11月17日午後12時34分~午後1時24分

 AKSのボルトが激しく前後し、5.45ミリ弾が猛烈な勢いで飛んでいく。

 兵士達は物陰に隠れた。

 引き金の抵抗が軽くなり、弾が出なくなる。弾切れのAKSを投げ捨てた。それでも、走るスピードを落とさない。

 それを見たシルヴィアと警官隊が、援護射撃をした

 ボンネットを滑り、バンの方に転がる。

 兵士達は射撃を再開するが、脇からP226を出し屈んで車を盾にして進んで行く。その時、兵士達と撃ち合っているマリア達と目が合った。

 全員驚きと喜びが同居した顔になった。

 俺もそれに対し、ニヤリと笑って返す。チームの結束力が試される瞬間だ。

 スライドドアが開いたままのバンに飛び込み、荷物を漁る。

 弾が入ったSCARのマガジンを三個、チョッキのポケットに入れた。バックドアガラスが銃撃を受けて割れる。

 そのぽっかり空いた穴から、仕返しとばかりに5.56ミリ弾を発射した。その内の一発が、兵士の肩に当たり大きくよろめいた。

 そしてそこで、マリアのMP5が火を噴き兵士の頭蓋を粉々にした。


「やっと来たのね!」

「わりぃ!」


 タガが外れたような馬鹿笑いをしてやった。車を転がりながら降り、様子を見た。

 仲間を三人殺され、激昂した兵士二人がこちらに一斉射撃する。

 しかしその二人も警官隊が放った弾丸と、シルヴィアが放った散弾がそれぞれ上半身と腹に命中した。

 一人は、脳漿と頭蓋骨の破片を撒き散らしながら倒れもう一人は、腹に散弾を喰らった衝撃でよろけ頭をバンパーにぶつけた。

 金属と硬い物がぶつかった音が響き、銃声が止まった。


「確保しろっー!」


 警官隊の誰かが怒鳴り、いつの間にか到着していたSWATチームがアサルトライフルを担いで俺達を取り押さえた。


「馬鹿野郎!俺達は味方だボケ!」


 思わず日本語で叫ぶが英語圏の人間に通じるはずもなく、空しく青空に吸い込まれていった。


「……ISSアメリカ本部の赤沼浩史さんね」

「言っただろうが!俺は日本人で、ロシア人じゃねぇって!」


 身分証明書の顔写真とSWAT隊員に殴られ、右の頬が腫れた顔を見比べている警官にキレる。

 結局、高速道路上でマリア達を襲ったのはシルヴィアの見立てではロシア軍の特殊部隊――俗に言う「スペツナズ」とか。

 五人の兵士の内、生き残った一人は意識を取り戻して早々ロシア語でまくし立てたが、調査係で培ったらしい流暢なロシア語で耳元で囁かれ顔面蒼白になり、急に大人しくなった。


「何言ったの?」

「『お国に居場所は無い』って」


 恐らくは、これでオブラートに包まれているのだろう。

 結果としてはマリア、ハリー、博士は無事で殴られた俺が唯一の負傷者だった。


「……エライ目にあった」


 肩で氷嚢を押さえ頬を冷やし、空マガジンに弾を込めながら言った。


「でも、まだ中国と北朝鮮が残っているわよ」

「泣けるぜ……」


 水のペットボトル片手に、マリアが笑う。


「それに、おかわりもあるはず」

「……そんなに、ミサイルが大事かね」


 俺達を襲って来た奴らの狙いは、ひとえに博士が持つミサイル技術そのもの。戦争を有利に進める一つであり、下手すればそれが勝利を掴む鍵になるものだ。

 だが、同時に大量の人命を奪う事になる。

 非人道的兵器の代表格とも言えるだろう。

 人間が持つにしては、些か重すぎる。……だが俺達は、何千万人の人命の為に数人の命を奪っているのだ。


「……人のこと言えねぇか」


 人命の重さは、誰だろうが変わりはない。それは絶対だ。


「あの……」


 博士が遠慮がちに俺達に話しかけてきた。


「……赤沼さん、大丈夫ですか?」

「ん?ああ、大丈夫ですよこれくらい。自衛隊の訓練の方が辛かったよ」


 笑い飛ばそうとしたが、博士の表情は晴れない。


「私のせいで……」

「博士」


 自分を責めようとした博士を、マリアが言葉で制した。


「私達は、貴女をお守りする任でここにいます。任務にこういった危険が伴うことは百も承知です。当然、私達だって命が惜しいです。それでも、ここにいるのは……博士、貴女の意思のおかげです。自分が考え付いたものを、戦争には使わせないといった貴女の理念に納得し貴女の身柄と発明を守ろうと、私達は思えるのです。決して自分を責めないでください、私達は私達なりの思いでここにいるのですから」


 博士は数秒、固まり俺達に向かって深々とお辞儀をした。


「……ありがとうございます」


 微かに泣いている。そんな声色だ。


「そろそろ、行きますか」


 腿を手で叩いて音を出し、切り替えを促す。俺達は警官隊にお礼を言って、再び西へ車を走らせた。

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