【短編】真面目な風紀委員長の美少女が、俺のせいでどんどんデレデレ(エロエロ)になっていく
波瀾 紡
【一話完結短編】
◇◆◇◆◇
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昨日、彼女にフラれた。
彼女と言っても、付き合ってたのはたった一ヶ月。
夏休み明けの9月1日に付き合い始めて、9月30日にフラれた。
しかもその理由が、『私が思ってた桜木君と違ったから』だって。
ただでさえ落ち込んでるのに、今朝は校門の所で風紀委員長にシャツの裾が出てると指摘されて、気分が悪い。
我が校の風紀委員長は、俺と同じ二年A組のクラスメイト。クラスの風紀委員で、かつ学校全体の風紀委員長を務めている。
校則違反には滅法厳しくて、人呼んで『氷の女』
他にも『歩く校則』とか『校則が服を着てるような人』など、彼女のあだ名はたくさんある。
そんな彼女に朝っぱらから、校則違反だとガンガン責められたのだ。たかがシャツの裾が出てただけなのに。
それで今日は一日、学校でもモヤモヤしてたし、下校途中の今もすっきりしない。
しかも昼間にコンタクトを片方飛ばして無くしてしまった。しょうがなしにもう片方も外したから、今は視界がぼんやりしてる。
これを『泣きっ面に蜂』って言うんだよなぁ。もう涙が出そうだ。
だから俺は、食品スーパーに寄って帰ろうと思いついて、母さんに『今日の晩飯は俺が作る』ってメッセージを送った。
なぜなら俺は料理をするのが大好きだし、料理をすれば大抵のモヤモヤは晴れる。それに今は秋。秋といえば味覚の秋。俺の一番好きな季節だ。
そしたら『じゃあ今日は飲んで帰るねー♡』だって。相変わらず自由奔放な母親だ。
まあでも女手一つで俺を育ててくれた母さん。文句は言うまい。
母さんからの返信メッセージを見て、学校から帰る途中で、食品スーパーに寄って食材を買った。今日はきのこのシチューだ。
そして家に向かって歩いて、道路の角を曲がった。そしたら──
ドンっ──
「きゃっ!」
角を曲がったところに女の子が立ってて、真正面からぶつかってしまった。
女の子が手にしてたスマホが勢いよく飛んで、俺の目の前を放物線を描き、そして地面に落ちた。
(ヤバっ! 壊しちゃったかも!?)
慌ててそのスマホを拾って、立ちすくんでる女の子に手渡す。
マツタケの写真が表示されてる画面がチラッと目に入った。
おおっ! 秋の味覚の王様だっ!!
でもマツタケなんて高すぎて手が出ない。
だから今日も、きのこはきのこでも、マッシュルームのシチューだし。
でもキノコの写真をじっと見つめているなんて、もしかしてこの子も料理好きなんだ!
俺と趣味が合うかな?
「あっ……桜木君……
「ん? そういう君は……
視界がぼやけてよくわからなかったけど、確かにウチの制服を着た、風紀委員長の氷見川だ。
氷見川はその厳しい態度から氷の女と呼ばれているが、見た目もまさにそのとおりで、赤いふちのメガネをかけて、髪はきっちりとまとめたポニーテール。
いや、ポニーテールなんて言うと可愛く聞こえるけど、ぴちっとまとめた髪を、後ろでこれまたきちっと束ねた感じで、全然可愛くなんかない。
だけどよく見たら、メガネの奥の目はパッチリしてるし、鼻もあごもしゅっとしてて小顔だ。もしかしたら、メガネを取ったら凄い美人ってパターンじゃないか?
それにブレザーの制服の上からでもわかる、大きな胸ときゅっとくびれた腰つき。足も綺麗で、スタイルがかなりいい。
あ、しまった。ついつい上から下まで眺めてしまったよ。
こんなお堅い女の子だから、きっと不快に思ったに違いない。
気をつけなきゃ。
それにしても──ヤバいヤツにぶつかってしまったもんだ。
俺は不良だと思われてて、普段からコイツには目を付けられてる。
いや、ホントは俺は不良でもなんでもないんだけど、『
あ、それと俺は喋るのが苦手で、話し方が無愛想で怖いってよく言われる。滑舌が悪くてつっけんどんだから聞き取りにくいとも。
自分ではそんなつもりはないんだけど、それもあって俺は、斜に構えた不良っぽいヤツだと思われてるんだ。
ただそれだけなんだけど、俺は服装とか他のヤツと一緒が嫌で、シャツの裾を出したりしてるから、『歩く校則』の氷見川からしたら、本物の不良なんだそうだ。
そんな氷見川が、俺から受け取ったスマホを慌てて背中の後ろに隠して、不安そうに訊いてきた。
「さ、桜木君……もしかして、この写真、見た……?」
「え? ああ、ばっちり見たぞ」
『氷の女』のあだ名どおり、家庭的な雰囲気なんか皆無の氷見川が、料理が趣味だなんて、めちゃくちゃ意外だ。ここはちょっと、氷見川にゴマをすっとくか。
「俺と趣味が合いそうだ」
俺はできるだけ爽やかな笑顔を心がけて、氷見川の目を見つめて、そう言った。
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私、
ちょっとした服装の乱れも注意されたし、男性と付き合うなんてとんでもないことだって、禁止された。
だけど私だって、高校二年生にもなったら、男の子と付き合うことには凄く興味があるし、エッチなことだって……人並みには興味がある。
いや、今まで抑圧されてきた分、もしかしたら人並み以上にエッチなことに興味があるのかもしれない。
それで、今までこんなことはしなかったんだけど──ほんとに魔が差したっていうか。
色々とスマホのサイトを見てたら、エッチなサイトにつながってしまった。
そして、無修正の『男性のアレ』の写真が表示された時には、驚いたけど──
見ちゃいけないって気持ちよりも、興味の方が勝ってしまって、ついついじっと見てしまってた。
そしたらあんなことになるなんて──
クラスメイトで不良の、
彼は私の身体を上から下までイヤらしい目つきで眺めたし、私が『男性のアレの写真』を見てたことを知って、『趣味が合う』なんて言った。
ああっ!
彼は、私が極めて淫乱な女だと思ったに違いない。だって彼はとてもイヤらしい笑顔で、そう言ったもの。彼はきっと、ものすごくスケベな男なんだわ。
そんな男に『趣味が合う』なんて言われてしまった私。
──ああ、お父様っ!
私がお父様の言いつけを守らずに、イヤらしい写真なんか見てたから、こんなことになったんだ。ごめんなさい、お父様。でもこれは自業自得よね。
きっと、私の試練はまだこれから始まるんだわ。
あのスケベな不良、
きっとこれから彼は、私がしていたことの口止めの対価として、私の身体を求めてくるに違いない。
でもそれを断わったら、この不良は何をしてくるかわからない。
──怖いっ!
でももう私には、彼の言いなりになるという選択肢しか残されていないんだわ……
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俺が精一杯の爽やかな笑顔で「趣味が合うね」って言ったら、なぜか
「その写真のことは、他の誰にも言わないでくれる?」
え? 氷見川って、料理が好きだってことを、そこまで内緒にしたいのか?
逆に積極的にそれをアピールした方が、家庭的なイメージでちょっとはコイツのイメージが良くなる気もするけど……
まあ本人が内緒にしたいって言うんなら、もちろん俺はそれに協力する。
また、できるだけ爽やかな笑顔で同意してあげよう。
「ああ、いいぜ」
俺はそう言ったのに、なぜか氷見川は固い表情のままだ。なんで?
そう言えば氷見川って、笑った顔をほとんど見たことがない。
いつも堅苦しいことばっかり考えてて、柔らかな表情を出せなくなってしまったんじゃないか?
「秘密を守ってくれる代わりに、桜木君は私に何をお望みかしら?」
へっ? なにをおのぞみ……?
一瞬、言葉の意味がわからなかった。
たかが『氷見川は料理が好きです』ってことを内緒にするだけで、対価を要求するわけないじゃん。
氷見川って変わったやつだなぁ。
あ、それとも、すごく義理堅いのかもしれない。
氷見川って生真面目だから、きっとそうだ。
案外いいヤツなのかも。
「いや、別に何も望まない。俺は氷見川と趣味が合うってことがわかっただけでいい」
あ、俺。今、割とカッコいいことを言ったんじゃね?
氷見川からの好感度が上がって、服装の乱れを指摘するのを緩めてくれたらいいなぁ。あはは、そううまくはいかないか。
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私が彼の要求を訊こうとしたら、彼の答えは『何も望まない』だった。
さすが年季の入った不良だ。
自分から要求を出したら、それは恐喝、もしくは脅迫罪になってしまう。
だから本物のワルは自分は具体的な要求は出さない。相手から言わせる。
そう、テレビの特番で言ってた。
まさに桜木君は、本物のワルなんだわ。
いや……もしかして桜木君は、本当に見返りを求めていない?
実はいい人?
いいえ、そんなことはあり得ない。
だって桜木君は、『趣味が合うってことがわかっただけでいい』って言ったあと、顔を醜く歪めてほくそ笑んだもの。
だけど、そんな本物のワルの作戦に、簡単に乗ってしまう私じゃない。
せめて桜木君の口から要求を出させて、いざとなったら彼の犯罪を立証できるようにしておきたい。
「ダメだわ桜木君。私の秘密をあなたに守ってもらう以上、なんでもいいから桜木君がして欲しいことを言って」
「いや、ホントにいいって」
「ダメ。それじゃあ私の気が済まないの!」
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秘密を守る見返りなんて俺はいらないって言ったのに、氷見川は「何かして欲しいことを言え」って譲らない。
こりゃ、筋金入りの義理堅いヤツだ。
ちょっと見直したぞ、氷見川。
単に他人に厳しいだけじゃなくて、自分にも厳しいんだな。
そこまで言ってくれるんだから、何も希望を出さないというのは、逆に氷見川に失礼だな。
何をお願いしようか……
あ、そうだ!
今日は俺が一人で夕飯を作って、一人で寂しく食べるんだった。
氷見川の趣味が料理なら、一緒に料理をして一緒に食べるなんてお願いは……
さすがにダメだよな。
いくらクラスメイトとは言え、彼氏でもなければ、仲良しでもない男の家に行って、料理を一緒に作るなんて……絶対ダメだな。
でも俺は大の料理好きだ。
同じく料理好きの氷見川が、どんな手順でどんな料理を作るのか、ぜひとも見てみたいっ!
ああ、一度そういう『素敵な考え』が思い浮かぶと、我慢ができないっ!
氷見川の料理を見て、そして食べてみたい!
「あの……桜木君。そんなに怖い顔をしないで……」
氷見川が泣きそうな顔をしてる。ああ、申し訳ない……
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ああっ、桜木君が、すっごく怖い顔で考え込んでるっ!
きっと『なんだこのアマ、俺に要求を口にさせるつもりかっ!?』なんて考えてるんだわっ!
どうしよう……謝ったほうがいいのか、それともあくまで彼に要求を言わせるようにすべきか……
そうだ。とにかく論点をずらしてみよう。
「あの……桜木君。そんなに怖い顔をしないで……」
要求をどちらから出すか、というところから論点をずらす。
彼はいったい、どう答えるんだろうか。
「いや、さすがにこのお願いは、すべきじゃないと思ってね」
さすが本物のワル。
まだ要求を口にしないつもりね。
でも、要求があるってことを口にさせただけでも価値があった。
あとはそれを具体的に言わせる。
「ど、どんなお願い?」
「あ、いや……俺は、氷見川
ああーっ、やっぱりそれしかないよねっ!?
ワルの男が女に脅迫して求めるもの。
それしかないよねっ!?
氷見川
やっぱりそれは私とエッチしたいってことよね?
断わったら、やっぱり私が『男性のアレ』の写真を見てたことを言いふらされるのよね?
ど、どうしたらいいの、私。
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一緒に料理をヤリたいなんて、絶対に言うべきじゃないって思ったけど、料理好きの氷見川が「ど、どんなお願い?」なんて、訊くもんだから……
ついつい「氷見川と一緒に料理をしたい」って言ってしまったよ。
でも、いくらなんでも、やっぱ断わられるだろうな。
「わ、わかった。ただし一回だけよ」
えっ? マジっ!?
やった!
「ど、どこに行けばいいの?」
「氷見川がよければ、俺の家に来ないか。すぐ近くなんだ。ちょうど今日はお袋が帰るのが遅いし」
「うっ……」
氷見川は一瞬、なぜか顔をしかめた。
やっぱり嫌なんじゃないか? それを無理して、俺に合わせてるだけじゃ?
「嫌ならいいよ……」
「えっ? あ、いや……ご、ごめんなさい! い、行きます!」
あれ?
普段風紀委員の仕事では、やたら偉そうに言ってる氷見川なのに……
今日は随分と
学校では風紀委員の仕事柄もあって、わざとそういう態度を取ってるだけで、ホントは素直ないいヤツなのかもしれない。
もしかしたら、今の氷見川が本物の氷見川かも。
──っていうか、そうだったらいいな。
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ああ、怖かった。
桜木君が恐ろしい目つきで、そして無愛想な口調で、「嫌ならいい」って言ったときには、殺されるかと思った。
いや、さすがに殺されることはないにしても、私の秘密を言いふらすことは間違いないわ。
咄嗟に謝って、家に行くっていっちゃったけど……
ああ、これで私の貞操は、桜木君に蹂躙されてしまうのね……
──いやだ、いやだ、いやだ。
ここから一歩も歩きたくない。
「俺の家はこっちだ」
「あ、はい」
ああっ、また素直に答えちゃったじゃない!
何をしてるの、私は?
なぜか彼の鋭い目で見られたら逆らえない。
もしかして私……彼の指示に従うことに、喜びを感じてる?
──まさか!?
でも何かの本で読んだことがある。
抑圧された環境で育てられると、性的に抑圧されることに喜びを感じてしまうことがあると。
つまり──ドM気質ってこと。
私はもしかしたら……ドM気質なのかもしれない。
そしてまさか、明らかにドSっぽい桜木君に惹かれてるとかっ!?
そんな恐ろしいことを頭に思い浮かべながら、私は桜木君の後ろについて、彼の家に向かった。
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氷見川は素直に、ウチに来ると言ってくれた。だけど強張った顔をしてるし、ほとんど何も話さない。
もしかして、やっぱり嫌がってるのかな?
いや、誰だってあまり知らない男子の家に行くとなれば緊張するもんだ。
氷見川は素直に『はい』って言ってくれてるし、大丈夫だろ。
それに彼女と一緒に料理をしてみたい欲求が大き過ぎて、今更取りやめる選択肢なんかない。
そんなことを思いながら家に着くと、氷見川はやっぱり素直に家に上がった。
そして早速リビングに入る。
さあ、キノコ料理をするぞ!
──と思ったけど。
よくよく彼女を見たら、制服のブレザーを着ている。
今日からは夏服でもオッケーだし、今日はそこそこ暑いのに、冬服のままか。きっちりしてる氷見川らしいのだけれども、料理で汚れると困るな。
「なあ氷見川。上着、脱げよ」
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桜木君の家に着いてリビングに入るなり、彼は私の身体を舐め回すように見た。そしてひと言。
「なあ氷見川。上着、脱げよ」
これは……
どう考えても、裸になれってことよね?
いきなり『全部脱げ』なんて命令したら、それこそ強要罪か強制猥褻罪になる。
だから敢えて『上着』と付けることで、あとで『あれは合意だった』と言い逃れできるようにしているんだわ。
この男……やはり只者ではない。
ここで私の選択肢は三つ。
一つは、あえて全てを拒否して、何も脱がない。
二つ目は、あえて桜木君の本意には気づかないフリをして、上着だけ脱ぐ。
そして三つ目は──
桜木君の企みどおり、全部脱いで素っ裸になる。
私はその三つ目の考えを頭に浮かべた瞬間。
身体の奥、そう、特にお腹の奥あたりから、じんわりと温かな快感が広がるのを感じた。
──私……興奮してる!?
そう。もはや自分を誤魔化しようのないくらい、私は自覚した。
やっぱり私は、ドSな桜木君の命令に従うことに、快感を感じ始めてる。
風紀委員長で、生徒みんなの鑑であるべき私が。
悪の権化とも言える不良の桜木君に、思うがままに蹂躙されるなんて。
その背徳感が、私をより一層、興奮のるつぼへと追いやるのだ。
「あ、おい、氷見川! 脱ぐのは上着だけでいい」
私がブレザーを脱ぎ、ブラウスのボタンを上からひとつだけ外した時に、突然彼はそう言った。
なぜ?
なぜ止めるの?
私の肉体に、急に興味を失ったの!?
もしもそうであれば、こんなに悲しいことはない。
私はできるだけ地味で質素な服装を心がけているから、普段はそんなアピールはしないけど。
だけど実は、私の胸は大きくて形がいいと、密かに自慢に思っているのに。
そんな自分の肉体を、興味がないと否定されたのであれば、これはショックが大きすぎる。
私が呆然と桜木君の顔を見ていると、彼はニヒルな顔でニヤリと笑って、手にしたビニール袋を差し出した。
なんだろう?
ビニール袋は食品スーパーの物で、中を覗き込むと、マッシュルームとシチューの素が入っている。
それで私は、すべてを理解した。
ニンマリと笑ったことからして、彼は私の肉体から興味を失ったわけじゃない。
なのに服を脱ぐのを止めて、食材を差し出した理由とは?
彼は私を一気に丸裸にするのではなく、ジワジワといたぶるように責めたいのだ。さすがは筋金入りのドS男だ。
一気に裸にされた方が、かえって私も気が楽だ。それをじわじわと責め立てるなんて……
そんなこと、恥ずかしすぎて私の興奮はさらに昂ぶる……
あ、いや、興奮が昂ぶるなんて……
いや、もう自分を誤魔化さなくてもいいよね。
そうされた方が明らかに悦ぶ私がここにいる。
彼は……桜木君は、既にそれを見抜いているのだ。さすがは札つきのワルだ。
私を焦らして、ジワジワと責めることによって、私の興奮を高めようとしているのだ。
いずれにしても……
料理をして、それを食べ終わった後。
私はこの男に身体を貪り食われるのだ。
そう考えると、私の肉体の奥底から、さらに興奮が湧き上がってくる。
私はブラがチラリとだけ見える状態のブラウスをそのままにして、彼から食材入りのビニール袋を受け取った。
◇◆◇◆◇
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うっわ、びっくりした!
上着を脱げと言っただけなのに、なんで氷見川はブラウスまで脱ぎ始めるんだ?
あっ、そうか。
暑いんだな。
それにしても男子の部屋でブラウスを脱ぐなんて、もしかしたら氷見川って、貞操観念が緩い子なのか?
いやいや。バリバリの風紀委員長で『氷の女』が、そんなわきゃないか。
きっと暑さで、頭がボーっとしてたんだな。
そうに違いない。
俺はそう思い直して、それから俺たちは二人でキッチンに並んで、マッシュルームシチューを作った。
氷見川の腕前はさすがで、包丁使いも上手だし、料理の手順にも慣れている。
味付けも的確で、たいそう美味しそうなマッシュルームシチューが出来上がった。
ダイニングテーブルに向かい合って座り、二人でシチューを食べる。
「うん、美味い! 氷見川、さすがだ!」
「あ、ありがとうございます、ごしゅ……」
「ん?」
「あ、いえ。お褒めいただき、ありがとうございます」
「あ、うん。氷見川って、料理するのが好きなのか?」
「あ、はい。大好きです」
「そっか……俺とおんなじだね」
俺がそう言うと、なぜか氷見川は頬を少し赤らめて、固まったまま俺の顔をじっと見つめた。
◇◆◇◆◇
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桜木君に料理を褒められて、思わず私は、
「ありがとうございます、ご主人様」
と、言いかけてしまった。
──危ない危ない。
そして彼は
「氷見川って、料理するのが好きなのか?」
と聞いてきた。
私が「あ、はい。大好きです」と答えると──
なんと彼はいきなり、こう言ってきた。
「そっか……俺の女になれ」
いきなり桜木君は、なんてことを言うの!?
そんなことを私が承諾するとでも、思ってるのかしら!?
……いえ、私はもう、自分でもわかってる。
彼からそう言われて、私の身体の芯が、震えんばかりに歓喜していることを。
私の返事には、もう他の選択肢はなかった。
私は桜木君に向かって、おずおずと答えた。
「はい……」
「そっか」
彼は嬉しそうにニヤリと笑った。
これで私は、彼の女になったのだ。
「じゃあさ、氷見川。これからも料理をしような」
彼の言う料理とは、なんなのだろう?
もちろん言葉どおり、今みたいに一緒に調理することは含まれているに違いない。
そしてきっと、私と言う女を、自分好みに料理してやるという意味も含まれているに違いない。
そう思うと、私は思わず答えていた。
「はい、喜んで。よろしくお願いします」
私の言葉を聞いて、彼は満面の笑みを浮かべた。
「これからの高校生活が楽しくなるよ」
そう──
もう私は彼から逃げられない。
学校でもプライベートでも、彼に支配されることになる。
そんな甘美な毎日が──今日から始まるのだ。
◇◆◇◆◇
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やった!
誘った時には『一回だけ』と言われたけど、これからも一緒に料理することを、氷見川はオーケーしてくれたよ!
今まで一人で楽しんできた料理だけど、これからは一緒に楽しめる相手ができたんだ。
いやあ、今日は勇気を持って、氷見川を料理に誘ってホントに良かった。作り方も学べたし、こんなに美味い晩飯を食べられた。
氷見川は、今まで思っていたよりも、案外素直でいいヤツそうだ。それによく見るとかなりの美人だし。
まさか彼女になってもらいたいなんて恐れ多い考えは微塵もないけどな。
時々でも氷見川と接することで、今まで女っけのない高校生活からしたら、少しは女子の気持ちを学べるかもしれない。
今までの高校生活とはひと味違う。
そんな楽しい毎日が──今日から始まるのだ。
= 完 =
【短編】真面目な風紀委員長の美少女が、俺のせいでどんどんデレデレ(エロエロ)になっていく 波瀾 紡 @Ryu---
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