召旻(引用5:亡国の周)

召旻しょうびん



旻天疾威びんてんしつい 天篤降喪てんとくこうそう

瘨我饑饉てんがききん 民卒流亡みんそつりゅうぼう

我居圉卒荒がきょぎょそつこう

 天帝はその怒りを激しくし、

 天下へと災いを下す。

 我らは飢饉に苛まれ、

 民は皆流亡の途につく。

 我が国は、ことごとく荒れ果てた。


天降罪罟てんこうざいこ 蟊賊內訌ぼうぞくないこう

昏椓靡共こんたくびきょう 潰潰回遹かいかいかいいつ

實靖夷我邦じつせいいがほう

 天は網を投げかけるがごとく、

 あらゆるものに罰を与える。

 イナゴのごとき奸賊らが、

 国を散々に食い荒らす。

 まるで遠望なき者たちは

 己が職務を全うすることもなく、

 乱暴を働き、法を犯す。

 ああ、それが己が国を滅ぼす道と

 なっていることに気付かないのか。


臯臯訿訿こうこうしし 曾不知其玷そふちきてん

兢兢業業きょうきょうぎょうぎょう 孔填不寧こうてんふねい

我位孔貶がいこうへん

 頑迷無知なる王は、

 しかし己の過失に気付くこともない。

 王の振るまいが何を招くかを

 理解する君子らは戦々恐々とし、

 日々不安ばかりを募らせるが、

 却ってその地位より

 追い落とされる始末。


如彼歲旱じょかさいかん 草不潰茂そうふかいも

如彼棲苴じょかせいしょ 我相此邦がそうしほう 無不潰止むふかいし

 この年にあった大ひでりで、

 草木が枯れ果て、

 生えてこなくなったように、

 浮き草がふわふわと落ち着かぬように、

 この国を見れば、

 乱れておらぬところがない。


維昔之富いせきしふ 不如時ふじょじ

維今之疚いこんしきゅう 不如茲ふじょじ

彼疏斯粺かそしはい 胡不自替こふじたい

職兄斯引しょくけいしいん

 昔、国が豊かであった頃は、

 このような有様でなかったろうに。

 人々の病み、苦しむさまも、

 今のようではなかったろう。

 小人は籾殻のようなもの、

 君子は精米のごときもの。

 どうして小人に君子の換えが効こう。

 分不相応な地位に長々と居座り続け、

 ただ天下を乱すがままとする。

 

池之竭矣ちしけついー 不云自頻ふうんじひん

泉之竭矣せんしけついー 不云自中ふうんじちゅう

溥斯害矣ふしがいいー 職兄斯弘しょくけいしこう

不烖我躬ふさいがきゅう 

 池が干上がるのは、外から水が

 流れ込まぬゆえではないのか。

 泉が尽きるのは、底から水が

 湧き上がらなくなる故ではないのか。

 争乱の害がこうも広がるのは、

 小人どもが「よき水」を引き入れず、

 牽制を恣にしているからではないか。

 それがただ一人、我が身のみを

 害するというのであれば、

 まだよいのだが。


昔先王受命せきせんおうじゅめい 有如召公ゆうじょしょうこう

日辟國百里じつひこくひゃくり

今也日蹙國百里こんやじつしゅくこくひゃくり

於乎哀哉おこあいさい

維今之人いこんしじん 不尚有舊ふしょうゆうきゅう

 宣王が中興の功をなしたとき、

 側には召虎のごとき忠臣があった。

 召虎は大いに国土を拡大したが、

 今やそれが急速に狭まっている。

 ああ、悲しいことよ。

 今の人々が、いにしえのよきならいを

 尊ぶことはもう、ないのだろうか。




○大雅 召旻

単純に言えば「幽王が討伐される直前」となろう。最後の最後で召虎の名前を挙げてきたのには少々にやりとせぬでもないが、ここに挙がってくるのが申伯であれば最高に皮肉が効いていてよかった気がせぬでもないのだがな。いや、さすがにそれは洒落にならぬのか(※幽王を滅ぼしたのが犬戎と手を組んだ申伯の息子もしくは孫)。ともあれ大雅は文王により天命を受けた周が、代を追うごとに徳を減じ、厲王で最初の底を打ったところ宣王がそれをなんとか盛り返すも、次代の幽王がとどめを刺す、と言う西周王朝の一生を物語る歌たちであった、と言えよう。


ところで作者は先日劉裕の天命授与ルートを改めて調べたのだが、そのときに出てきた結論は「天命は徳高き王には確かに降ってくる、それはわりと子孫には関係ない、もし維持したければ精一杯善政をするしかない」であった。つまり子に徳がなければ別の徳高き者に譲るのが筋であり、その者の息子がまた徳高ければ息子に譲るのがよい、とされる。ともなれば魏や晋がどれほどクソであろうと、「天命下った者」すなわち曹操曹丕や司馬懿司馬師司馬昭司馬炎が偉大でさえあれば「その天命は正しい」となる。そしてこれらを「司馬睿が継承した」ので、白痴の安帝を皇帝に据えたからと言って、「徳高き」劉裕に譲られる天命の価値は一切毀損せぬ、と言うロジックが爆誕する。


正直こうして大雅をひととおり読んだ上で思うのだが、天命論は周の段階で詰んでいるような気もせぬではない。




■国土が削られる

日辟國百里、宣王がものすごい勢いで広げた国土を、今也日蹙國百里、幽王がものすごい勢いで縮めましたよ、と語るのである。そのため国難にぶち当たったときの議論に用いられることが多いようである。


・後漢書88 西域

 內無以慰勞吏民,外無以威示百蠻。蹙國減土,經有明誡。

・晋書77 評

 及其入處國鈞,未有嘉謀善政,出總戎律,唯聞蹙國喪師,是知風流異貞固之才,談論非奇正之要。

・宋書2 劉裕中

 道不常泰,戎夷亂華,喪我洛食,蹙國江表,仍遘否運,淪沒相因。

・魏書9 元詡

 師旅盤桓,留滯不進,北淯懸危,南陽告急,將虧荊沔之地,以致蹙國之憂。

・魏書42 韓秀

 此蹙國之事,非闢土之宜。愚謂敦煌之立,其來已久。




毛詩正義

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