11月17日午後12時06分~34分

 高速道路を爆走する。

 サイレンを鳴らす事で、一般車は何の疑問も持たず道を空けてくれた。

 助手席では、シルヴィアがベネリに弾を込めている。

 マリアの携帯に掛けたが、繋がらなかった。

 不安もつのり、無言の車内。しかしそれを打ち破る音が聞こえた。サイレンに交じって聞こえる、微かな破裂音。

 銃声だ。


「新手か?」

「判らないけど……」


 そう言いシルヴィアは、車載無線を弄った。911通報の指令が次々入ってくる。


<ナンバー79、ナンバー79、応答願います。現在、高速上で銃撃事件が発生したとの通報あり。至急応援に向かってください>


 シルヴィアが無線を取る。


<こちらISSアメリカ本部のシルヴィアといいます。訳あって、パトカーを拝借しています。先程、無線で話した銃撃事件について少し聞きたいのですが……>


 無線の向こうの警官は、それを聞いて少し困ったような反応をしたが詳細について話してくれた。


<十分程前、高速道路上で一台の車が銃撃されてるとの通報がありました。どうやら撃たれてた車も撃ち返したようで、現在は他の車も巻き込む大規模な銃撃戦になっている模様です。他のパトカーの話だと、両者共自動小銃で武装しているとのこと。おそらくは、ギャングか何処かの抗争だと思われます……それで、何故ISSが?>


 質問を無視し、無線を切った。


「マリア達か?」

「その可能性が高いわね」


 どんどん破裂音が大きくなって来た。車の通りも悪くなっている。

 脇の隙間を縫う様に走る。車もパトカーが多い。

 その時。掃射音と共に、何かが破壊された音がした。

 慌てて急ブレーキを掛け、車を停めた。

 降りて見ると、回転灯が粉々になっている。

 車の流れは完全に止まり、一同は鳴り続ける射撃音から逃れようと、パニック状態だ。

 俺達は銃を引っ掴み、群衆の流れに逆らうように走る。

 何度もぶつかりながら走っていると、急に人がいなくなった。

 目の前には、何台ものパトカーが止まっているがどれも穴だらけだ。

 制服を着た警官達が車の陰に隠れ、銃を握り締めている。

 ときたま身を乗り出し、奥の方に拳銃やショットガンを撃っていた。


「誰だ?」


 警官の一人が俺達を見つける。


「ISSの赤沼です」

「同じく、シルヴィアです」


 身分証を見せると、警官は訝しげに俺達を見てため息をついた。


「……ISSの人間が、何の用だ」

「目の前の銃撃戦に、ウチの人間が巻き込まれてる」

「あ?」

「任務でな、少し邪魔が入る任務だったんだ」

「悪いけど、そこを通してくれませんか」

「……駄目だ、もうすぐウチのSWATチームが到着する。それまで待て。ISSだろうが関係ない」

「……クソっ」


 俺が悪態をつくと、警官が言った。


「相手はかなりの手練れ。まるで軍隊だ。いくらお宅等でも、無理がある」


 警官が乱暴に頭を掻く。

 俺達が顔を見合わせ、自身らが握っている銃器を見つめた。

 射撃音がし、今度は警官が倒れた。


「ソーヤ!」


 警官達が負傷者を安全な場所に引きずり、数人が集まって止血処置を施している。

 ソーヤと呼ばれた警官が立っていた場所に移動した。奥の方に、見覚えのあるSUVが停まっている。

 その付近には、都市迷彩服を着た覆面姿の兵士が銃を撃っていた。


「あれは……AKS-74Uね」

「ってことは、ロシアか?」

「判らないけど……少なくとも、アジア人には見えない」


 シルヴィアの言う通り、その人間は全員体格が良く覆面の上からでも判るくらい顔の彫が深い。

 流石にアジア人では無いだろう。

 ロシア人? が撃っている方に、見覚えのある金髪とGジャン、白衣が見えた。

 時折、マズルフラッシュが見え隠れする。


「よかった……生きている」


 だが、明らかに人数の上だと圧倒的に不利だ。今すぐにでも加勢に行かなければ、負ける。


「……すいませんね。警察の皆さん」


 俺は立ち上がり、シルヴィアの肩を叩く。SCARをコッキングした俺の意図を察し、俺を見て頷いた。

 パトカーの上に乗り、停まっている車の上に飛び移る。

 警官達が必死の形相で止めようとしたが、俺に聞くつもりは無かったし俺達に向けて放たれた銃弾から身をかわすために否応にも隠れざるおえなかった。


『殺せ!』


 兵士が怒鳴った。言語は判らないが何を言ったかは、大体見当がつく。

 全身針で突き刺されるような感覚が俺を襲う。歯を食いしばり耐え、銃口を向けた一番近くの兵士を撃った。

 しかし、胴体に数発当たったのに負けじと撃ち返してきた。


「ターミネーターか?アメリカ製じゃねぇだろ!」


 少なくとも肋骨は折れたはずだが、兵士は血混じりの唾を吐き出しAKSを撃った。

 車から飛び降り、陰に隠れる。この間も警官達が援護射撃してくれたが、焼け石に水だ。舌打ちし、大学での戦闘と同じ様に車の下から敵の足を狙う。

 編み上げブーツを貫き、鮮血が飛び散った。

 兵士はくもぐった叫び声をあげた。

 陰から出て、トドメの銃弾を頭にぶち込んだ。

 しかし、今度は二人の兵士がこちらに向かって来た。

 SCARで頭を狙う。だが、引き金を引いても弾が出ない。

 瞬時にSCARを手放し、懐のP226Rを抜いた。

 ダブルタップで頭目掛けて撃つ。

 一人は殺したが、もう一人は弾が外れた。

 シルヴィアも大分苦戦しているようで、こちらを気にかける余裕は無いようだ。

 AKSの猛撃から逃れる為、物陰に入り弾を確認する。

 SCARのマガジンの持ち合わせが無かった。車には予備含めまだ沢山あるが、マリア達とは別行動だったので補給が出来なかったのだ。

 十数メートル先のバンを見る。

 SCARを背負い隣に転がる死体から、AKSを奪い新品のマガジンに交換し乱射しながら、俺は兵士に向かって行く。

 

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