江漢(引用14:宣王の名臣・召虎)
江水と漢水が合流し、水勢は盛ん。
もののふたちは進む。
安穏とする者も、
ぶらぶらとする者もない。
淮南の蛮夷を討たんと、
戦車には、旗が翻る。
のんびりとする者も、
気を緩める者もいない。
いざ、淮南の蛮夷を攻撃せん。
江水、漢水は盛んに流れる。
もののふたちはいずれも意気盛ん。
武威を振るい、成果を王に告げる。
各地が平穏となれば、
民の心も平らかとなろう。
戦争する者もいなくなり、
王もまた安んぜられよう。
江水漢水のほとりにて、
王は召の穆公に命ぜられる。
各地をその武威で切り開き、
土地の境を正しきものにせよ、と。
その土地の民を苦しめるためでなく、
速やかに事を運ぼうとするのでもなく、
ただ、正しき王に帰服させるため。
こうして土地の境界を定め、開墾し、
そして遙か南の海に至るまで、
王の威儀は到達する。
都に戻った穆公に、王は命ぜられる。
そなたは南土を巡り、
王威を高らかに宣言した。
そなたの先祖である邵公奭は、
文王武王がお受けになった
天命をよく支え、柱石となった。
予が文王武王の徳を継げておれぬ
小子であるにすぎぬ、と
自称するわけにもゆくまい。
我が元には、確かに邵公奭の
徳を継いだそなたがおられる。
そなたよ、そなたの仕事を
よくよく勤め上げられよ。
ここにそなたに、幸いを賜う。
与えるのは玉石の柄杓、
クロキビの酒一樽を賜う。
そして詩人らに歌わせよう。
すでにある召の地のほか、
更に山野をも賜う。
周が天命を受けたとき、
邵公奭も天命の補佐の任を得た。
そなたもまた、同じくあるように。
穆公はひざまずき、額を地につける。
そして宣言するのだ、
天子に万年の栄光あれ、と。
穆公はひざまずき、王よりの寵に答え、
邵公奭の徳を再建し、
併せて王の万年の栄光を祈る。
ああ、偉大なる宣王。
良き誉れが止めどなく沸く。
その言葉、その徳が、
四方の国々に矢のごとく行き渡る。
○大雅 江漢
召の穆公・姫虎。略して召虎。この辺りは完全に宣王名臣シリーズと化しておるな。ここで詩序は「宣王しゅごい! 宣王しゅごい!」ばかりを唱えておるが、それではこの配置の意味をやや損ねておるのではないか、と感ぜられてならぬ。いかに優れた王であっても、優れた臣下を使えねば何もできぬ。かく語られておるのではないか。
なお詩題「江漢」についてはあまりにも一般語に近すぎるせいで、やっべぇー爆発を決めていたため省略させて頂くこととした。一応件数だけ申し上げておくと左伝1、史記13、漢書8、後漢書7、三國志24、晋書28、宋書18、魏書8、世説1、合計108である。いやでござる。いやでござる。
■名将・召虎
「召公」「穆公」辺りは検索がしんどいので諦めた。特に前者は邵公奭がヒットしまくる。つらい。「名君を武で支えた名将」扱いであり、この辺りは三國志で張遼及び張飛が曹丕や劉備からそう讃えられていることからもうかがい知れよう。それにしても魏書が面白すぎる。鮮卑が匈奴うぜえを語るのに召虎を持ち出しておる。まぁ上奏している者が陳郡袁氏、用は漢族のド名門なので仕方ないのだがな。
・漢書22 礼楽
宣王中興,下及輔佐阿衡、周、召、太公、申伯、召虎 、仲山甫之屬,君臣男女有功德者,靡不襃揚。
・漢書54 蘇建 子 蘇武
皆有功德,知名當世,是以表而揚之,明著中興輔佐,列於方叔、召虎、仲山甫焉。
・漢書69 趙充國
昔周之宣,有方有虎,詩人歌功,乃列于雅。
・後漢書28.1 馮衍
昔周宣中興之主,齊桓霸彊之君耳,猶有申伯、召虎 、夷吾、吉甫攘其蝥賊,安其疆宇。
・後漢書85 東夷伝
厲王無道,淮夷入寇,王命虢仲征之,不克,宣王復命召公伐而平之。
・三國志9 曹真 子 曹爽
論德則過於吉甫、樊仲;課功則踰於方叔、召虎:凡此數者,懿實兼之。
・三國志17 張遼
文帝引遼會建始殿,親問破吳意狀。帝歎息顧左右曰:「此亦古之召虎也。」
・三國志19 曹植
今陛下以聖明統世,將欲卒文、武之功,繼成、康之隆,簡賢授能,以方叔、召虎之臣鎮御四境,為國爪牙者,可謂當矣。
・晋書3 司馬炎
處富貴而能慎行者寡,召穆公糾合兄弟而賦唐棣之詩,此姬氏所以本枝百世也。
・魏書69 袁翻
竊惟匈奴為患,其來久矣,雖隆周、盛漢莫能障服,衰弱則降,富強則叛。是以方叔、召虎不遑自息,衞青、去病勤亦勞止。
■張飛くんさぁ……
三國志36 張飛
・以君忠毅,侔蹤召虎,名宣遐邇,故特顯命,高墉進爵,兼司于京。
・『詩』不云乎,「匪疚匪棘,王國來極。肇敏戎功,用錫爾祉。」可不勉歟!
張飛が蜀の大幹部たる車騎将軍兼司隷校尉に任じられたときに劉備より受けた詔勅である。詔勅の前半で「お前は俺にとっての召虎だ!」とぶち上げているため、詔勅終盤では召虎をたたえる詩から引用する、と言った組み立てになっておる。……のは、いいのだが、その引用のされ方がネタ度満載である。先に後ろの二句を語れば「しっかり勤め上げたら、幸いが下されるだろう」で、これは大将軍にむけての激励と素直に受け取れるので、良い。しかし前の二句は「お前民や敵をいたずらに虐げんなよ、目的はあくまで王化だからな」である。張飛と言えば劉備からも「お前ひと殺しすぎだし鞭打ちしすぎだ、いつか意趣返し食らうぞ」と常々言われていたと“正史のほうの三國志に”載っている。つまりそういうお小言を、お国のトップに任じられた上でもまだ言われていたのである。それで結果配下に殺されているのであるから、もはや笑うしかない。
■精勤した者には幸いが
……と言う意味合いの句なのであるが、宋漢にせよ周挙にせよ、その死を悼む詔勅の中で用いられておる。どうにも「もっと活躍して欲しかったのに、こうも早く死んでしまっては与えられる栄光も与えられぬではないか!」的なニュアンスのようである。それにしても、前後の文章こそだいぶ違うものの、引用に絡む箇所のみを抜き出してみると「君たち、もうちょっと文章表現工夫しようか?」と思わせてくれるのが、実に良い。
・後漢書26 宋弘 族孫 宋漢
朝廷湣悼,怛其愴然。『詩』不雲乎:「肇敏戎功,用錫爾祉。」
・後漢書61 周挙
朝廷愍悼,良為愴然。『詩』不云乎:「肇敏戎功,用錫爾祉。」
毛詩正義
https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E5%8D%81%E5%85%AB#%E3%80%8A%E6%B1%9F%E6%BC%A2%E3%80%8B
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