11月17日午前11時35分~50分

「クソが!」


 俺の叫びは重い射撃音でかき消された。

 飛び出して来たバンのせいで、俺と博士達が分断されてしまう。バンは駐車していた車に突っ込み、停まった。


「博士!」


 車の陰に隠れ、改めて叫ぶ。しかしこれもまた、銃声に混ざり消えてしまった。舌打ちをし、SCARに新しいマガジンを装填する。

 コッキングレバーを引いた。すると、胃の中をかき回されるような不快な感覚がした。

 横に倒れる。背にしていた車のガラスに穴が空く。

 バンの運転席の窓が開いていて、ベレッタM93Rを持った男がこちらを狙っていた。

 その男の顔面には、俺に対する畏怖の念が張り付いている。そいつに向けて銃を撃った。

 男は撃てないまま、蜂の巣になった。

 向こうを覗く。マリア達も同じ様に隠れながら銃を撃っていた。息を整え車の陰から飛び出し、援護する。

 軽機関銃野郎とP90コンビが俺が撃つ弾から逃れる為、壁に吸い付く。


「走れ!こっちだ!」


 手を振り、こっちに来いとジェスチャーする。

 博士が先頭になり、CIAエージェントをけん制しながら四人が近づいて来た。弾をかすめつつ、バンの陰にたどり着くことが出来た。


「こりゃあ……納得だな。軍人崩れもいるはずの、PMCが壊滅するのも」

「ああ、だが、今のところ出会ったのはアイツらCIAだけ……まだまだ敵は増えるぞ」

「まったく最高ね」


 皮肉を吐き、シルヴィアはベネリを撃った。


「……ハリー、マリア」

「何だ」

「博士を連れて車に乗れ」


 ポケットからキーを出し、投げ渡した。


「俺と。シルヴィア、お前も来い。おとりになる」

「私も!?」

「ああ、そうだ」


 そう言い車の下から狙い、P90持ちの一人の足を射抜いた。悲鳴を挙げ、仲間に引きずられて行く。

 このまま全員で乗ってもいいが、全滅するかもしれないリスクを考えるとなるべく避けた方がいい。

 あくまでもエージェント達の狙いは俺達護衛だ。博士が逃げても、少なくともCIAはアメリカ国内から出ない限り博士に危害は加えないはず。

 博士を逃がす為に居る護衛の排除を優先すると俺は踏んだ。敵は目の前にいる害獣を、きっと殺したいはずだ。


「今のうちに!早く!」


 俺は怒鳴り、二人をせかした。


「……わかった。死ぬなよ」


 ハリーは俺を睨んだ。だが、すぐに不敵な笑みになった。


「相棒ってこと、忘れてないわよね」

「あたぼうよ」

「だったらよし」


 マリアはニヤリと笑い、博士の背中を叩いた。


「ご武運を」


 切実な思いを口に出したのが、一目で判る表情と声色で博士は言った。

 車に乗り込む三つの背中を横目に、俺は銃を握り直す。


「……なんで私も」

「一人じゃ不安でさ。それに、人手は多い方がいい」


 シルヴィアの不満に、悪びれもせず答えた。


「……赤沼。君、なんか性格変わった?」

「自分じゃ、変わんない気でいるんだけどね」


 言い終わるのとほぼ同時。軽機関銃の弾幕が、背にしていたバンをノックした。見る限り、軽機関銃野郎一人だけだ。P90コンビの片割れは、相方の手当てをしているのだろう。


「俺がアイツの気を引く。三・二・一のタイミングで出るから」

「了解」


 流石に仕事はキッチリこなすようだ。


「……三・二・一!」


 地面を蹴り、横に飛び出す。身体が少しだけ、宙に浮いた。

 引き金を引くが、銃口がぶれ明後日の方向に弾が飛んで行く。しかし、軽機関銃野郎をひるませるには十分だ。


「ヤレ!」


 号令。シルヴィアは、驚愕の表情をしている軽機関銃野郎に散弾をぶち込んだ。

 無数の小さな鉛玉は容赦なく男の肉体を抉り、肩の付け根から右下顎のあたりをミンチ肉に変えた。

 それと同時に俺は地面に転がった。

 男は何回か痙攣し、動かなくなった。血の匂いが一段と強くなった気がした。


「残りは……一人……」


 口に溜まった唾を飲み込む。一歩踏み出し、様子を見る。建物の陰から出て来る気配は無い。

 自分の勘も出ないので、すぐには危険は迫らないだろう。


「様子を見に行こう」

「……大丈夫かしら」


 構えの体制のまま、残りの男に近づく。

 男は銃を置きスーツを赤く染め、横たわり呻き声を挙げている男の脇に座っていた。負傷した男の足には、血が滲んだ布切れが結ばれている。


「…………何の用だ」


 こちらを向かず抑揚のない声で男は言った。


「確認だ。リスクは少ない方がいいだろう?」


 男は俺の発言に乾いた笑いで答えた。


「そうだな……だったら俺達を置いて行け。……もう俺達に戦う力は無い」

「随分あっさり言うんだな。……博士の身柄が欲しいんだろう?」

「……俺達はただの監視要員だ。お前たちに攻撃したのは、本部からの命令があったからだ」

「…………」

「まさか、お前みたいな化け物を相手取るとは思わなかったがな」


 そばにあったP90を遠くに滑らし、両手を上げ戦意が消失したことを示す。


「早く行け」


 それきり男は黙ったまま、相方の方に視線を固定した。

 パトカーのサイレンが聞こえ始めた。


「……行こう」

「ええ」


 男達を置いて、パトカーに向かって走る。


「止まれ! 武器を捨て――」

「ISSの赤沼だ。ちょっとばかしパトカー借りるぞ」


 拳銃を構えた警官を押しのけ、ドアを開けてハンドルを握った。


「え?! ちょっ」

「悪いね」


 ショットガンを持っていた警官の眼前に身分証を突き付け、ギアをDに入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る