11月17日午前11時08分~20分

<こちらアルファ。こちらアルファ。HQ本部至急応答願う>

<こちらHQ。どうした>

<監視対象に来客在り、繰り返す監視対象に来客在り>

ゲッタウェイドライバー逃がし屋か?>

<ああ……それもかなりの手練れだ。これまでのPMSCなんか比べ物にならない程の……>

<……こちらとしては、あまり戦闘はしたくないが……致し方がない>

<どうすればいい>

<アルファ、只今より任務を対象の監視から、逃亡補助者の撃滅に切り替える。対象の国外逃亡が成功しそうだったら、対象も殺害して構わん>

<アルファ了解>


 大学の駐車場に停まった一台のバン。その中で無線を通し、以上の会話が繰り広げられた。

 無線を聞いた六人の男達。三組に分かれ、それぞれの仕事を全うしようとしていた。

 それぞれアタッシュケースを出し、各々銃を装備し始めた。

 数分後、H&K MP5Kを装備した二人は招かれざる客達の後を追い、レミントンM700と三脚付き双眼鏡を持った男達は対象の研究室がある建物の向かいの図書館に上り、車にいる残りの一人はベレッタM93R、後部座席で無線を弄る男の脇には二百発入りボックスが装着されたミニミ軽機関銃があった。



 流石に大学構内で銃を抜き身で持ち歩くわけにはいかず、少々面倒だがカバーを掛け持ちだした。

 メインアームとして俺はSCAR-L、マリアはMP5A5、シルヴィアはベネリM4、ハリーは俺と同じくSCAR-Lを装備している。

 だが、それとは別にハリーは小型のアタッシュケースを持って来ていた。


「なんだそれ」

「博士にプレゼント」

「……中に爆弾でも入れてないでしょうね」

「大丈夫大丈夫」


 いたずらでも企てている顔をして、手をヒラヒラさせた。

 フランク博士の研究室は大学の研究棟のかなり奥の方にあり、白衣の研究生ですら滅多に寄り付かないらしい。

 プラスチックの表札の下にあるインターホンを押す。


「フランク博士、ISSの者です」


 四人揃って身分証をインターホンのカメラに向ける。


「どうぞ」


 女の声がし、鍵が開く音がした。


「失礼します」


 そう言って部屋に入る。自分の記憶にある大学の研究室は、男やもめのごみ溜めだったがこの部屋は真反対、逆に綺麗すぎる。

 本がほとんど無い本棚、隅にある簡素な造りのベッドの上には、シーツと毛布がキッチリと畳まれ、部屋の中央にはコーヒーメーカーが乗った折り畳み机とパイプ椅子。

 そしてこの部屋の主は、ビー玉みたいな目で俺達を舐め回すように眺めていた。

 色落ちが激しいジーンズを履き、あちこち毛糸が飛び出たセーターの上に白衣を羽織った小柄な赤毛の女。


「私がシーラ・フランクです。来てくれてありがとうございます、ISSの皆さん」


 博士は正面に立ち、丁寧に挨拶をした。


「ご丁寧にどうも。ISSアメリカ本部の赤沼浩史です」

「同じくISSのマリア・アストールです」

「調達係のハリー・イートンです」

「調査係のシルヴィア・カイリーです。よろしくお願いします、博士」


 それぞれ自己紹介を兼ねた挨拶をし、今回の護衛の概要を話す。


「……なるほど、大陸横断ですか」

「かなりの長旅になりますけど……大丈夫ですか?」

「構いません。私が考えた技術をミサイル開発に使われるくらいなら、こんな苦労」


 『なんか』の所を強調して、博士は言い切った。


「なるほど、意気込みは十二分に伝わりました」


 ハリーはそう言って、プレゼントと称したあのアタッシュケースを机の上に置いた。


「私達の任務は貴女の護衛です。ですが、こちらにも限界があるのです」


 アタッシュケースを開け、中身を取り出す。


「っ!」

「これを肌身離さず、持っておいてください」


 博士が息を飲むのが判る。

 俺達は見慣れ、知り尽くした物だが。


「ドイツ製、ワルサーPPK、.32ACP弾仕様。貴女の銃です。最悪の場合、これで身を守ってください」


 PPKをハリーが差し出すと、博士はおずおず手を伸ばす。


「弾が入っています。安全装置は掛かっていますが、引き金に指を掛けないように。それと、私達……いや、敵意がない人間に銃口を向けないように」


 博士がPPKを手にする前に、安全面について釘を刺すのも忘れていない。

 それで一度止めた手を改めて伸ばし、博士は銃を握った。


「……思ったよりも軽いんですね」

「それは、貴女みたいな女性でも簡単に扱える拳銃です。……今、使い方を教えます」


 最後の方で、俺達に目配せをした。


「……本部に連絡だ」


 その意図を察し、携帯からメッセージを送る。


<博士と接触しました。只今より護衛を開始します>


「送信っと」


 息を吐き、携帯を仕舞う。静かな部屋に、ハリーが博士に銃の扱い方をレクチャーする声が響く。

 また息を吐く、すると。

 空になった肺を掴まれる様な感覚。抗うように息を吸う、肺が満ちるのに比例して今度は胃が萎んでいく。


「伏せろ!」


 ホルスターからP226を抜き、怒鳴っていた。

 皆の動きは速い。ハリーは博士を庇い、シルヴィアがそれに続く。マリアは机を蹴飛ばし、盾にする。

 五秒にもならない僅かな時間。

 次の瞬間。爆音が鳴り、研究室のドアが吹き飛んだ。

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