新天地編
ようこそアメリカへ
約十三時間のフライトを終え俺、
「お~……」
人生で初めての海外に、仕事を忘れ素直に感動していた。
右向いても、左向いても外国人、そして遠くにうっすらと見える高層ビル群、確実に日本と違う空気。
しかし、それを上回る緊張で体温が下がっていく感じがした。
「赤沼君、こっちですよ」
俺が緊張に押されていると、少し離れたところで
「ああ、すいません」
「まったく……でも、初めての場所に興奮するのは分からんでもないけどね」
デニソンは半笑いでそう言う。
「ええ、まぁ。……すいません」
俺が頭を掻きながら謝る。それとほぼ同時に、黒のSUVが俺達の傍に停まった。
「ハァイ」
運転席から出てきたには、茶髪ロングヘアーのスラっとした女性だった。人目を惹くという程ではないが、美人の部類に入るだろう。カジュアルな服装をしているが、腰に提げたホルスターと鍛え上げられた腕の筋肉のせいで、少なくともカタギの人間には見えない。
「アンタがヒロシ・アカヌマね。ISSアメリカ本部のメリッサ・トールよ、よろしく」
握手を求められた。
「ああ、どうも、よろしくお願いします」
何度も腰を曲げながら、握手に応じる。
「アンタには色々話すことがあるが、立ち話もアレだから車内で話そう」
メリッサは俺に後部座席に乗るよう指示すると、デニソンに車のキーを渡した。
「運転よろしく」
「わかったよ……」
デニソンは少し不満げな顔だったが、素直に運転席に付く。メリッサは俺の隣に座った。
車は走り出し、高速でマンハッタン方面に向かっている。
「さて、さっそくだけどアカヌマ、渡す物がある」
そう言って、ポケットから身分証明書、座席の下から革製のショルダーホルスターを取り出して、俺に手渡した。
身分証明書は、海外ドラマで見るような顔写真付きの物だ。顔写真は自衛官身分証明書の流用で、迷彩服姿の俺がこちらを睨んでいる。
「これを受け取ったからには、アンタはもう自衛官ではない、ISSの人間だ」
「……はい」
身分証を持つ手が震える。覚悟こそしていたが、それがこうして現実になると来るものがある。
そして、ショルダーホルスター。用途は……言うまでもない。
見様見真似で着けてみる。
「ほう、意外と似合うじゃないか」
「どうも……」
「しかし、Tシャツの上にそれだけってのもアレだ、シャツかジャケットでも羽織れ、不格好だ」
確かに、このままじゃ危ない。荷物の中から、モスグリーンのシャツを出し羽織った。
「それでいい……それじゃ、最後にこれを……」
メリッサは座席の下から更に、小さめのジュラルミンケースを出し俺の方に向けて開けた。
「…………」
その中身に思わず唾を飲む。
拳銃だった。
H&K社製 USP拳銃。装弾数十五発、九ミリパラベラム弾使用のオーソドックスなオートマチック拳銃。
その他にも、弾が入った弾倉が三つ。
ゆっくりと手を伸ばそうとしたら、メリッサはジュラルミンケースを俺から遠ざけた。
「待った、アカヌマ……一応聞いておくぞ」
「……何ですか?」
「銃の扱いは? 自衛官だったみたいだが」
「完璧……とまでは言えませんが、最低限なら」
「よろしい、ではこれはどうだ……貴様は、人に向けて銃を撃てるか?」
そんなもの、とっくに出来ていた。
「『戦う覚悟』でしょう?出来もしないことをしに、わざわざアメリカまで来ませんよ」
腹の奥底から引きずり出した、覚悟だ。
俺は、一度は国を国民を守る為に銃を握った。けれど、今はその国民が見ているまやかしを暴く為に銃を握ろうとしている。
それはある意味、安全を脅かすことかもしれない。でも、このままだといつかはそのまやかしは解けて安全な場所なんて無くなる。
それを防ぐのもある意味では人を守り、救うことに繋がるだろう。
「……よし、受け取れ。銃本体に弾は入ってない」
俺はスポンジクッションに包まれたUSPを取り、念のためスライドを引き薬室に弾が入ってないかを確認する。
弾倉は入ってない。グリップを握り、引き金に指が掛からないよう銃身に沿わせて置く。
「確かに、素人ではないみたいね」
感心したようにメリッサが呟く。
「当たり前ですよ……銃を粗末に扱おうものなら、物凄く怒られるんですよ」
「それはどこでも同じよ」
弾倉を銃に挿し、スライドを引き、弾を込める。
ガチャリ……と重々しい音が車内に響く。すぐに安全装置を掛けて、暴発を防ぐ。
ショルダーホルスターに銃を仕舞う。残りの弾倉もホルスターの反対側に入れる。
一通りの動作を終え、顔を上げると車はいつの間にか高速を降り、ビル群の間を縫うように走っていた。
「そう言えば、何処に向かっているんです?」
「ん?ああ、赤沼君、君の荷物を置くために、先に今日から住むことになるアパートに案内しようと思ってね。ISSのオフィスにも近いし」
車は、オフィス街からアパートが密集しているエリアへ曲がった。
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