11月17日午後10時42分~56分
荷物や銃を持って走るのは、やっぱりキツイ。疲労が溜まり、足や腕は気力だけで動かしている状態だ。
それでも俺達は走らなければならない。
おもむろに振り向く。影達がゴマ粒くらいに見えた。銃は撃ってこないが、そこはかとなく威圧感を感じる。
追い付かれた最後、俺達は跡形も無くなる様な気がしてならない。
何時しか聞いた都市伝説の怪物、外国風に言うならブギーマンってやつだ。
その威圧感も皆感じているのだろう。顔が必死だ。
「どこに逃げればいい!」
「とにかく、アイツらを撒くんだ!」
曲がり角を曲がり、隅にあった職員専用のドアを開けようとする。電子錠が掛かっていたので、シルヴィアのベネリM4で錠を撃ち吹き飛ばした。
「早く!」
「やってる!」
俺とハリーで体当たりを繰り返し、こじ開ける。
「行け行け!」
「博士、こっちです!」
博士を先に行かせ、銃口をドアに向け後ろ向きに進む。職員専用のフロアに入ると、職員達が慌ただしく右往左往していた。
突如入って来たアサルトライフルやSMGにショットガンで武装した男女は、忙しさをを加速させる。
それに俺は(他人の)血塗れだ。
「な、何なんですか!?貴方達!」
「こういう者だ!」
「伏せててください!」
博士以外の四人は身分証を突き付け、時折ジェスチャーで職員達に伏せているように言った。モーゼの如く人波をかき分け、奥にある反対側の出口に向かう。
「ん?」
空き缶が転がる様な軽い金属音がした。スニーカーに当たったそれを見ると、それはピンが引き抜かれたフラッシュバンだった。
「目ぇ瞑れ!」
目を瞑り、手で覆うようにするが僅かな隙間から暴力的な閃光が入り込む。同時に鳴った爆音が酷い耳鳴りを起こさせる。
何も見えず、身動きが取れないまま誰かに右腕を捻り上げられた。俺は一瞬、自由な方の腕を使いホルスターのシグを抜こうかと思ったが、視界が悪く民間人が多いので躊躇ってしまう。
「いやぁ! 離して!」
「博士!」
大人数の足音が耳鳴りの間を縫って聞こえてくる。腕が乱暴に放され床に倒れた。ゆっくりと目を開けると、すぐそばにいたはずの博士はいなくなっていた。
「やられた!」
目の前の観音開きの扉は開け放たれている。立ち上がりSCARを胸の前で軽く構え、扉の奥を覗く。
誰もいなかった。耳鳴りが酷いせいで足音も聞こえない。
「追うぞ!」
何度も瞬きしているマリアと耳の近くの骨を叩くハリー、頭を振るシルヴィアに指示を出す。
俺の指示にいち早く気が付いたハリーの目は、ぎらついていた。
「畜生……」
珍しく悪態をつくハリー。銃を確認する手付きも妙に荒い。
「行こう」
「言われなくとも」
「職員の皆さん!あと少しで銃を持った団体が来ます。何も抵抗しなければ、撃たれないと思います。……くれぐれも、戦おうなんて考えないでください」
職員にしっかりと注意を促し、俺達は飛び出した。
「さっきの奴らじゃないの?」
「知るか。でも、奴等だとしたら俺は脳味噌ぶちまけていたかも。仲間をボコボコにされて、俺を殺す気満々だったからな」
「民間人には手を出したの?」
「抵抗しなかった人間には何もしなかった。銃を構えた警備員連中は撃たれたがな」
「……フラッシュバン使ったのは、あそこには民間人多かったからじゃないの?」
「あいつ等の射撃は、針穴に糸通すみたいな射撃さ。……お前より正確で無慈悲」
「……それは凄い」
「その腕前があれば、あの状況下でも全員の頭に5.56ミリ弾をブチ込めるさ」
「……証拠にはならないけどね」
証拠にはならない。だが、フラッシュバンを投げ込まれた時も腕を捻り上げられた時もあのいつもの感覚、背筋が凍る様な感覚が出なかった。
いつぞや、俺のこの感覚を『危機察知能力』と揶揄された。
危機というのは、俗に言うところの『殺気』ではないのか?
仮に殺気だとしたら、博士を連れ去った何者かが影だとしてその行動に対して何も感じなかったのはおかしい。
俺に対しての殺意は隠そうとしなかったのに、ここに来て急に隠すのはどことなく不自然に思う。
……これこそ、勘の域を出ないし証拠にもならないが。
職員用エリアを出る。すると、猛スピードで走り去る車列が見えた。
残りの一台から、俺達に向けての銃撃。
三点バースト射撃に、サプレッサーでの銃撃音。
俺の記憶では、影達の銃にはサプレッサーが付いたうえに三点バーストで射撃出来る銃は無かった。
恐らく、博士を連れ去った連中の得物は銃身にサプレッサーが内蔵されたMP5SD6だ。
「追うぞ!」
言うやいなや、ハリーは駆け出していた。
「待て!」
俺は車を撃った。するとその車は、けたたましいスキール音を響かせながら走り去っていく。
肩で大きく呼吸をしながら、車の進行方向を睨むハリー。それに追いついた俺は、彼の肩に手を置いた。
「……少し落ち着け。お前は今、冷静さを欠いている」
「……分かっている」
悔しそうに絞り出すように言って、彼は地面を蹴った。
「とにかく、急いで車を!」
シルヴィアが言うと、後ろの方から影達が出て来るのを視界の端から認識した。
これでハッキリする。
今しがた車で逃げた連中と、影達とは別物だと。
だか、細かい事を考えている暇は無い。
駐車場には先程の混乱のせいで、放棄又は事故による破損した車が大量にあった。
「乗れ乗れ!」
俺はその中で、一番近くに放置されていたキーが付いたままのセダンの運転席に飛び込んだ。
キーを捻るとセルの回る音がした。それと同時に、銃撃を浴びせられる。全員が姿勢を低くして弾を躱す。
ギアを入れアクセルを一気に踏み込んだ。
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