11月17日午後1時43分~午後2時12分

 叫び声は爆風で掻き消えた。

 俺達は、この機を逃すまいと物陰から飛び出した。

 が。


「……あれは?」


 低空飛行のヘリがこちらに突っ込んでくるのが見える。それに対し俺は、吐き気に近い感覚を覚えた。


「勘か……」


 思わず苦々しい顔をした。目の前にいる敵達も、突如として襲来したヘリコプターに気を取られていた。


「……あれ?私……」


 ヘリのローター音で博士も目を覚ました。


「博士、伏せておいてください」


 シルヴィアが博士の頭を押さえた。そして、飛行中のヘリから何かを持って身を乗り出している人間が見えた。


「M60!」


 ハリーが叫び、再び物陰に隠れた。マシンガンを、上空から打ち下ろされたらひとたまりもない。

 それを知らないのか、もしくは恐れを知らない敵は、手にしていたM4カービンや拳銃をヘリに向けて撃ち始めた。

 中には、当たるはずの無いグレネードランチャーを撃つ者もいた。

 ――現実は非情だった。

 M60をもった人間の腕が僅かに前後したかと思うと、けたたましい銃撃音が俺達の耳を刺激した。

 銃撃音に入り混じる悲鳴が、男達の末路を露わにしていた。


「空に居られちゃ、手も足も出ない……」

スティンガー携帯対空ミサイルでもあればな!」


 命が消える音に負けないぐらい声を張り、知恵を絞った。と言ってもヘリを退ける方法は一つある。

 M2重機関銃だ。12.7ミリの弾はヘリを抉るには十分な威力がある。軍用ヘリならば勝ち目は無かったが、空に居るのは民間機だ。

 だけど、M2重機関銃の銃座に座るにはヘリの元へ走るしかない。

 もちろん、激しい銃撃を受けることになるだろう。そのままヘイトを買ったまま、銃座に付いたら間違いなく蜂の巣にされる。

 誰かが囮になり、ヘリのヘイトがそちらに向いてるうちに誰かが銃座に付くのが俺が思い付いた事だ。


「こん中に、M2重機関銃を使える奴いるか?」


 俺の問いかけに、答えたのはハリーだった。


「……実際に撃った事がある」

「そうか。……ハリー。俺が囮になると言ったら、やるか?」


 俺以外の全員が、唖然として俺を見つめていた。


「……俺なら大丈夫だ。さっきも大丈夫だっただろう」


 憎たらしい笑顔で、俺は仲間を見た。


「……やってみる、お前を死なせない」

「博士は、私達が責任もって守る。だから、思う存分やって来なさいよ」


 マリアからSCARを受け取ると、俺は陰から飛び出しヘリに向かって撃ち始めた。

 当然、ガンナーは狙える範囲の動く的である俺を撃ち始める。全身を隈なく針で突き刺されたような感覚がし、すぐ後ろの道路に無数の弾痕が空く。

 叫び声を挙げ、事故車のボンネットに転がった。そのすぐ横を弾が突っ切っていく。

 ISSに入ってからかなりの死線を潜ってきたはずなのに、未だに狙われている時の感覚に慣れない。

 上下が滅茶苦茶になった視界の片隅で、ハリーが穴が空いた男をM2重機関銃の銃座から落とすのが見えた。

 しかし、ボンネットから落ち痛みから持っていたSCARを手放してしまう。


씨발クソ野郎!」


 更に転げ落ちた先には、先程の爆発と銃撃を生き残った敵の一員がいた。物凄い形相で俺を睨み、M4カービンの銃口を向けていた。

 腹の中身を引きずり出される様な、痛みを伴う独特の気持ち悪さ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 いつもの勘とは違う、強い感覚。俺は反射的に、その男の足を蹴っていた。踵が脛に当たり、一瞬だけ男は怯んだ。

 それと同時に、俺は奇妙な感覚から解放された。その一瞬を逃さず、ホルスターからP226を抜き撃った。

 男は銃弾を受けよろめき、倒れた。


「しくった!」


 十秒程の短い時間だったが、ガンナーの標的はハリーに移っていた。

 そばに転がっている男から、M4カービンを奪い取り引き金を引く。

 5.56ミリ弾より12.7ミリ弾の方が危険なのはわかりきっている事だ。

 撃たれたから撃ち返しているだけで、自らに危険が迫っている時はそちらを優先するのも、考えればすぐ分かる。

 しかし、ハリーも常人ではない事をすっかり忘れていた。

 M2重機関銃のレバーが戻る、そしてそのままM2重機関銃は火を噴いた。

 12.7ミリ弾はヘリのガワやガラスを易々と貫き、乗員を物言わぬ肉塊に変えた。

 コントロールを失ったヘリは、そのまま車の形をした鉄くずの山に突っ込んでいく。

 破壊音の後映画の様に爆発はせず、空しいローターの起動音が徐々に小さくなっていた。


「助かった、の?」


 何故か博士の声が、非現実的に聞こえてしまった。

 それを確かめる為にM4をその場に放り出し、助かったという事実を噛み締めた。

 けれども、うかうかしていられない。遠くの方から、パトカーのサイレンが聞こえて来る。

 銃弾や武器を少し頂き、車もパクった。


「……時間喰っちまったな」

 

 そう呟くと、湧き上がる感情を押し込めアクセルを踏み込んだ。

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