振鷺(引用6:堂々たる士大夫)

振鷺しんろ



振鷺于飛しんろうひ 于彼西雝うかせいよう

我客戾止がきゃくれいし 亦有斯容えきゆうしよう

在彼無惡ざいかむあく 在此無斁ざいしむえき

庶幾夙夜しょきしゅくや 以永終譽いえいしゅうよ

 サギが翼をはためかせ、飛ぶ。

 西の沢に向けて飛ぶ。

 周の国に現れた来賓も、

 かのサギのごとき立派な出で立ち。

 彼は故郷でも敬愛され、

 また我が国でも尊敬される。

 どうかそのまま、朝と夜とに

 永らく讃えられ続けますよう。




○周頌 振鷺

詩序では当詩を宋公に比定する。宋公とは代々の殷王の祭祀を取り仕切るよう任ぜられた家柄である――と、詩序が語るわけであるが、正直なところそんなこと言われても、である。とは言えこの詩はいわゆる二王三恪、前代の王朝の霊廟をも尊重する儀礼について語っておるとも考えられよう。




■堂々たる鳥の威容

サギの姿が実に堂々としたものであるため、それを威容を示す諸侯に比定したのであろう。なおしばしばワンセットとなっておる「鴻漸」句は、六十四卦「漸(☴☶)」に出てくる言葉であり、慎重を期せば雄飛できる、的な意味合いを持つ。だいぶ強引に解釈せば当詩と合致せぬでもない気もせぬではないのであるが、さすがにそれをやるのは牽強付会にもほどがあるのやもしれぬな。


・漢書87.1 揚雄上

 鳧鷖振鷺,上下砰磕,聲若雷霆。

・後漢書60.2 蔡邕

 君臣穆穆,守之以平,濟濟多士,端委縉綎,鴻漸盈階,振鷺充庭。

・後漢書80.2 辺讓

 雖振鷺之集西雍,濟濟之在周庭,無以或加。

・晋書22 楽上

・宋書20 楽二

 振鷺于飛,鴻漸其翼。京邑穆穆,四方是式。



■夫の家族に信頼されてなんぼ


後漢書84 曹世叔妻 班昭

謙則德之柄,順則婦之行。凡斯二者,足以和矣。『詩』云:「在彼無惡,在此無射。」其斯之謂也。


漢書を書いた文学者班固は、その家族の文才もやばいことで有名であった。特にやばいのは妹の班昭。班固の漢書編纂の仕事を引き継ぐという、当時の女性としては驚天動地レベルの実績を残しておる。その彼女は一方で、「妻たる女のサバイバルガイド」たる『女誡』なるテキストを残しておる。その終章たる第七章で当詩を引用し「夫の家族に信頼されれば夫の家で生き延びられる」と語る。エグい。


ところで、せっかくなので『女誡』七章のあらましを紹介しておこう。


1:卑弱

柔らかな態度でヘリ下るべし。


2:夫婦

男児は夫たるべく、

女児は妻たるべく育てよ。


3:敬慎

妻は辛抱づよく寛容であれ。


4:婦行

婦徳(清閑・貞静・守節・整斉)

婦言(ことばを慎む)

婦答(身なりを清潔にする)

婦功(織物に励み、客をもてなす)


5:専心

夫一人を大切にする。


6:曲従

夫の両親に従順であれ。

我が意を押し通そうとするな。


7:和叔妹

夫の妹と仲よくせよ。

間接的に夫の家族に気に入られ、

ひいては夫に気に入られる。


……これまで国風で見てきた「妻は基本的にクッソアウェー」を改めて裏打ちするかのようで、地獄みが凄まじいな。




毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%8D%81%E4%B9%9D#%E3%80%8A%E6%8C%AF%E9%B7%BA%E3%80%8B

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