11月18日午後7時45分~53分
天窓から地面は一番低いところで、六メートル程だ。
このくらいなら、しっかり衝撃を受け流す形で着地すれば怪我をせずに済む。
「……マリア、行けるか?」
「多分無理」
「……分かった。俺が先に下りて、下でお前を受け止める。それでいいな?」
「それでいい。……しっかり受け止めてよ」
「あたぼうよ」
背負ったままじゃ危ないので、モスバーグやグレネードの類をマリアに預け下を覗く。着地するつもりの床には割った時に落ちたガラスが散らばっており、着地の危険度を上げていた。
「……ここしか道はないしな」
窓枠ギリギリに立つ。
「三・二・一!」
窓枠の内側の空白に一歩、足を入れた。
さっき、中国人との戦闘時に感じていた悪寒に似た感覚とはまた違う。ジェットコースターに乗っている時特有の、内臓全部が浮く感覚。
浮遊感とでも表すか。
数秒程の滞空時間。
地面に接地する。足の裏、回転させるようにふくらはぎを着け、腰を捻り肩を着け転がる。
「うおっ!」
ジャンパー越しのガラスの粒が背中を刺激した。衝突の衝撃が収まり、ゆっくりと立つ。足の関節も痛まないし、骨も折れていない。
「……流石、空挺団の着地術」
自衛隊にいた頃、第一空挺団の友人から教わった五接地転回着地。当時は「俺は空挺じゃない」と笑っていたが、まさかこんな事になるなんて思ってもいなかった。
何事も学んでみるもんだと感心する。
「お~い!」
「待ってろ!」
ガラスを踏み、彼女の下に着く。
足を開き、腰を落とし思いっきり踏ん張る。
「来い!」
彼女は、預けた銃器などを恐怖を紛らわせる為のぬいぐるみみたいに抱き締め、目を瞑って飛び降りた。
お姫様抱っこの様に、腰と膝の裏を受け止める。受け止めると同時に腕を下ろし衝撃を和らげ、ゆっくり床に下ろす。
年相応に驚いている顔で、俺の顔を見つめた。
「……大丈夫? 私生きてる?」
「アメリカの幽霊は、足生えてるのか?」
マリアの質問に冗談で返す。彼女は俺に銃を渡すと、パーカーをはたく。そして上を見上げる。
「……あんな所から落ちたんだ」
「しっかり受け止めたからな。怪我してないだろ」
そう言って俺は笑った。それまで腕や足をさすっていたマリアはその声にはにかんだ。
「ありがと」
「……どうも」
――だが、俺達にのんびりしている時間は与えられなかった。
観音開きの大扉を盛大に開ける音が、スロットやネオンの煌びやかな音や光に溶け込み何人もの中国人がカジノ内になだれ込んで来た。
「おいでなすったぞ……」
互いに顔を見合わせ、二手に分かれる。お互いの腕前を信頼しているからこそ、こうして分かれる。
バランスの俺、射撃重視のマリア。近くで乱戦になると、必ず火線が被る。ならば広いカジノいっぱいに広がり互いに敵を潰し合う。
その方が
普通の服の上に、弾倉ベストなどを装備した集団がカジノに散らばる。
リーダー格の男が話しているのは、全て中国語だ。指示を聞いても、何を言っているのかニュアンスすら分からず作戦を逆手に取った行動は出来ない。
それを知ってか知らずか、リーダーは大声で従えている者達に指示を出している。
俺達はその指示を銃声で消した。
左右の端に居た奴に弾丸を撃ちこんだ。
しかし、相手もプロだ。味方の死を物ともせず、冷静にこちらとの戦闘に入った。
相手はG36Cをこちらに向け、発砲する。
その射撃の隙を見て散弾銃を撃つ。
けれど、向こうは数の利を生かし、アサルトライフルを一斉射撃をしてくる。その間に俺は弾幕をスロットマシーンで防ぎ、リロードをする。
ズボンのベルトに引っ掛けてあったスモークグレネードを投げ、相手の視界を奪う。スロットマシーンの陰から出て、散弾銃を連射した。
ところが、ポンプの動きが途中で止まってしまった。何度も引こうとするが、何かに引っ掛かっているのか前にも後ろにも動かすことが出来ない。
「ジャムった……」
ジャム――弾詰まり。何らかの理由で弾丸か空薬莢が、動作部分に挟まり詰まる事だ。連射したせいで、こうなったのだろう。
「クソがっ!」
使い物にならななくなったモスバーグを近くに居た奴に投げつけ、シグをホルスターから抜いた。
モスバーグを投げつけられ、怯んだ奴に向け三発。その隣に居た奴に二発撃ち、煙に紛れ敵の懐に入り込んだ。
死んだ奴が落としたG36Cを拾い上げ、弾倉を見た。プラスチック製で半透明なマガジンのおかげで、残弾数がすぐに分かった。
G36系の弾倉は無改造でジャングルスタイル(弾倉を重ね、テープや金具で固定し弾倉交換を素早く出来る様な加工)が出来る様になっている。
一つのマガジンの弾は少なかったので、満タンの方を銃に突っ込んだ。それから半円を描く様に、G36を撃った。
更に銃床で一人殴り倒す。
この時点で煙が消えかけていた。煙に紛れながらの奇襲は出来なくなり、またスロットの群に入り込む。
俺の後を二人、追って来た。
右足を軸にして回転しそのまま、仰向けに倒れる。銃口は追跡者の方を向く。
相手も銃を構えようとするが、こちらの方が早かった。
一人は撃ち殺したが、もう一人は肩に一発当たっただけでG36の弾は切れた。
「やべっ!」
「
指先まで凍るかのような冷たさ。いつもの、アレだ。何かしないと。俺は殺される。
「英語で話せ!」
相手の銃弾を転がって避け、相手に飛びつく。相手のヴェクターの本体を掴み、相手の方に押し出す。体重を掛け、重い物を押す感じで相手の体勢を崩す。一瞬、相手の重心がブレた。左手で相手の頭を掴んで、スロットマシーンに何回も打ち付けた。
それでも抵抗され、振りほどかれる。
対峙する相手の顔は、頭に血が上っているからか頭や鼻からの出血で真っ赤になり、顔を構成するパーツ全部が憤怒だと表現していた。
俺は等間隔で並んでいた椅子を持ち上げ、それで相手に殴り掛かる。
だがしかし、男は腕一本でそれを防ぐ。おまけに、ガードしていた椅子を弾き飛ばし、持っていたヴェクターを捨て、殴り掛かって来た。
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