11月17日午後4時14分~36分
途中何度も、救急車やパトカーとすれ違いながら高速を走り続けた。
幸い、襲撃は無かった。ラジオを付けると、大学内での事件はテロリスト。高速道路上での争いは、近辺のギャング達の抗争として片付けられていた。
ISSかCIAが情報操作をしているのだろう。
ふと見ると、標識があと数キロ先に空港があることを知らせている。
「飛行機乗ってもいいんだよな……?」
「何を今更」
助手席のマリアが、煙草の煙を吐きながら言った。
「いや、飛行機乗る時。武器はどうしようかって思って」
当然、飛行機の中は危険物持ち込み禁止だ。液体がダメなのだから、銃器なんてもってのほか。
「……ISSの身分証があれば、荷物には載せてくれそうだけどね」
「まぁ、空港で聞く他ないな」
ハリーの言葉で暫くの行動指針を決めた。
空港の駐車場に車を停めた。
シルヴィアとハリーが、空港の事務所に話を聞きに行った。留守番中ずっと俺はP226を片手に、マリアも煙草を咥えながらグロックに手を添えている。
「あの……」
だけど、ぼんやりしていた博士が口を開いた。
「どうしました?」
マリアも首だけこちらに向けた。
「お二人は、知り合って長いんですか?」
突拍子もない質問だった。博士なりに、気分を変えようとしたのだろうか。
「まだ一年も経ってないよ」
「だな。俺が
――そう。一か月半前、俺はこの地に降り立った。
短いようで、長かった。
一生分の運を使い果たしたような思いだ。
「でも、お二人はとても仲が良さそうです」
「……そうかな」
俺は苦笑するがマリアはまだ長い煙草をもみ消し、俺の顔をまじまじと見始めた。その視線に気が付き、俺は照れた。
「……なんだよ」
「いんや~ァ」
ニヤニヤした顔で、俺の戸惑った顔を眺めている。そんなやり取りを見て、博士はクスクスと笑った。
「私が撃たれたの知って、本気でしょげてたよね」
「……あれは……俺が悪い」
途端にバツの悪い顔になった。
「あれは、アイツが強かっただけ。それに、浩史が本気で心配してくれて私嬉しかった……ハイ、これでこの話は終わり」
無理矢理話を終わらせた。博士は少しきょとんとしていたが、俺達を見て羨ましそうな溜息をついた。
「……本当に、仲が良いですね」
そう言った彼女の目は、寂しげだった。俺達はその目の思いを、掘り起こすことが出来なかった。
また重々しい空気の気配が漂い始める。すると。
コンコン。
ドアをハリー達が叩いていた。
「なんとか許可が出た。まぁ、銃器は貨物庫だけどね」
「乗れないよりマシさ」
「職員が待機してくれてる。急ごう」
積んであった銃器や弾薬を目立たない様に、ケースや上着で包んだりして車から降りた。傍目から見たらへんてこりんな一行だが、気にしたら負けだろう。
入口の所に空港の制服を着た集団とそれに混ざり、空港警備員が数名いた。
「……お話はそこの方から聞いています」
職員の代表者らしき中年男性は、かなり渋い顔をしている。それもそうだろう。火薬持ち込ませてくださいって我が儘を、権力使って押し通されたのだから気分が良いはずない。
「搭乗中は厳重に管理させていただきます。……よろしいですね」
「構いません」
警備員がケースを差し出す。俺達はそれに、弾を抜いた銃器を収めていく。
弾も含め、危険物を全て収め終わると警備員達はケースを手にし、空港内に入って行った。
「……それでは、搭乗手続きの方を」
残された職員は俺達をフロントに案内する。
目を光らせながら空港内を進む。銃に頼り切るほど俺達は弱くは無いが、相手がどう出て来るか分からないのでは手の施しようもない。
建物は全面ガラス張り。だが強化ガラスでも限度がある。
「でかい爆弾で吹き飛ばされないよな?」
「……博士が国外に出ない限り、そんな強硬手段に出ないと思うけど。博士が死んだら、元も子もないし」
「……だよな」
邪魔者は俺達だけ。俺達だけ排除すれば、後は博士を煮るなり焼くなりすればいい。
間延びした時間が流れるアナウンス響くロビーで、物騒なことを考えながら飛行機の時間を待った。
だが俺は甘かった。今相手取っているのは、世界トップクラスの諜報部隊に目的の為なら何でもする集団に事実を捻じ曲げてでも国のメンツを保とうとする奴らであることを実感するには、少し早かった。
<兎はDCの空港に居る。だが汚れている>
売店で珈琲を買っているスーツ姿の黒人が、何処かに向けてメールを打った。返答は無かったが男はどことなく満足そうに珈琲を飲んだ。
「目標は五人を倒した後、他国の戦闘員と交戦。現在は高速道路を南に走っているようです」
ロシア大使館の地下。存在しない部屋の中で男が二人いた。報告を受けた男は紅茶を一口啜ると、鼻を鳴らした。
「……あの者達を倒すとはな。どうやら少しばかり、ISSを甘く見ていたようだ」
高そうな椅子にもたれかかると、それは体重のせいで大きく軋んだ。
「遊撃隊を出撃させてくれ、手加減はするなと伝えろ」
それだけ言うと、男はもう一口紅茶を啜った。報告した男は礼をして部屋を出た。
「ヘリが墜とされたみたいです」
「何!」
とある町の雑居ビルの一室。そこは書類上、会計事務所のオフィスが入っているはずだがそれは工作員の為のペーパーオフィスだ。
「ふざけやがって!」
怒り心頭な様子の男は、禿げあがった頭に血を上らせて全身で怒りを表現している。そしてそのまま、感情を机の上にあった物にぶつけた。
「人民解放軍の魂にかけて探し出せ!」
そう怒鳴ると、その場にいた部下を蹴り出した。
高速道路上を何台もの車が隊列を組んで爆走していた。
運転している者も、乗っている者も一様に無言だった。
「このまま進め」
リーダーらしき女は、北朝鮮製の70式拳銃をコッキングした。
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