11月18日午前9時8分~19分

 車はホワイトリバー国有林を抜け、ユタ州の方向に進んでいた。車内ではラジオを付け、情報を仕入れている。

 しかし昨日の事件は全てテロリズムだと説明されており、どこぞの戦闘員がやったとの情報は無い。


「……相変わらずの情報管制ね」

「まぁ、そうだろう。真実話したら、この国どころか世界巻き込んでの大戦争になりかねん」


 街に入り、青信号で止まった。テロだなんだとマスコミが騒いでいても、街は今日も生きている事が分かる。

 街ゆく人の顔を見ていると、俺達が今置かれている状況が夢なのかと思えてきた。

 知らず知らずのうちに、俺が狂っているのかもしれない。そんな不安が頭をよぎった。


「現実のハズだろ……クソッタレ」


 誰にも聞こえない位小さな声で、呟いた。ドアミラーに映る顔はやつれ、疲れが取れていないように見える。

 もしくは、顔に浮かんでいるのは疲れではなく焦燥か恐れなのだろうか。

 俺には判断出来なかった。

 視線をドアミラーから、バックミラーに移す。後ろに続く車列の隙間を縫う様に、一台のバイクがやって来た。

 バイクは車の助手席側に止まる。黒のフルフェイスヘルメットのせいで、顔や表情は伺えない。

 運転手はバイクの側面を弄ると、サプレッサーが装着されたVz61サブマシンガンを取り出した。


「伏せろ!」


 俺が叫ぶと同時に、男のサブマシンガンが火を吹いた。空気を震わせるような音がエンジン音と重なる。

 ブレーキを踏んでいた足を、アクセルに変え車を発進させる。信号はまだ赤。怒号や罵倒が入り乱れたクラクションが交差点に鳴り響く。

 交差点を抜けた。


「大丈夫か!?」


 頭を上げ、バックミラーを見る。バイクは付いて来ていない。


「生きてるよ!」

「無事だ!」

「大丈夫です!」

「何なの!」


 頭に掛かったガラスの破片をはたき落としながら、マリアは怒鳴る。


「……分からん」


 顔は見えなかったし、本当に俺等を殺す気ならもう少しマトモな手を使うはずだ。

 ヘリや重機関銃、特殊部隊を出してくるような連中がこんなメキシコの強盗みたいな手で俺等を襲うなんて事は可能性としては無いに等しい。

 四輪より機動力のある、バイクを使うことはあるかもしれないが32口径のサブマシンガンなんかより、隠れられた時または防弾ベスト対策として貫通力の高い弾を使用する銃を装備するか、面での破壊力がある散弾銃の方がこの様な場合では効果的。

 しかし、相手が何を考えているのか分からない以上生半可な分析は油断を生む。

 数ブロックほど進み、路肩に停めた。

 ショルダーホルスターから、シグを取り出しコッキングする。


「待ってろ」


 車から降り、車体を確認した。

 窓枠に弾痕があるだけで、損傷はそれだけだった。

 これで増々分からなくなった。命を狙った訳でもなく、乗り物の破壊が目的でもない。

 何が目的なのか。

 一周回り、運転席側に戻る。空いてる方の手で頭を掻き、ボンネットに手を添えあたりを見回す。

 すると、向かい側のビルの屋上で何かが光った。

 耳の横で風切り音がしたかと思うと、足元から気の抜けた音がした。


「えっ?」


 脳の判断が一周遅れて体に表れる。


「狙撃だ!」


 タイヤの空気が抜け、車体が傾く。異変に気づいた四人は、俺の叫びで素早く行動した。

 俺が車の陰に回るのと、四人が車を降りるのとほぼ同時に後輪の方のタイヤも空気が抜けた。


「クソっ……随分手が込んでやがるよ」

「罠?」

「バイクでの追い込み。乗り物の破壊。……次は」

「……対象の殺害」

「……かもな。でも、タイヤを撃つより俺の心臓に弾を撃ち込むほうが早いだろ?なのに、そうしない」

「大した距離じゃない。並の狙撃手なら、練習にもならないのにね」

「でも、狙われてるのは事実よ。これからどうするの?」

「迂闊に動けば、次に弾が着く先は足か?それとも心臓か?頭か?分からないのに、動くのは危険だ」


 首を伸ばしながら、ハリーは自分のベレッタを確認した。


「どうするかな……」

「目くらましとか、煙幕になりそうな物は?」

「無い。M79の弾も、榴弾しかないよ」

「……いや、ちょっと待って」


 マリアはドアを開け、グローブボックス下を漁ってた。

 すると、真っ赤に彩られた細い棒を出した。

 発煙筒だ。

 本来、事故車があると知らせる物だから、かなりの煙が出るよう設計されているはず。

 これで狙撃手の目を眩ませられる。

 発煙筒を使い、大通りまで逃げ人混みに紛れこの場を離脱出来る。


「三・ニ・一、で行くぞ」

「了解」

「博士、手を離さないでください」


 全員の準備が出来たことを確認し、発煙筒のキャップを開けた。


「三・二・一!」


 キャップと棒の先端に付いた薬品を擦り合わせ、ピンク色の煙が出る。手頃な所に放り投げると、すぐに煙は広まった。

 長物の銃は取り回しずらいので、今手に持っているのはシグだ。煙の中を走り抜け、大通りに出た。

 煙の中から現れた我々に市民が向けてきたのは、奇怪なモノを見る目だ。

 人混みをかき分け、その目から急いで逃れるように博士を取り囲む陣形を組み、大通りを進む。

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