな……」
俺は、貧しい家で育った。父親と母親は俺のことをいないものとして扱っていた。しかし、そんな俺の唯一の救いだったのは、当時好きだった子と両想いで付き合っていたことだった。だから私は、どんなに酷い扱いを受けようとも、彼女との思い出で生きてこれた。あの時までは……。
あれは、俺がまだ16歳だった頃、当時付き合っていた子と初めてを迎ようとした日のことだった。その日は、夜に彼女の家に向かう予定だったのだが、一秒でも早く彼女に会いたくなり、昼頃に彼女の家に着いてしまった。逸る気持ちを抑え合鍵をさし、ゆっくりと扉を開けた。しかし、扉を開けて待っていたのは
「ティア、いないのか? 居るなら、返事をしてくれ」
返事は返ってこなかった。私は彼女に何かあったのではないのか? と思い、家の中へ入り、階段に上ろうとした。上がろうとした、階段の一段目には彼女の着ていた上着が落ちていた。上を見ると、中段にはズボンが落ちていた。この時、私が感じたこの家の
「じょ、冗談だよな。ティア?」
私は、弱弱しくそう言い、階段を上る。一段上がるごとに、呼吸がしづらくなるのを感じる。そして、様々な嫌な考えが脳裏をよぎる。そして、階段を上り終えると、どうやら私の考えは当たっていたらしく、彼女の部屋の前の廊下には、彼女の下着が落ちていた。そして、私がそれを視認するのと同時に、彼女の部屋の扉の奥から下の階まで聞こえていた、何かが軋む音と彼女のいつも聞いていた声が喘ぎ声となり聞こえてくる。
「うそ……だろ……?」
言葉では言い表せない何かに押しつぶされ、私はどさっと大きな音を立て、床に崩れ落ちた。
「ったく、何の音だよ……って、てめぇ誰だ!?」
「何かあったのダリウス? ッつ!!」
私が倒れた後、少ししてから、目の前に知らない裸の男と、シーツのようなもので体を隠したティアが部屋から出てきた。私はその姿を見た瞬間、とてつもない吐き気を催した。
「な、なんだこいつ、おい! この野郎がお前のことを見てるけど、こいつのこと知ってんのか?」
「し、知らないわよ! というかなんで家に入ってきているのよ!」
「て、ティア? わ、私を覚えていないのか?」
薄々分かってはいたことだ、こんな人間と付き合ってくれていたことがおかしいことだということは。しかし、それでも、私は彼女を愛していたんだ。だから、それを否定するようなことは頼むから……。やめてくれ……。
「おい! なんでこいつがお前の名前を知ってんだよ!?」
「さ、さっきから知らないって言ってるじゃない!」
もう、やめてくれ……。これ以上はもう……。
「大体、なんでこの野郎がお前の家の鍵を持ってんだよ!?」
「そ、それはこの間、なくしたカギだわ! 確かあなたに話したわよね!? この間なくしたって! き、きっと泥棒だわ!」
「うわああああああぁぁぁぁ!!」
「な、なんだこいつ!? 急に叫びだしたぞ!」
「……みんな、そうだ。いつも裏切る。こっちはいつだって、信用しているのに!!」
「て、てめぇ 何言ってやがんだ!」
だから……。もう……。
「お前はもう、……必要ない」
「な、何をいってるの?」
俺は、近くにある、花瓶をティアに投げつけた。花瓶はそのまま、ティアの顔に当たった。花瓶は当たった衝撃で砕け、地面に落ちていく。
「てめぇ! 何してんだ!?」
「お前にも要はない、動かなければ楽に殺してやる」
「ふざけんなぁ!!」
ダリウスは殴りだした。しかし、殴ったその拳はダランには当たることはなかった。なぜなら、ダリウスの腕は、逆の方向にねじれていたからである。
「い、痛ぇぇ! お、俺の腕が! どうなってやがる!」
「お前に話してやる義理はない。死ね」
ダリウスはダランの言葉の意味を理解し、ねじ曲がっている腕を抑えながら、泣き始め話しかけてきた。
「ゆ、許してくれ! 俺は悪くないんだ! そ、そうだ、その女から先に声をかけてきたんだ! 本当なんだ!」
「だから?」
「へ!?」
「だからどうしたんだと言っているんだ!」
「だ、だから、その女をどうにかしてもいい! でも、ど、どうか俺だけは助けてください!」
ダリウスは泣きながら、地面に顔を擦り付けた。花瓶の破片が額に刺さって血がでようとも、頼むのはやめなかった。
「助かりたいか?」
ダランの言葉にダリウスは希望に満ちた顔をあげ、こう言った。
「た、助けてください! 何でもします。人殺しでも人さらいでも何でもします!」
「……そうか、では最初の頼みを言ってもいいかな?」
「は、はい! 何をしましょう!?」
「俺のために、死んでくれ。ダリウス」
「はい?」
直後ダリウスの体は、全身から血を吹き出し、その場に倒れた。
「く、くく、くははははぁぁぁ!!」
そうだ、初めからこうすればよかったんだ、欲しいものは奪って殺す。なんて単純なことだったんだ。次は手始めに、俺を否定してきたクソ共を殺そう。その後は、村長の娘と結婚して村長になろう。そして、この村を支配してやる! あぁ、なんて最高な気分なんだ!!
それでも少年は 赤猫 @akanekosan
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