11月17日午後10時57分~午後11時17分

 助手席に座ったハリーが眉間にシワを寄せたまま、自分のSCARに新しいマガジンを装填した。

 そして自分のズボンのポケットから携帯電話を出し、操作をしだした。


「何やっている?」

「博士にワルサー渡したろ、肌身離さず持っておいてくれってその時に言ったはずだ」

「……そうだったかな?」

「空港にワルサーの落し物は無かった。……ということは?」

「ワルサーはまだ、博士の手元にある……まさか!」

「発信機を仕掛けておいた。……もしもの時に備えてな」

「……ISS辞めて、MI6の武器担当にでもなったらどうだ」

「考えておく」


 携帯の画面に、地図とその上を滑るマル印が表示された。


「このまま走ってくれ」

「了解」


 自分達が乗る車しか走っていない。空港が騒がしかっただけに、ここの静けさが逆に不気味に覚えた。

 後部座席で二人が空になったマガジンに弾を入れている音と、唸りを挙げるエンジン音だけが鼓膜を震わしている。

 五分ほど走っているとハリーの携帯が震えた。


「もうすぐだ……」

「シルヴィア、M79をくれ」


 ハリーはM79を受け取ると窓を開けた。


「何をする気だ」

「決まってる、これで相手の車の動きを止めるんだ」

「流石に博士が危ない。それに、お前も……」

「じゃあどうするってんだよ!」


 声を荒げ、ドアを叩く。


「……掴まってろ。そんで、衝撃に耐えろ」

「……まさか、赤沼、アンタ」

「吹き飛ばすより、こっちの方が安全さ」


 アクセルを床まで踏む。さらにエンジンが唸りを挙げ、スピードメーターの針が回転数、速度共に跳ね上がる。

 黒のシボレーがライトも点けず、道路を爆走していた。そしてそれの横を突っ切って行く。

 車列の先頭に割り込み、俺はサイドブレーキを引いた。

 Gで後ろの方に引っ張られる。

 そして、ぶつかった衝撃で前につんのめる。

 割れたガラスが宙を舞い、煙が解放感がある後部ガラスから車内に入ってくる。

 少し惰性で進んだ後、車が止まった。後続の車がブレーキ音を響かせ止まった気配がした。


「行け行け!」

「……お前に二度とハンドルを握らせない!」


 マリアが怒鳴ると、全員がそれぞれの銃を引っ掴み車外に飛び出した。


「ISSだ!大人しくしろ!」


 四人全員が銃を構える。だが、明かりはセダンのライトと足りなさげな街灯だけ。視界は最悪に近い。

 自分たちの過失とは言え、銃にライトを装着してないのもかなりの痛手だ。

 勝てるかどうかは、正直に言って自信無い。

 シボレー内部の動きは見えず、状況が把握しずらい。このまま膠着状態が続くなら、先に集中力が切れた方が確実に負ける。


「警告だ!今すぐ武器を捨て、車から降りてこい!」


 返事は無い。もっとも、気さくに挨拶する間柄ではないが。


「どうするの?」

「……俺がカウントして、ドアを開けよう」

、か」

「虎に食い殺されなけばいいけどね……」


 四人で車列を囲う。相変わらず、変化は無い。

 目を見合わせ、頷く。


「今から五つ数える!それまでに投降しなければ、攻撃するぞ!」


 無言。


「五!」


 マリアが固唾を飲む。


「四!」


 シルヴィアが片眼を瞑り、狙いを定める。


「三!」


 ハリーが引き金の指を深く掛けた。


「二!」


 喉の水分が枯れそうになった、しかし喉仏を動かす間もなく俺達は動くことになった。


 パァン……!


 軽い銃声。けれど、俺達の銃からは煙が立ち上っていない。

 その音に弾かれるように、それぞれがドアを開ける為走る。当たったのは、二台目の窓を銃床でブチ割った女性陣だった。

 連続する二発分の銃声。


「博士!」

「あっちか!」


 ドアに掛けかけた手を銃に掴ませ、窓越しに撃ち込む。その間、背筋に冷たいものが何度も走ったが弾倉一個分撃ち尽くす頃には、その感覚は煙のように消えてなくなっていた。

 二人の方を向くと、車内からぐったりとした博士を引きずり出しているところだった。


「大丈夫なのか?」

「ショックで気を失ってるだけみたい」

「ショック?」


 博士が乗っていた車の中を覗く。

 防弾ベストを着たアジア系の男が、脳天に風穴を開けられ呆けた顔して死んでいた。

 博士の顔にも血が飛んでいる。

 そして、死体のそばに落ちているのはワルサーPPK。俺はワルサーを拾い上げ、マガジンキャッチボタンを押し弾倉を銃から出して残弾を見る。

 七発入る弾倉には、六発しか入っていなかった。


「まさか……」

「いや、こいつは私が撃ち殺した」

「……じゃあ何で、弾が減ってるんだ?」

「必死の抵抗ってやつよ。博士は一人も殺してない」

「……じゃあなんだ、目の前で人が死に、そのせいで気絶したと?」

「そうみたいね」

「とにかく、無事でよかった」


 マリアが博士を背負う。


「追手が来ると限らん。早いとこ移動しよう」


 乗って来たセダンはまだ動くが、ここまで壊れていてはアレだ。仕方なく、俺達は弾で窓が割れただけで済んだ、比較的マシなバンから死体を降ろす。


「血塗れのかぁ……」

「赤沼、アンタのその姿よりマシよ」

「街に行ったら、着替えを買おう」

「……それに、その手」

「ん?」

「……革ジャンの男殴って、手の皮剥けてるから薬塗った方がいい」

「そうだな」


 俺は同意し、作業に専念した。


 

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