ISSアメリカ本部

 車はとあるアパートの前で停まる。

 と言っても、アメリカなどの欧米ではアパートは日本で言うところの団地やマンションに近い。


「ここの五○三号室がアンタの部屋。荷物置いて戻って来なさい……なるべく早めに」

「了解です」


 部屋の鍵を受け取り、アパートの中に入る。目の前にエレベーターがあるが、敢えて階段を選んで五階に上がる。


「一、二、三……ここか」


 部屋番号を見て鍵を挿し、ドアを開ける。一瞬、靴を脱ぎそうになるがここがアメリカだと思い直し、靴を履いたまま奥の方に進む。

 ダイニングルームとリビングルームは殺風景で、必要最低限の家具しか置いてなかった。ボストンバッグをソファーの隣に置き、部屋を少し見て回る。

 ベッドルームには一人用のベッドと机、その上にはノートパソコンが置かれていた。布団は程々にフカフカだった。

 ユニットバスは日本とは比べ物にならないくらい広い。

 自衛隊では四人部屋だったので、少し感動する。

 しかし、デニソンとメリッサが待っているのでこのくらいで切り上げ、二人の所に戻ることにした。


 車が再出発してから約五分。道路の右手に目的地『ISSアメリカ本部』が現れた。ガラス張りのオフィスビル、というのが最初に見た感想だった。

 車は地下駐車場に入る。


「降りるぞ」


 そう促され、車を降りた。


「六階が、私達『強襲係』のオフィスだ」


 エレベーターに乗り、メリッサが六階のボタンを押すエレベーターが上がりきるまで、少し気になっていた事を聞くことにした。


「デニソンさんとメリッサさんは、役職はどこですか?」

「ん?ああ、言ってなかったか……私は、強襲係第二班の班長だ」

「僕は、強襲係の主任。まぁ、係長ってことだね」

「へぇ~」

「アカヌマ、アンタは私の第二班の班員になる」


 メリッサがそう言ったところで、エレベーターは六階に着いた。

 エレベーターを出ると、そこには荒くれ男が軽機関銃を手入れいていたり、筋肉隆々の男が額に青筋浮かべてアサルトライフルを弄っているとか、そんな事はなく。

 いたって普通のオフィスだった。しいて言うなら全員がスーツを着てないことと、服の下か腰に拳銃をぶら下げていることだろう。


「じゃあ、僕行くから」

「ありがとうございました」


 頭を下げ、お礼を言う。


「頑張ってね」


 デニソンはサムズアップすると、奥にあるガラス張りの個室に入っていった。


「アカヌマ、こっち」


 それを見届けると、メリッサに所属することになる第二班のスペースに案内された。


「ハイ! 注目!」


 メリッサが声を張り上げ、班員全員がこっちに注目する。


「こいつが、日本からやって来たアカヌマ・ヒロシだ! 今日から第二班の人間になる! お前等、仲良くするように!」


 口調こそ鬼軍曹だが、言ってる内容は小学校での転校生紹介と大差ない。


「マリア! 今日からこいつがお前のバディ相棒だ! 喧嘩すんなよ!」


 窓際の席で、煙草を銜えている金髪ショートヘアーの女性に向かって怒鳴る。


「アカヌマ、アイツが今日からお前のバディ相棒になる、マリア・アストールだ。喧嘩すんなよ」


 そう耳打ちすると、メリッサは自分のデスクに行ってしまった。

 ただ突っ立っているのもあれだ、俺はマリアに近づき挨拶をした。


「赤沼浩史です、よろしく」

「よろしく、私はマリア・アストール。マリアでいいよ」


 手を差し出すと、快く握手してくれた。

 俺より五歳位若い彼女の手からは、年上かつ男である俺より多くの修羅場を経験してきたことが窺える。

 何処かあどけなさが残る顔つきからは想像がつかないが。

 少し悪趣味かもしれないが、視線をずらしマリアのデスクを覗いて見る。

 煙草のパッケージ、銘柄はパーラメント。その吸い殻が盛られた灰皿。分解清掃途中のグロック17。銃のメンテナンス道具。使い込まれたジッポライター。ノートパソコンのスクリーンセーバーは、M16アサルトライフル。その脇に立ててある、写真立てにはSWATの服を着た集団の中に彼女が狙撃銃を持った写真が入っていた。

 二十歳はたちそこらの女の子のデスクとは思えない。


「そうか、だったら俺も浩史でいい」


 あくまでもフレンドリーにふるまうが、内心は目の前の女性に対する得体の知れない恐怖でいっぱいだった。


「じゃあ浩史、今日からISSの人間だ。ここ本部を案内しよう」

「ああ、頼むよ」

「わかった、少し待ってね」


 マリアは、デスクのグロックを素早く組み立てると腰のホルスターに仕舞った。鮮やかかつ、素早い動きに驚く。


「器用だな」

「こんなの朝飯前よ」


 煙草のパッケージをパーカーのポケットに突っ込むと、マリアは「来い」とジェスチャーする。


「最初はロッカールームからね」


 オフィスの片隅にある観音開きの扉。『ロッカールーム』と印刷された金属パネルが貼られている。扉を開けると、大人が一人すっぽりと入れそうなロッカーが壁際にズラッと並んでいる。


「ABC順に並んでいるから……ヒロシ、貴方のロッカーはこれ」


 『Hiroshi Akanuma』と書かれたロッカーを開けると、中には銃が三丁と弾倉入れ付き防弾チョッキがあった。

 一つ目はアサルトライフル。ベルギーのFNハースタル社製の5.56ミリNATO弾を使用するSCAR-L。

 二つ目はサブマシンガン。ドイツ、H&K社製の9ミリパラベラム弾を使用するMP5A5。

 三つ目はショットガン。イタリア、ベネリ社製の12ゲージ散弾を使用するベネリM4スーペル90。

 どれも特殊部隊用にカスタムされている。

 思わぬ銃器のラインナップに圧倒していると、ニヤリと笑いマリアは言った。


「独立愚連隊も楽じゃないわよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る